スライムの王
くさった導きの先には…
くさった死体に導かれ、扉を抜けた。
そこには赤い絨毯を敷いた通路の先に、数段の階段があり、玉座に座し、王冠を被ったキングスライムが…
それは全て俺の妄想だったようだ。
ランプが数個の薄暗い空間。
壁面も天井も床も、天然の洞窟と大差ないデコボコな岩肌。
十メートル四方の室内。中央にシックな黒いテーブルが一つだけ。
スライムが制作したのか、他からの流用なのかはわからない。
そして、テーブルの向こう側。鈍色に輝く大きなスライムが鎮座していた。
ちょ、あれ?
王ってキングスライムじゃなくて、メタルキングなの?
そのテーブルの向かいには、赤いベホマスライム、ミルンさんの姿。
ミルンさんの姿を見て、ホッとしたのと同時に、どっと疲れたような気分になった。
だけど、俺の視線はメタルキングから離れない。
メタルキングは目を閉じ微動だにしない。
しかし、眠っていないのはわかる。
何か、引き付けられるような感覚がする。
くさった死体にミルンさんの横へ案内され、くさった死体はキングの横へ立った。
「こちらがこの地の王である、ローニ様です」
俺は咄嗟に頭を下げた。
これはきっと、「頭を上げよ」と言われるまで上げたらダメなヤツだ。
…
…
短い時間のようで、長い沈黙。
くさった死体が、「頭を上げてください」と言った。
こいつ、腐っていて、におう割に、よく通るいい声をしているな、そんな事を考えていた。
さっきまで、スライムナイトにビビってたのが落ち着いてきたのかもしれない。
「私はポチと申します。王との会話は私を通してください」
ああ、身分の高い者は、下々の民と直接会話しないとか、そんなのか?
てか、ポチさんですか……
「貴殿の事は、ミルンより聞いている。疑問への回答など、願いを聞き入れる事も、やぶさかではありません」
あれ?
メタルキングのローニさんは目も口も開いていない。
だけど、ポチさんはつらつらと喋り出した。
てか、マジでくさった死体が側近なのか。たしかに流暢に話せてはいるけど、ちょっとな…
「その前に、仕事を引き受けてはくれないだろうか?当然、強制はしないし、貴殿の選択に任せる」
そんな事をポチさんが言い出した。
これ、本当に王様の代弁をしているのか?
くさったポチさんの独断では…
まあ、実際にそうだとしても、この世界の知識を得るには、彼らの力を借りるしかないのか。
そんな事を黙って考えていたのだが、急にポチさんが
「えっ」
と言って飛び上がった。
釣られて俺もびっくりして、咄嗟にミルンさんの後ろに隠れてしまった。
違うんです。これは本能的に体が動くんです。
ミルンさんの顔が怖くて見られない……
「仕事の話の前に、一つだけ貴殿の疑問にお答えくださるとの事です……」
何か言い淀んでいるポチさんは、意を決したように声を大きくした。
「この世界ではない所から来た貴殿は、元人間。なので、人間のコアを取り込む事によって思い出していくだろう」
そ、そうか
薄々は「そんな感じ」なのではないかと思っていた。
人間のコアとはきっと、脳だろう。
元同族の人間を吸収していく事に対しての嫌悪感はある。
だけど、「人間を倒して吸収する」事に対する抵抗は、ほぼ無かった。
今の仲間であるスライムたちを、遊び半分で虐殺するような人間を見た後だからか?
「このスライムの森は人間たちに脅かされている。以前は森まで侵入する人間は少なかったが、最近は増え、森の仲間たちは数を減らしている。この人間たちをなんとかできないであろうか? 答えは今すぐでなくても構わない」
ふむふむ……俺は元人間だ。
だけど、俺は想像してしまった。
イムオが、ミルンさんが、人間たちに蹂躙される景色を
もしかしたら、人間に戻れるのかもしれない。
だけど、今の俺にとっての仲間の方が重要だ。
「やります」
俺はその場でそう返事をした。
隣にいるミルンさんが、一度だけ俺の方を見た。
目を閉じている王も、一度だけ頷いた。




