第4話:三浦沖の攻防
夏の夜明け前。
漆黒の三浦沖に、朝靄が立ち込めていた。
静寂を破り、古びた木造漁船『康栄丸』のディーゼル音が響く。操舵竿を握る康児は、くわえ煙草の煙を細めながら、海のグラデーションを見つめていた。
「へッ……来たな」
康児の呟きと同時に、ソナー代わりの魚群探知機が異様な反応を示す。海流の隙間を縫うように、音もなく接近してくる影——ジャック率いる最新鋭隠密潜水艇だ。
潜水艇の艦橋で、リーダーのジャックが眉をひそめる。
「隊長、前方に地上の小型漁船を一隻確認。ですが……異常です。こちらのステルス航行のルートを完璧に先回りして塞いでいます」
「ただの漁師ではないな。……警告信号を送れ。退去しなければ強制排除する」
ジャックの冷徹な指示により、海中から指向性の超音波ボイスが康栄丸の船底を揺らした。
『これより先は警戒海域である。直ちに船を反転させよ』
だが、康児はニヤリと笑うと、思い切り舵を切った。
「誰にものを言ってやがる。ここは俺の庭だ!」
康栄丸が大きく横傾斜し、強烈な引き波(スクリュー波)を発生させる。三浦の複雑な潮流と浅瀬の暗礁を知り尽くした康児の神がかった操船術により、海中に巨大な「潮の壁」が作り出された。
「なっ……!? 潜水艇が潮流に足を取られている! バランスを保てません!」
「バカな……最新鋭アクティブソナーの裏をかき、潮流だけでこちらの進路を完璧に崩したというのか!?」
ジャックは目を見張り、モニターに映る木造船の影を凝視した。
「海上工作員・康児……噂通りの男だな」
ジャックは自ら操作パネルに手を伸ばすと、潜水艇の推力を最大まで引き上げた。超ハイテク技術と、三浦の海で鍛え上げられた一人の男の野生と技術。朝焼けの海で、静かで熱いプロ同士の牽制劇が繰り広げられる。
「ジャック! 王子のお迎えには、まだちと早すぎるぜ……!」
ジャックは通信機に向かって言った。
「クロード様、地上班から想定外の抵抗にあっています。攻撃の許可を、お願いします」
「ジャック、こちらもリアルタイムでモニターしている」
「現状では、許可できない」
「乙姫様からの命令だ」
「済まない。耐えてくれ」
「決して、深追いはするな」
「繰り返す。深追いはするな」
「次の手は考えてある。安心してくれ」
康児の命がけの足止めにより、ジャック部隊の強行上陸はひとまず阻まれた。
だが、海底の重鎮・クロードが、次なる「電撃作戦」へと動き出すのだった。




