魔法少女、いきなり減る
なんて女性は逞しく、強いのだろう。
ディオはそう思わずにはいられなかった。
◇
【【モンスターが建築ビルで暴れています!ビルの上階は完全に破壊され、逃げ遅れた人は危険にさらされています。被害が拡大する前に、一刻も早く魔法少女の到着が望まれます!】】
上空のヘリコプターから、報道記者が町の惨状をカメラに向かって説明していた。
【【モンスターがビルに向かっていきました!魔法少女、間に合わないのかー】】
カメラが、逃げ遅れた人々の姿を捉える。淀んだ色をした怪物が、震える人々の方へゆったりと歩いていった。人々の顔を覆う絶望の色に、モンスターはにたりと厭らしく笑った。
「た、助けてくれ!!」
「パパ! 死にたくないよぉ!」
絶対絶命のピンチに、人々は完全に怯え、SOSを出し続ける。だが、肝心の助けはこない。半ば、諦めのムードが漂い始めたとき、甲高い悲鳴が響き渡った。人々めがけて、モンスターの鋭い手が降りかざされた。
緊迫した状況を、マスコミが伝える。
【【モンスターが!つ、ついに、その巨大な腕を人に振り下ろしました……魔法少女、間に合わなかったのか!? そんなっ!!……あ、あれはは!?】】
誰もが絶望したときだった。モンスターと人々の間に、カラフルな光が入り込むのをカメラがとらえた。興奮したように、レポーターが叫ぶ。
【【ま、魔法少女だぁぁぁ! 危機一髪!! 魔法少女が人々を救いました!】】
◇
メディアには、魔法女子6名がモンスターを撃退した旨がさっそく掲載されていた。だが、実際にモンスターを倒したのは、他でもない葉瑠だ。到着と同時に、他の魔法女子はあたかも戦っているかのように派手な光を放出させてはいたが、実際モンスターに対峙するという危険な任務に当たったのは葉瑠ただ一人だった。
だが、カメラが捉えたのは、派手な演出を施した他の魔法女子たちの方。
事実無根の報道に、葉瑠は苛立ちをぶつけるように、魔法少女の旧オフィスの扉を開け放った。
「くそくらえ!」
バン!
「おかえり。」
「いや、なんでいるのよ!」
理不尽な戦いから帰還すれば、誰もいないはずの旧オフィスにエプロンをはめた銀髪の男がいたのだ。葉瑠の苛立ちが募るのも無理はない。
「あれから妖精たちに10回くらいかけあってな、ありがたいことに魔法少女にはなれなかったが、マネージャーにしてもらった。とにかく、きみたちのイメージを守るためにも、カメラにばれたらだめらしい。新しい魔法少女のオフィスだとばれる可能性が高まるから、きみたち……最初の魔法少女が使っていたオフィスにいるように言われた。」
「あんの、妖精たちがっ!」
「まあ、とにかくお疲れ。昼食を食べてくれ。栄養と筋肉バランスを考えたメニューだ。」
「天然か!」
「ああ! 天然のマグロを使用したお茶漬けだ!」
「そっちじゃないわ! アホウ!」
何度かつっこむと、葉瑠は疲れたように近くのソファに腰をおろした。
「てかあんた、余計なことしてくれたわね。」
「?」
「この前モンスターと戦った魔法少女が私って出回ってんのよ。」
「いいことじゃないか。」
「岬たちが知ったらどうなると思う? 一人だけ魔法少女として生き残った私がちやほらされてたらっ!」
バンッと勢いよく葉瑠が机を叩いた。机の上にあった醤油がコロコロと転がっていく。
「きみの仲間はそんなこと思わないだろう?」
「っ……わかってるわよ。でも、なら……なんで岬連絡くれなくなったのよ。急に……。レイたちに聞いたら元気だっていうけど、私には何も……」
「とにかくきみは間違ってはいないさ。」
「……なんなのよ、あんた。ここにはどうせ私しか残っていないんだから、新しい魔法少女たちの世話をしてきたら?」
「もうしてきた! カメラはなかったから安心しろ! それに同じお茶漬けだ!」
「どうでもいいわよ!」
半ば切れ込みに葉瑠が返せば、ディオは困ったようにお茶漬けを見つめていた。食べないとはいっていない葉瑠がお茶漬けを奪ってそれを一気に平らげる。無言のまま、空間にはテレビの音だけが流れていた。
