魔法少女
『はぁ。まじ魔法少女見つかって良かったぷぅ!』
紫の垂れ耳をピョコピョコと動かしながら、それはため息を吐いた。寝そべって駄菓子をつまみながら、それは再び口を開く。
『でもまだまだ戦力必要なんだよな……だぷぅ。』
『おい、キャラ外れてんぞ……みょん!』
『お前もだ! ぬん!』
オレンジ色をした恐竜のミニ人形みたいな見た目のそれがすかさずツッコむが、それもまた緑のゾウ人形のようなものに指摘されていた。オレンジ色がポリポリと尻をかく。それに緑色は口を屁の字にして「くさっ」と呟いていた。「ふってねぇだみょん!」とすかさずオレンジが言う。
メルヘンなのに、どこかおっさんくさい。第三者がみたら、そんな不思議な光景だった。
『ま、戦力はしっかり確保する方向でよろしくだぬん! あ、間違った、みょん!』
『いやまだ間違ってるみょん。お前はガビだみょん。』
『そうだったガビ………いや、ぷぅだ! ぷぅ!!』
「すまない………」
『謝るなだぷぅ。誰でも間違えるだぷぅ。』
『? まだ謝ってないし、これから謝るつもりもないみょんよ?』
「すまない……」
『謝ってるじゃないかぷぅ! 素直になれぷぅ!』
『は? だから俺じゃねぇみょん!』
「俺より僕がいいんじゃないか?……それとちょっといいか?」
『確かに! 愛くるしい妖精には僕がいいみょん! ありがとうー……みょん??』
三体が一斉に窓の方をみた。そして声が重なった。
『『『お前誰だぷぅ/みょん/ぬん!!?』』』
三体が目をやった先では、小さな窓の外側に銀髪の男のアップ姿が写っていた。姿こそ見えないが、他に一人いるようで、男の向こう越しからものすごい殺気を放っていた。それに三体がおびえるのを宥めるように、優しく銀髪の男がそれぞれの頭を撫でた。窓から手をいれてー。
小さな窓から無理やり手入れられたことにより、窓がピキッと嫌な音を奏でる。
「おどろかせてすまないな。大丈夫か?」
『こ、壊れるから手を……みょん……』
『諦めるなだぬん、みょんたん! てか、お前だれだぬん!』
『そうだぷぅ! ここは我らが妖精の隠れ家だぷぅ!!』
それらが隠れ家と称した場所は、まさに木の上にあった。魔法少女さえ入ることのない隠れ家は、到底人間サイズではない。すなわち窓から見える男は、どんなに優しかろうと内部から見たら恐怖以外の何物でもない。優しい巨人もどきに、三体が警戒態勢に入ったとき、別の声が外からかけられた。
「とりあえず出てこい……。通報されたら面倒……。」
『嫌だぷぅ!』
「……女装した大男が木の上で小さな家を覗いてる……つまり、目立ってる。貴様らの隠れ家バレるぞ。」
『『『でます!!』』』
三体が慌てたように隠れ家を飛び出した。
妖精たちが改めて侵入者二人を観察する。ポロシャツにズボンを着た銀髪の男と、殺気を放つピンク髪の少女だった。女装という割には男の服は至って普通だ。なんだ脅しか、と三体が安堵しながら顔を上げた。
そして見てしまったのだ。短い銀髪をさくらんぼの髪ゴムで結び、チークを塗った男を。
『怪物だぬん!』
『魔法少女を出動させるみょん!』
『きっついぷぅ!!』
「違うんだ。予算がないから仕方ないんだ。ところで魔法少女希望だ。」
『なんつぅ流れで魔法少女志願してるみょん? いや、無理無理無理無理! 魔法少女は女子じゃないとなれないんだみょん!』
「………女子だ。」
『『『全国の少女に謝れ!!!』』』
言い争う三体と男に、ナリの苛立ちは募っていく。彼女は一刻も早く、最愛の崇拝対象の元に戻りたいのだ。男が少女か少年かなんてめちゃくちゃどうでも良かった。
