What do you think about a evidence of existence?
大きく口を開け、眠そうに本を読む彼。
「教科書って退屈だよねぇ…。やり方しか教えてくれないし、面白味が全くないもの。」
むしろ教科書に面白味があると邪魔なだけでは?
「とはいえあったらあったで邪魔か。」
彼はすぐに発言を訂正した。
「ウィル、こんな時に悪いんだけど……。」
「…?」
ウィルたちは今、いつもと同じく物語のテープを集めていた。今回は4つ。今回の修正する物語は桃太郎だ。その内容は説明するまでもないだろう。
今集まっているテープは3つで、必要な数の残りは1つだ。今二人が歩いている山道は、主人公の桃太郎が、家来となる犬と猿と雉ら3匹と出会った所である。
「…アーサー?」
「……ディファーグさんのお話しを聞いて、思い出したのです…。」
ディファーグさん…数日前に会った歴史の本棚の館長だ。あの後もグロアという女性について色々なことを聞かせてもらった。やはり自分の娘が可愛く、愛していたのだろう。
「思い出したって…なにを…?」
「……“物語のテープ”…あの人は……ウィルと同じく、壊れた物語の世界を修正していた……。」
「え…?」
この事ができるのは自分だけだと思っていた。何故なら、いつも物語の世界に入るときは必ず特製のモノクルに触れなければならないからだ。しかもそれは代々あったのではない。魔法でイタズラされたり、ページを破られている本を直すために自分で作ったものだ。
ゆえに彼は、彼自身の耳から入ってきた情報を疑った。
「そう、姫の言う通りだ。」
すると、どこからか聞き覚えのある男の声がした。
「そして…この物語のテープは、人々の記憶から出来た魔力の結晶……。それは…“不可能を可能にする”ことができるほどに強大な力……。」
そう言いながら木陰から現れたのは、身なりの整った男で、その顔は既に知っている。
「ヴィンセント……!!」
彼は黒い笑みを浮かべながら、手にある物語のテープを眺める。
「俺たちには体はない。だからこそ、現実に存在することは“不可能”というわけだが…。」
不可能を可能にする…ウィルは嫌な予感がしてすぐに本を開き、魔法を発動させる準備をした。
「お前に近付いたのもそのためだ、アーサー。お前は何故か物語のテープの在りかを察知することができる。」
行く先々で出会うのは、アーサー姫を探していただけでなく、彼女が居るところにテープがあると踏んで追ってきていたということだ。
「そんなに現実世界に行きたいのか…? 理由はなんだ…?」
ウィルが奴を睨んだ。
「…俺たちに物語はない。『囚われのお姫様』という物語は存在しないんだよ…! 俺たちは…どの世界にもいない…。幼い頃のグロアが誰かを見て、想像したことによって生まれた虚像だ…。 俺は…“存在している証拠”が欲しい…!」
「………。」
「俺は…“お前の前に立っている”…。」
以前会ったときは自分を“私”と呼んでいたのに、今回は違う。感情的になっているのかもしれない。ウィルはとっさに牽制魔法を放った。牽制魔法とは、いわゆるただの光の球だ。それを飛ばして相手を牽制する。ダメージを大して与えることはない。
ヴィンセントはそれを、素手で殴って無効化させた。
「俺は……俺は想像上の存在じゃない…! 」
物語のテープを胸部の真ん中に持っていくと、それを押し込んだ。
「よせ!!」
ウィルの制止は既に遅かった。
「…はぁ…これが……強大な力…!!」
金色の光が体から溢れると、ヴィンセントは高笑いしながら姿を消した。
「まずい…。」
「物語のテープがこの世界からなくなったらどうなってしまうのです!?」
「…分からない…! 少なくとも物語は狂ったままだと思う…!」
世界が揺れた。地面だけではなく、空も揺れている。すると間も無く、まるでヒビが入ったガラスのように、空間に線が現れた。みるみるうちにそれは広がってゆき、まるで割れたかのように壊れていく。
