スライムの騎士とくさった紳士
王様が待っている…はず!
なんだかよくわからないけど、きっとこの先に王様がいるんだろう。
よし、行こう!
俺は「スライム」として生きていくのも悪くないと思い始めていた。
きっと人間には戻れないのだろうとも。
こんなファンタジー世界なら、人間の冒険者とかも憧れるけど、スライムになって、イムオやミルンさんといった仲間と知り合えて、「悪くない」と考え始めていた。
いたのだが……
洞窟の通路の先には大きな扉があった。
その前には緑のスライムに乗った騎士の姿。
あれは!
スライムナイト!
攻防に優れた初心者救済の英雄。
そんな風に思っていたのに。
「おう、てめえがミルンの姐さんとメタンが言ってたスライムか?」
あれ、何か違う。
落ち着いた低い声はステキなんだけど…
「我こそはスライムナイト。貴君に従い、共に旅をしよう!」
そんなキャラのイメージだったのに、彼も任侠系なのか?
乗られているスライムも、何か感情の無い、暗い目つきに見える。
ただのスライムの俺が戦って勝てる相手じゃない。
しかし、スライムナイトは腰の剣の柄を既に握っている。
まだ「抜いていない」だけで、やる気満々なのを隠そうともしていない。
ど、どうしよう。
「あ、あの、ミルンさんに王に会うように言われて…」
「ああ!?」
食い気味に言葉をかぶせてきたよ。
どうすれば……
「だいたい、なんでこんな、ただのスライムをおやっさんに合わせろって言うんだ?てめえに何が出来るんだ?言ってみろ」
ワ、ワタシは善良な市民です、絡まないでください……
威圧に負け、数歩下がった俺は、背後にいる何かにぶつかった。
「ひっ!す、すいません!」
「おい、しっかりしろや」
ぶつかったのはメタルスライムのメタンさんだった。
音もなくいつの間にか背後にいたようだ。
メタンさんは俺の前に出てきた。
「おい、ヤッスンよ。姐さんの客人だ。文句があるならあっしが聞いてやるぜ」
「メタンさんよ。こんなただのスライムを庇うとは、どういう了簡だ?ヤキがまわったか?」
メタンさんが「ジリッ」と僅かに動いたのがわかった。
「おい、てめえ。いつからてめえが客人を選ぶようになったんだ?門番任されて偉くなったと勘違いしてんじゃねーぞ」
「アンタもいつまでアニキ面してんじゃねーよ。老害が」
「ほう…吐いた言葉は戻んねーぜ!」
幻影のようにメタンさんの体が揺らぐ。
「やめろ」
その時、地の底から頭に響く声がした。
眩暈
その声と共に扉が開く。
扉の中から、一人の人影が出て来てメタンさんとスライムナイトの間に立つ。
「あなたたち、客人の前で失礼でしょう。わきまえなさい」
そう言って、二人を引き離すと俺の方を向いた。
メガネを掛けたその人物は、右手でメガネを直しながら、僅かに肉片を落としながら俺に頭を下げた。
「お客人。ウチのモノが迷惑を。ささ、王がお待ちです。こちらへ」
人型で、話は一番マトモだ。
しかし、彼の後をついて行くと、腐った肉片がぽろぽろと落下した。
服装や髪型は一応ちゃんとしているように見えるが…
この腐敗臭と、落下した黒みがかった肉片。
あれは、「くさった死体」ではないのか?
複雑な気分で、俺は扉を抜けた。




