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第2話:青空の下の約束と、動き出す深海の網

夕暮れ時の三浦半島。

茜色に染まる海と空の境目で、波の音がザザンと心地よく響いていた。


ジョギングを終えた15歳の小太郎は、愛犬のシロのリードを引きながら、同級生のソラと並んで海岸沿いの道を歩いていた。シロは楽しそうに尾を振り、二人の足元をゴロゴロとご機嫌についてくる。


「ねぇ、ソラ」


小太郎がふと足を止め、茜色から群青色へと変わりゆく空を見上げてから、ソラを振り向いた。


「君の名前は、『青空』と書いて『ソラ』なんだね。……とても素敵な名前だと思うよ」


「え……?」


突然のまっすぐな言葉に、ソラは少し驚いて目を丸くした。それから照れくさそうに髪を耳にかけ、嬉しさを隠しきれない笑顔を浮かべる。


「……ありがと、小太郎くん。急にどうしたのよ」


「いや、なんでもないんだけどさ。今日の海も空もすごく綺麗だったから、ソラの名前にぴったりだなって思って」


「もう、相変わらず小太郎くんは恥ずかしいこと平気で言うんだから」


ソラがクスッと笑ったその時、沖合に浮かぶ一隻の漁船から、力強い声が響いた。


「おーい! ソラー! 小太郎ー!」


声の方を見ると、船の上から真っ黒に日焼けしたソラの父親・康児が、大きく手を振っていた。今日の漁を終えて港へ戻るところらしい。


「あ、お父さんだ! おーい!」


ソラが手を振り返し、シロも「ワン!」と元気いっぱいに吠える。

昭和の穏やかで温かい夕暮れ。誰もがこの平和な時間が永遠に続くと信じている。


——だが、その海の遥か底、光の届かない深海では、まったく別の時間が刻まれていた。


竜宮城の作戦指令室。

天才頭脳・ジェミニが描いたホログラムの三浦半島立体チャート上に、何千もの光の筋が交差していた。


「地上の潮流、天候データ、監視衛星の目をすべて計算しました。王子を最も安全かつ確実に海底へ誘導できるルートは、この一点のみです」


ジェミニが指し示したポイントを見つめながら、指揮官のクロードが重々しく頷く。


「よし。ルートは決まった。……次は『現場の手脚』だ」


クロードが操作パネルを叩くと、一人の男の極秘データが表示された。冷徹な眼光を持つ男——元特殊部隊のリーダー、ジャックだ。


「地上からの王子奪還という極秘ミッション……この荒仕事を完璧に遂行できるのは、ジャック率いる特殊部隊しかいない」


クロードはただちにジャックへの召集命令を発令すると同時に、暗号通信回線をひらく。


「千春、聞こえるか」


三浦半島の港町。暗い工場の中で、工具を手にしていた千春のレシーバーに、クロードの冷たい声が届いた。


「作戦の第一段階に入った。ただちに『王子帰還用潜水カプセル』の製作に着手しろ。設計データは今送った」


「……了解した。カプセルの製作に入る」


千春は短く答え、通信を切ると、送られてきた複雑極まりない超ハイテクカプセルの設計図をディスプレイに映し出した。


町の腕利き修理工としての顔の裏で、千春の目がプロのエージェントの光を宿す。無邪気に笑う小太郎の顔と、三浦半島の青い海が千春の脳裏をよぎっていた。


「いよいよ、始まるか……」


千春は静かに工具を握り直し、カプセルの設計と基礎組み上げを開始した。






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