【速報です。各地の警察署にて、数件の行方不明事件が報告されていることが分かりました。現時点では、全国合わせて27名が行方不明となっているようです。モンスターが犯人か人間の仕業かは不明とのことです。警察は魔法少女への依頼も検討しているようです。】
アナウンサーの「魔法少女」という言葉に葉瑠が反応し、顔を上げる。テレビに、人気魔法少女として紫髪の少女の写真が映っているのを見たとたん、葉瑠がガチャリと茶碗を乱暴に置いた。それにディオが驚いたように肩を縮こまらせる。
「まぁた魔法少女! 魔法少女じゃなくてアホウ少女でしょぉがっ!!」
「そ、そうか……その……おいしいだろうか?」
「しかも、写真がよりにもよって大っっ嫌いな新魔法少女とか! ざけんじゃないわよっ!」
「ちょ、テ、テレビを置くんだ! 持ち上げるもんじゃない!」
「わかってるわよ! 私が大嫌いでも、彼女たちがいないと人々は守れないのくらい! けどむかつくぅぅぅ!!」
テレビを持ち上げたまま葉瑠が発狂していると、ガチャリと事務所のドアが開け放たれた。ディオが助かった、といわんばかりに扉の方に目をやる。だが、助け船と思われたそこには、まさに先ほどテレビに映っていた少女が腕を組んで仁王立ちしていた。
やばい、とディオの額を冷や汗が流れる。
「誰……?」
テレビを持ち上げた葉瑠は扉には背を向けている。だからこその問いだったが、ディオには「テレビに映っている少女です」とは口が裂けても言えなかった。必死に言い訳を考えるディオにはお構い無しに少女が口を開く。
「いや、その……「お久しぶりね、元祖さん?」
ディオをガン無視して中に入ってきたのは、例の紫髪を左右にカールさせた少女だ。その後ろからは、茶髪ロングヘアの小柄な少女と、赤髪ベリーショートの日焼けした少女が顔を覗かせていた。
「この声は天敵ね!……何のよう?」
「っ……全くあなたはいつまでそうなのかしら。古参のプライドのつもり? いつも私たちと自分は違うっていう態度が見え見えですのよ。」
「岬を傷つけたあんたらなんか……」
「まぁ! あんたらって……外からやってきた魔法少女がいったいいくらいると思いますの? それら全部と私どもを区別しないなんてナンセンスですわ。」
紫髪の少女は相当お怒りのようだ。きっと目を吊り上げると、葉瑠目掛けてズカズカと歩いていった。今だテレビを持ち上げたままの葉瑠の後ろに立つと、その肩を紫髪の少女が叩いた。
「な、なに……?」
「灰野上 亜利砂。私のお名前です。」
紫髪の亜利砂という少女が名乗れば、茶髪の少女と赤髪の少女もそれに続かんとばかりに、口を開いた。
「私、美山 美乃。よろしくね~。余計なお世話かもしれないけどぉ、テレビ置いたらどうかなぁ? あ、ごめんなさいごめんなさい。でしゃばりましたね!」
茶髪の髪をピンで留めた、ふわふわとした少女が慌てて謝れば、葉瑠が反応するより早く赤髪の少女が大きくため息をはいた。
「ったく。……米山 文月。」
「それだけなの~? 葉瑠ちゃん、困惑しちゃうよぉ?」
「私のこと知ってるの?」
「元祖魔法少女が有名じゃないわけないでしょう?」
呆れたように亜利砂が言えば、すかさず美乃が口を挟んだ。
「亜利砂ちゃんは、葉瑠ちゃんたちに憧れてるんだよ~!」
「なっ! 美乃っっ!」
思いがけない暴露に亜利砂が真っ赤になって反発するのを、きょとんとした目で葉瑠が見つめていた。それに呆れたように文月がため息をはく。かれこれ二度目のため息だ。
「ったくよぉ。おい、おまえ、うちらと手を組めよ。うちだって嫌だぜ? こいつらとつるむのは。だが、自分たちの意思とは別にうちらは団結する必要があるんだよ。」
「実はね~、魔法少女になり戦うことを自ら決心した子とぉ、自己PRのためだけに魔法少女の肩書きを利用している子で二分化されているんだ~。私たちは前者なの。だから、戦う意志があるもの同士で団結したがいいと思うんだぁ。だからといって、ただそれだけのために葉瑠ちゃんに声をかけたんじゃないわよ? タイミングがずれちったけど、私たちはずっと葉瑠ちゃんと仲良くしたかったんだ~。」
真っ直ぐ美乃が言えば、葉瑠はたじろいたように視線を外すと、ディオをガン見した。