「まずい…一旦逃げよう!」
ウィルはそう言ってアーサー姫の腕を掴み、モノクルに触れた。
現実世界に戻ると、ウィルが勤めていた図書館は荒れ果てていた。
館内のすべての本棚は倒れ、中に置かれていた本は散乱している。焦げの臭いも充満しており、不快感をおぼえた。酷い様子に絶句していると、奥で倒れている係員を見つけた。
「大丈夫ですか!?」
その人に駆け寄って声をかけると、微かな声でウィルの名を呼んだ。怪我をしているために立てそうにない。ウィルは係員の女性を安全な所へ退避させる。
「…どんな人がここを…?」
彼女は静かに頷くと、外の方を指さした。
「…本から……出た、人……」
そう、恐らくこうしたのはヴィンセントだ。
ウィルは彼女の肩を2回優しく叩くと、すぐに個人の携帯から救急車と消防車を手配しようとしたが、繋がらない。それにイライラしていると、奥の方からドアを蹴り破った男性の利用客が現れた。
「大丈夫か!?」
その人は急いでこちらに向かって来た。
「すみません、ここは任せてもいいですか…?」
ウィルがその男性に言った。
その人は女性係員の足の怪我具合を見たあと、歩けなさそうであることを察したようだ。
「任せるって…君は…?」
「…外を見てきます…!」
「…分かった…!」
男性は力強く頷いた。ウィルは立ち上がり、その場を離れる。
今ここに“相棒”はいない。彼は愛用の本を持って外へ赴く。
目の前に広がっているのは、フェイクキャラクターらと警察が戦っている場面だ。
赤ずきん、おおかみ、シンデレラ…今まで戦ってきたそれの他にも、鼻が長くて狂人のような表情をした木の人形…ピノキオや、上半身が2つに分かれ、それぞれが老人と若者になっている男…恐らくその服装からしても浦島太郎等がいた。警察らは牽制魔法や、銃で応戦しているようだが、それでは倒せない。
「ヴィンセント!!」
ウィルは珍しく感情的になって声を荒げて彼の名前を叫んだ。
本を開き、魔法を発動させる。炎上魔法だ。それをフェイク赤ずきんにかけるが、びくともしなかった。
「…! これなら…!!」
今度は爆発魔法だ。それを同じくかけてみるが、その反動で一歩退くことしかない。
「嘘だろ…!?」
彼は絶望しかけたが、本から召喚魔法で剣を取り出して近くにいたピノキオに斬りかかる。ゆらりとした動きで避けられ、強力な一発をモロで受けてしまった。地面に転がり、それによってできた土埃を吸ってむせる。起き上がろうとする彼の腹部を、誰かが蹴り飛ばした。
猿、豚、河童…それらを従える僧侶の姿が確認できた。
「う、うぅ……!」
「大丈夫か少年!」
誰かがそう言ってウィルを助けた。男の人だ。その人は、防弾チョッキを身に付けており、ライフルを構えて連射した。どうやら軍が動く騒ぎになっているらしい。
「すみません…!」
「早く安全なところへ逃げるんだ!」
マガジンと呼ばれる、いわゆるこれから撃つ弾丸が入っているケースを交換して操作し、再び猿を撃つ。これをリロードと言うらしいが、ウィルはそれを初めて見た。
「少年!」
「……っ!」
ライフルを以てしてもダメージは入っていないようで、ただ連続で発砲する音だけが空に響く。
何もできないことが非常に悔しいが、ここは軍人さんの言うことに従うしかない。自分が頑なに動かなかったらこの人にも危険が及んでしまう。
ウィルは急いでその場から離れようと動いた。
幻実の本 #6 What do you think about a evidence of existence?
残された話数もわずかとなってきた。
「さて、いよいよ4話か…! 楽しみだね!」
彼は満面の笑みを浮かべてそう言う。
「……今日は…満月だったんだ…。」
「……綺麗だな……」
「…みんな…元気かな……」
「もうすぐ…会えるかな…?」




