第1話 昭和57年の夏と、始動する計画
昭和57年、夏。
カンカンと照りつける太陽の下、15歳の小太郎は汗を光らせながら、いつものように海沿いの海岸線をジョギングしていた。潮風が心地よく頬を撫でる、ごく普通の、平和な夏の日常。
だが、その上空——小太郎の視界には入らない遥か高空では、監視ユニットのガーディーが冷徹にデータを解析していた。
『GPSデータ照合……。ターゲット接近まで、あと2分。亀型24T2、現場到着。……横転準備。5、4、3、2、1、――横転!』
その瞬間、砂浜の上で、大きなカメがコロンと不自然にひっくり返り、四本の足をバタつかせた。
走り抜けようとしていた、小太郎の目に留まり、足を止めた。
「おいおい、どうしたんだよ! 大変じゃないか!」
小太郎は迷わず駆け寄り、汗だくになりながら重いカメを持ち上げ、優しく波打ち際へ放流してやった。ゆっくりと海へ消えていくカメを見送りながら、小太郎は満足そうに笑う。
だがその瞬間、『亀型ロボット24T2』の背中センサーが密かに作動していた。
『指紋照合完了。――ターゲット、王子・小太郎本人であることを確認しました』
海中の通信回線を通じて、地上で「町の修理工」として潜伏している連絡役の千春へデータが飛ぶ。
「了解」
千春は短く返事をし、通信機に向かって静かに次の指示を出した。
「ユキ、王子はあと15分後に帰宅予定。セットしてくれ。……ガーディー、帰宅確認後、戻ってこい」
15分後。
いつものように汗をぬぐいながら、小太郎が自宅の玄関を開けた。
「ただいまー!」
「お帰りなさい」
小太郎の母、ユキが、いつもの温かい笑顔で小太郎を迎える。
「母さん! 今日さ、海辺で大きなカメがひっくり返って苦しそうにしてたんだよ。だから俺、そっと海に放流してやったんだ!」
「まあ、大変だったわね。ふふ、ご苦労さま。今日の晩御飯は、小太郎の大好きなカレーよ」
「やったー! カレーだ!」
無邪気に喜んで奥へ走っていく小太郎の背中を、ユキは愛おしそうに見つめていた。
同じ頃——遥か深海に存在する超ハイテク都市、竜宮城。
壮大なホログラムが浮かび上がる玉座の間で、主である乙姫が側近たちを前に静かに語りかけていた。