目的は魔法少女の戦いを間近で見ることだ。手っ取り早いのは潜入することだが、ディオの女装が通用しないなら仕方がない。
もう、脅すしかないのだ。
「もういい。要件を言う。魔法少女の戦いを見せろ。その男はどうでもいい。」
「え、じゃあ、俺は一体なんのために……」
『な、なに言うか! 部外者を関わらせるわけにはいかない! ……はっ! ぷ、ぷぅ!』
「なら…そいつを魔法少女に『それはもっと無理だぷぅ!』
「ちっ。なら…魔法少女にしなくていいから、とにかく魔法少女の戦いを見せろ。」
『めちゃくちゃな! そうだ! 君が魔法少女になるなら「耳ちょんぎるぞ。」……ぷぅぅぅぅ!!』
ナリが紫のそれの耳を片手で掴むとそのまま持ち上げた。ディオが慌てて止めるが、ナリがそれに答えることはもちろんない。
「こいつらは異世界から魔法少女を連れてきてた犯罪者だ。」
『『『!!』』』
「まだ決まってないだろう?」
「こいつらからは、異様な『匂い』がする。言うなら、各国特有の匂いが混ざった匂い。つまり、異世界の匂いが混ざってる。だから黒。」
「そうなのか。……すごいな、君。」
ディオが関心したように呟く傍ら、ナリが紫の耳を掴む力を強めた。自分たちが正体を知っていることと耳の存続について脅せば、それらはしぶしぶと語りだした。
『我らは魔法少女を使わす神の使徒ー妖精だぷぅ。モンスターたちが蔓延るこの世界を守るべく、魔法少女を手厚くサポートするのが役目だぷぅ。』
「足りなくなったから……外から少女補給したの?」
『魔法少女は誰でもなれるわけじゃないぷぅ。でも、この世界の魔法少女の数は、増え続けるモンスターたちに追い付いてない。仕方がなかったんだぷぅ。』
本当にしかたがなかった、というようにそれが頬を膨らませた。耳を掴むナリの手に、さらに力がが込められる。紫の妖精が悲鳴をあげたときだった。
「おい! あんたら大丈夫か?」
下から声がかけられた。青い髪を括った少女だった。部活帰りなのか、体操服を着ていて、肩からはラケットショルダーを背負っている。
「あ。魔法少女。しかも……この世界の匂いと同じ。……元祖魔法少女だ。」
『『『タイミングぅぅぅ!』』』
妖精たちの悲鳴が重なった。
◇
少女の名前は 岬というらしい。ナリの言う通り、一番最初の魔法少女だった。
木の下に腰掛けながら、岬は数々の戦いのエピソードを教えてくれた。どの話をするときも岬は楽しそうに生き生きとしていたから、よっぽど魔法少女という役割を誇りに思っているのだろう。
だが、ナリはどうでもよさそうに、岬に尋ねた。
「でも、あなた……今魔法少女じゃない。」
「なんでそれを!?」
驚いたようにナリを振り返った岬に、ナリは「血の匂いがしないから」とあっさり返していた。なんでもないように言われて、岬は諦めたようにくしゃっと顔を崩した。
「ふっ……ははは! また強い魔法少女が現れたようだ!」
「はぁぁぁ? また魔法少女増えたわけぇ!??」
岬が笑い出したとき、また別の声が聞こえてきた。木の後ろから少女が現れる。彼女は、オレンジの髪をサイドに結った、小柄な女の子だった。可愛らしい見た目とはうってかわって、その目には怒りが宿っている。
「葉瑠!」
「しかも男にまで手を出したとか! 信じらんない!」
葉瑠と呼ばれた少女は不機嫌そうに、オレンジの妖精を睨み付けた。
『ひ、久しぶりみょん。げ、元気だったみょん?』
