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戦う魔法少女

話を聞き終えて、ディオは号泣していた。それにつられて葉瑠も泣き出し、岬もぐっと唇を噛み締めていた。妖精たちも思うところがあるのか、大きな目に涙を溜めていた。


泣いていないのはナリだけだ。一斉に皆の視線がナリに注がれた。


「……?」


「いいわよぉ、あんたも我慢しないで! うぅ。」


「別に我慢してない。」


「っ! あんた。強いのね!」


感心したように葉瑠に胸を叩かれ、ナリは怪訝そうに顔をしかめていた。


「今思えば、全部こいつらの策略だったんじゃないかって思うわ。」


そういって葉瑠が妖精たちを指差した。


『なっ! 冤罪も甚だしいだぷ!』


「だって、私が魔法少女を断った後に偶然少女が襲われるなんて、偶然にしてはできすぎじゃない。」


『ぎ、ぎくぅ、だぷ。』


「しかも、よく思い出したら女の子はオレンジの髪で、『み、キャァァァァァァ! 助けて!』て言ってたのよ。みょんでしょ? あの女。」


『み、み、み、み、えええ?』


「それよそれ。まさか……。自作自演てわけ? 確実に私と岬を魔法少女にするための?」


葉瑠がきっと妖精たちを睨み付けると、妖精たちは体を寄せ合って、涙目で葉瑠を見つめた。それには惑わされず、葉瑠がさらに目をきつく吊り上げる。


「あんたらが私たちを巻き込まなければ、私と岬はこんな思いをすることなかったのにっ……!」


悔しそうに唇を噛み締める葉瑠を岬が抱き締める。妖精たちも、しょんぼりと肩を下ろして下を向いていた。


そんな中、空気を読まないナリが立ち上がり、ディオに目をやった。


「……とにかく詳細はわかった。一旦持ち帰ってからイチ様と相談する。おまえは残って。」


「!」


『ちょ、きみ、帰るだぷか?』


焦ったようにぷぅたんが、ナリを見つめた。


『できるなら女の子に残ってもらいたいだぷ。』


「俺もそう思う。魔法少女になれるのは君だろう。」


「は? 私からイチさまにお会いする貴重な時間を奪うの? まずは貴様らから潰そうか?」


『『『いってらっしゃいだぷぅ/みょん/ぬん!』』』


すかさず、ナリはディオたちに背を向けると、スタスタと歩いていった。




    


「だから断る!」


『俺たちとしても御断り願いたいところを、採用してやるて言っているだぷ!』


「さっきは拒否しただろう!?」


『ああ、俺たちとしてもお引き取り願いたいみょん!』


『でもしかたないぬん! 女の子帰っちゃったからぬん。』


あれから魔法少女にスカウトされたディオはひたすらその件を断っていた。問題は魔法少年は認められず、魔法少女しか容認できないというところだった。なぜだか、魔法少女の力は少女にしか適用されないというのだ。


「そもそも、俺は男だから無理だろう?」


『心が女の子のケースは事例がないから、わからないだぷ。やってみる価値はあるだぷ。』


「いや、なんで誰でも彼でも魔法少女にしたがるの! あんたらは!」


「まぁまぁ、落ち着け、葉瑠ー」




オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!



「な、なんだ!?」


再び状況が収集のきかない方へと向っていたときだった。葉瑠たちのいる地点からはるか遠く、南の方からおぞましいうめき声が響くと同時に、地響きが伝わってきた。葉瑠、岬、ディオが一斉にその方角を振り替える。たちまち、人々の叫び声が響き渡った。


「都心の方からだっ! 葉瑠!」


「分かってるわよ! 変身っ!」


とたんに葉瑠の体が全身光に包まれていく。眩しさから目を瞑ったディオがその目を開けたときには、既に衣装チェンジを終えた葉瑠がものすごい速さで悲鳴のする方へと向かっていた。