「ふぅ。ゲテモノがいると冷静になれるわね。……そうね。魔法少女でも戦う気がない子がいるのは知ってたわ。正直、そういう子はいらないのよ。だけど、どうやって分別するのよ。きっぱり2つには分けられないでしょ。」
葉瑠が言えば、亜利砂も悩ましげに眉を寄せていた。それに遠慮がちにディオが手をあげる。
「なぁ……」
「なに!?」「なにかしら?」「んだ、てめえ。」
「……き、君たちが本気なら、俺のトレーニングを受けてみないか?」
若干震えながらディオが言えば、三つの鋭い眼差しが疑うようにディオによこされた。
「あんたも確か闘う側なんだったわね。」
「いいぜ、見せてみなよ。」
葉瑠と文月が値踏みするようにディオを見る。それにディオは小さく頷いた。
◇
ディオのトレーニングは過酷だった。
「まずは腕立て伏せ1000回に腹筋1000回! それぞれ10分以内に! クリアできなかったらやり直しだ!」
ディオがそう呼びかけた時点で、107人いたうちの37人が棄権した。中にはしぶしぶやる者もいたが、そういう者こそ結局途中でリタイアした。10分後には、残り46人となり、そのうちやり直し対象者は35人。そのうち15人が脱落した。
「うん。そこまでだ。クリアできなかったやつも問題はないぞ。中には物理的な戦闘がメインでない者もいたが、それでもトライしようとした。その心がけが大事だ。」
そうディオが言えば、美乃がボロボロと泣き出した。
「よかったぁぁ! 私、サポート型だから、どう頑張っても20分に2000回は無理なんですぅ……失格にならなくてよかったあ!」
この時点で残りは20人。しかし、さらなるディオの指示に、参加者は半減することとなる。
「次は、200kmの崖を登ってもらう。リタイアするやつはいるか?」
ディオの確認に大半がリタイアし、残りは8名となっていた。
200kmの崖を上り終える頃には日はとっくに沈んでいた。だが、ディオのスパルタはそこでは終わらない。
次は精神主義と名付けて、どんな状態でも精神を乱さない訓練がなされた。それぞれの苦手なものや恐怖に立ち塞がっても、精神を統一する訓練だ。
その生還者はわずか5名だった。
「ラストは実践だ。これらのトレーニングを全て完了した上でなお、魔法少女として戦いたいものは名乗りをあげろ。」
ディオの言葉にざわざわと辺りが騒がしくなった。
「ちょっと、あんまりよっ!」
「そうだわ。私たち、わざわざこの世界に連れてこられたのよ? それなのに、トレーニングが完了できなかったら魔法少女の資格を剥奪するとか、あんまりだわ!」
不満が少女たちの口からこぼれでる。
「ああ。きみたちの言い分も承知している。だが、魔法少女やヒーローというのはそれくらいの覚悟がないと自分や仲間を傷つけてしまうんだ。きみたちは女の子だ。なにも無理して戦わなくてもいい。ただ、それでも戦うことを決心したものは、最低限自分を守れる力をつけてほしい。」
ディオの言葉に、少女たちからそれ以上愚痴が出ることはなかった。代わりに、少女たちはやってられない、といわんばかりにぞろぞろと姿を消していった。完全に静まりかえった中、残ったのは亜利砂、美乃、文月、葉瑠のたった4人だった。
『るんるるーんだぷぅ!』
『魔法少女の気配が1ヶ所に集まってるて思ったら、なにしているみょん?』
『僕らも混ぜるぬん!』
妖精たちが、鼻唄を歌いながら先ほど魔法少女が集結していたオフィスの大広場にやってきた。
『あれ、今日はえらい数が少ないぬん……』
「他の子は止めたわよ。」
『ぷぅ!?』『みょん??』『ぬん!!?』
葉瑠の言葉に、3つの妖精から悲鳴があがった。
『な、な、な、な、なんだって?』
『魔法少女が4人になっただぷか!?』
『大変なことになったぬん!』
あわあわとあわてふためく妖精たちに、亜利砂が笑い出した。
「おほほほほほほ! いいじゃありませんの!」
「うちらだけで十分てことをわからせてあげるぜ!」
文月も挑発げにそう笑う。葉瑠は呆れたように、美乃はオロオロと二人を見つめていた。
ちょっと、ディオがフェミニズムに反するような発言やっちゃってますが、許してあげてください。馬鹿正直なんです。
ディオみたいにはならないぞ、と心の内に思っていてくださいな。