「ふんっ! 裏切ったくせに! 信じらんない! 岬、行こ! どうせ、こいつら新しい魔法少女に構いっきりなんだから!」
「おい、葉瑠!! さっきから失礼だぞ!」
「なっ! だ、だってこいつらのせいで岬は!!」
ボロボロと泣き出した葉瑠に、妖精たちが焦ったように立ち上がる。そのまま、ゆっくり一歩ずつ後ずさる妖精たち。どうやら、隙をみて逃げ出すつもりのようだ。そんな妖精たちをナリは捕まえ、縄で括ると木から吊るした。
『『『え!』』』
「どこかで見た光景だな。」
どこか懐かしそうに目を細めるディオの横で、ナリが木から釣らされた妖精たちに銀の鋭利を散らつかせていた。
「私、無駄な時間が嫌いなの。さっさと何があったかだけ話して?」
『『『そ、それは!!!』』』
「話して、て言った……」
『『『ひぃっ!』』』
妖精たちを脅すナリと妖精に土下座する勢いで謝るディオに驚きながら、岬と葉瑠は顔を見合わせた。
「……ぷっ! あははは! すごいな、この人たち! なんか私たちみた「やめて。」……す、すまん。」
「ま、昔ばなしを人に語るのもいいかもしれないわね。」
一緒にされかけてすかさずきれながらも、葉瑠は話し出した。
◇
岬と葉瑠は最初の魔法少女だった。それは、岬と葉瑠が中学に入ったばかりの頃に、紫の妖精に出会ったことが始まりだった。下校時、二人がたわいもない話をしながら歩いていると、紫の生物が頭上から話しかけてきたのだ。語尾がぷぅのそれは「ぷぅたん」というらしい。
『最近のおもちゃはすごいなぁ。』
『岬、感心してないでいくわよ。なんかのドッキリだとしてもTVに映るのなんてごめんだわ!』
『ちょちょちょ、待つだぷぅ! 俺ぷは、世界を救う英雄の使徒。おまえたちには、魔法少女の素質があると見た!』
あろうことか、可愛らしい見た目のそれは、岬と葉瑠に世界を救ってほしいと初対面でお願いしてきたのだ。
純粋に世界を思って頷きかけた岬とは違い、葉瑠は警戒心を解かなかった。
『あんた誰? 岬と私を変なのに巻き込まないでよ!』
葉瑠の第一声はそれだった。とことん魔法少女を怪しんでいたのである。
『変なのて失礼だぷ! 世界を救う英雄に選ばれたんだぷよ? もっと喜ぶべきだぷ!』
『誰もが喜ぶと思ったら大間違いよ! 私は、世界なんてものよりも、友達と大切な人たちだけ守れたらそれでいいの! わかった? わかったなら、変なイベントに巻き込まないでちょうだい! このヘンテコリン!』
『へ、ヘンテコリン!?』
困ったように成り行きを見守る岬の手を葉瑠が取って歩きだしたときだった。
『み……キャァァァ! 助けて!』
どこからか女の子の叫び声が聞こえてきた。岬と葉瑠が声のした方を見れば、オレンジ髪の女の子が、見たこともない黒い物体に拐われようとしているところだった。葉瑠が状況を理解するよりも早く、正義感の人一倍強い岬は走り出していた。
『待ちなさい! 岬っっ!』
岬が構わず、黒い物体に掴みかかる。女の子を開放させようと必死に物体に殴りかかる岬を、葉瑠は真っ青になって見つめていた。
『っ、い、いや! う、動かなきゃ、助けなきゃ!』
『無理だぷ。おまえら人間は、あれに叶うはずないだぷ。逃げるだぷ。おまえだけでも、さあ。』
『嫌よぉ! た、助けるんだから、い、いや!』
ガクガクと足を震わせながら抵抗する葉瑠に、紫のそれは言った。
『一つだけ、友人を助ける方法があるだぷ。』
『な、なに!?』
『魔法少女になって、魔法を使うだぷ。』
怪しさとか、恐怖とか、そのときの葉瑠には一切なかった。ただ、大事な友人を助けたい、それだけだった。