「後を追うぞっ!」


すかさず岬が走り出す。それにつられてディオもその後を追った。


             ◇


ディオたちが到着したときには、既に葉瑠は戦闘真っ最中だった。自分の体よりも何十倍にもでかい巨体を相手に葉瑠が向かっていく。


大半の人々は逃げたようだが、中には逃げ遅れた人々がちらほらといるようで、葉瑠と化け物の戦いから身を隠すように、頭を覆ってしゃがみこんでいた。


「葉瑠が敵の気を引いているうちに、逃げ遅れた人々を救助するぞ!」


「わかった! だが、きみはやめておけ! 魔法は使えないんだろ?」


「力がなくたって、私も魔法少女の端くれだ! 」


そう言って岬が震える人々に向かって駆け寄っていく。それに引き続き、ディオも近くの少年に向かって走っていった。


「きみ、立てるか?」


「ママぁっ! ママっ! どこっ!?」


どうやら母親とはぐれたようだ。少年は母親を呼びながら泣きじゃくり、もはやディオの声すら届いていない様子だ。少年をディオが抱き上げる。


「とりあえず逃げるぞ!」


「やだ! ママと一緒じゃなきゃやだよ!」


「きみのお母さんは探すから!」


「ママぁ! お兄ちゃん、ママ探してぇぇぇ!」


「ああ!」


少年を抱えたままディオがより安全な方へと走る。女性の肩を支えながら前を走る岬が、ついてこい、とディオに手を振った。


ディオが岬の後を追えば、前方に大きな会場が見えてくる。そこはどうやら避難所のようで、逃げてきた多くの人が集まっていた。


「ここまでくれば安全ですよ。葉瑠が絶対ここに敵は越させません!」


岬が力強くそう言えば、岬に支えられていた女性は安心したようにその場にすわりこんだ。


「本当ですかっ?」


「……はいっ! 葉瑠は最高の魔法少女です!」


岬が歯を出して笑う。それに女性は完全に安心したように顔を緩め、岬に頭を下げた。


「少年、ここは無事みたいだから、ここでお母さんを待っていろ。俺がきみのお母さんを探すから、特徴を言ってくれないか?」


「うんっ! 黒髪のね、」


「ああ。」


「美人さん!」


「なるほど。他には……何かないか?」


「美人!」


「……ああ、ほ、他には?」


「世にも珍しい美人だよ!」


少年はもはや母親の特徴として美人としか言わない。それにディオは困惑したように眉を寄せた。美人の基準なんて人によって様々だ。黒髪美人ー。たったそれだけで少年の母親を探し出せる自信はディオにはなかった。


「ままはねぇ! 美人なんだ!」


「おや。きみ似の美人をお探しかい? だとしたら、こちらのレディかなぁ?」


ディオが完全に頭を抱えたときだった。少年の前に膝をつくディオの後ろから、ハスキーボイスが寄越された。声のした方をディオが振り替える。そこには緑の髪を後ろで結った少女と、年層高めな個性的な服装の女性が立っていた。すかさず、少年が走り出す。


「ママっ!」


「お! よかった!」


少女が変わったファッションの女性に抱きつけば、緑の少女がニカッと笑う。その後ろからブルーの髪をきれいに揃えた少女が上品に言いはなった。


「皆さまの避難は全員完了しました。」


「ありがとう、レイ! 春名!」


岬がお礼を言ってレイと呼ばれたブルーの髪の少女に抱きつけば、すかさず春名と呼ばれた緑髪の少女も二人に抱きついた。


そんな光景を見ながら、人々がこそこそと口を寄せあっていた。


「引退したと聞いたけど、やはり彼女らは真の魔法少女だよ。」


「しかし、なぜ引退したんだ?」


「知らないよ。だが、ああやって今も助けてくれるんだ。いいじゃないか、それで。」


「噂だと、力をなくしたらしいぞ。」


「なんでまた……」


恐怖とはまた違った意味で回りがざわざわと騒がしくなる中、一人の男の声が響き渡った。


「速報! 魔法少女、敵を退治したって!」


その瞬間、辺りが歓声に包まれた。


再び、辺りが魔法少女の話で盛り上がる。


「ほんとか!? 誰だ?」


「いや、報道陣がかけつけたときには、既に消えてたらしい!」


「ミナミンでしょ!」


「いや、我が推し、レナたんに違いない!」


「はぁ? ノノノ様だろ!」


ワイワイと魔法少女の勝利を喜ぶ人々を見ながら、なんともいえない表情で岬が俯いていた。それに寄り添うかのように、レイと春名が岬の背中を優しく撫でる。


「葉瑠が戦ったのに……。」


岬の嘆きは群衆に完全にかき消されていた。だが、ボソリと呟いた岬の不満を、ディオは聞き逃さなかった。


「今回戦ってくれたのは、葉瑠だ!」


いろんな声が重なりあって、もはやノイズとなった周囲に、ディオの低めの声が響き渡った。


「え! 元祖!?」


「嘘だろ? 今まで報道されなさすぎて、サボり魔とか言われてたよな?」


「まじ? それなら、今まで戦い終わったらさっそうと姿を消してたわけ?」


「だとしたらかっけー!」


「推し変はしないぞー!」


またもや興奮しだした回りに、岬が苦笑いでディオの肩を叩いた。


「サンキューな。」


「俺は何もしてない。」


「葉瑠ったら、僕たちが引退してからメディアを避けまくってるからね。」


「全く恥ずかしがりやな人です。」


春名とレイも、葉瑠を思い出したのか小さく笑みを漏らした。


そんな仲間を見ながら、岬がぼつりと呟く。


「もう、私がいなくてもいいな。」


その声は、誰にも届かなかった。

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