『やるわ!』
『契約完了だぷ!』
とたんに、葉瑠の体が光に包まれていった。葉瑠のオレンジの髪を、体を、暖かい光が優しく覆っていく。数秒後、そこにいたのは派手な衣装に身をくるんだ葉瑠だった。
『これで、俺ぷの話がヘンテコじゃないとわか『早く戦い方を教えなさい!』……はい。』
『まずは、そのスティックに力を込めるだぷ! イメージが大事だぷよ。』
とたんに葉瑠の指先に光が凝集し出した。
『とんだ才能だぷ! そのまま、放出のイメージで力を発揮するだぷ! 物理的にも強化されているから、肉弾戦もおすすめだぷ!』
言われた通り、葉瑠は身体能力が増加していることに気づいていた。足に力を込めて飛び上がる。
友人を飲み込まんとしている化け物めがけて、葉瑠は足を振りかざした。
『私の友達を放しなさいよぉ!!』
次の瞬間、葉瑠の蹴りをくらった化け物が吹き飛ぶ。重力に従って落ちて行く岬と少女を、葉瑠が抱き止めた。
『っ、葉瑠? 葉瑠が助けてくれたのか? ……おぉ、なんだその格好は……。』
『! したくてこんな格好してるわけじゃないわよ!?』
『ふっ、ははっ、ありがとう。』
『お姉ちゃんありがとう!』
二人そろってお礼を言われて、葉瑠の顔が緩んでいくのを波瑠自身感じていた。
その後、岬と葉瑠が正式に魔法少女になるのは必然だった。
数週間後には魔法少女にもすっかりなれて、魔法少女の戦いは、岬と葉瑠の日常の1コマになっていたのだ。
大変で恐ろしい思いもしたが、充実した日々ー。
新しい仲間も迎え、岬と葉瑠は魔法少女としての任務を確実にこなしていた。
そんな日常が壊れはじめたのは、魔法少女が「外の世界」から連れて来られてからだった。これまでと明らかに違う敵に、違った考え方の魔法少女たちー。世界は確実に変化を迎えていた。
魔法少女としての戦いにも慣れてきたとき、葉瑠と岬に新しい仲間ができた。その名をレイと春名という。4人でなんとかモンスターを倒しながらも、敵はひび増え続けていた。
増加する敵に焦ったのだろうか。いつからか妖精たちは外から魔法少女たちを連れてくるようになった。
新しい魔法少女たちは常に対価を欲しがった。秘密裏に魔法少女に変身していた岬たちとは違って、新しい魔法少女たちは常にマスメディアに姿を表していた。魔法少女が商品となり果てたある日、都市中心部のビルがモンスターに襲われる事件が起きた。その日のモンスターはたちが悪く、葉瑠たちはもちろん、新しい魔法少女たちですら攻撃が全く効かなかった。
『っ! あんたたちに活躍のチャンスあげるわ!』
そんな中、魔法少女の一人が葉瑠を敵の前に押し出したのだ。
『なっ!』
いきなり背中を押されて、波瑠がバランスを崩した先に、怪物が口から放った闇魔法が波瑠に向かっていった。
『危ない!!』
とっさに岬が波瑠を庇うー。
防御魔法で岬が攻撃をなんとか塞ぐも、岬の体はボロボロだった。
岬が波瑠を庇ったときできた隙を利用して、モンスターは他の魔法少女たちによって倒された。その一瞬をカメラが捉えたとき、新しい魔法少女たちは称賛を浴びることになった。
だが、一方で岬の傷は致命傷だった。泣きじゃくる葉瑠には構わず、魔法少女たちはマスコミへの勝利報告へと向かっていく。そんな中、レイと春名は岬を救うために、魔法少女の力を全部彼女に与えたのだ。岬は一命は取り留めたものの、魔法少女の力を失い、同様に力を与えた二人の少女たちも力を失った。
結局、元祖の魔法少女は葉瑠だけになったのだった。




