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きみの描く雨が、僕のセカイを塗り替える  作者: あるふぁ
第1章:モノクロのセカイに落ちた、一滴の雫

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6話 ぶかぶかの避難衣

♢ぶかぶかの避難衣


 数分後、リビングへと現れた結乃の姿を見て、錬慈は思わずキーボードを叩く手を止めた。液晶画面の光が、液晶を凝視していた彼の瞳に虚しく反射している。


 高身長な彼にとってのジャストサイズは、小柄な彼女にとってはまるでだぼだぼのドレスだった。

 首元は大きく開き、彼女の白磁のような白い鎖骨が無防備に覗いている。袖口からは指先がほんの少しだけ顔を出す状態で、スウェットの裾も何度も捲り上げなければ歩けないほど余っていた。歩くたびに床と擦れて、微かな衣擦れの音がリビングにしんと響く。


 結乃は顔を真っ赤に染め、借りたトップスの襟元をぎゅっと握りしめて首を埋めるようにしていた。自分の身体を何倍も大きな布地が包んでいる感覚が、どこか恥ずかしく、落ち着かない。


 しかし、その恥ずかしさを上回るほどの、奇妙な平穏が彼女を包んでいた。

 部屋のなかに漂う、温かい空気と微かなココアの残り香。窓の外では相変わらず激しい雨音が世界を打ち据えているが、今の彼女にはその冷たさが届かない。


 この男は、自分に、なぜ学校に行かないのか、とは聞かない。

 自分の存在を否定せず、ただ、ここにいろ、とだけ言ってくれた。


 世間の誰もが当たり前のように求めてくる正論や理由を一切ぶつけてこない錬慈のスタンスに、結乃は生まれて初めて、深く息ができる場所を見つけたような安心感を抱き始めていた。背負っていた重い荷物を、ようやくその場に下ろすことができたような、そんな穏やかな呼吸が彼女の胸を満たしていく。



♢ 静寂の共有、それぞれのセカイと「救いの言葉」


 脱衣所から出てきた結乃は、自分の身体の二回りも大きな黒いTシャツの裾を両手でぎゅっと握りしめていた。首元から覗く白い鎖骨が、リビングの暖色系の照明に照らされて、壊れ物のような危うさを放っている。


 錬慈は、彼女を直視することを避けるように一度だけ視線を走らせ、すぐにキッチンへと向かった。自分の目が彼女の無防備な姿を捉えてしまうことに、どこか気まずさを覚えたからだ。


「……とりあえず、腹減ってるだろ。適当なもんだけど、食え」


 彼が手際よく作ったのは、ありふれたインスタントの袋麺に、買い出しで買ってきたばかりの卵とネギを落としただけの簡素な昼食だった。しかし、湯気と共に立ち上る出汁の香りは、冷え切ったコンクリートのガレージにいた彼女にとって、何よりも饒舌な歓迎の言葉となった。鼻腔をくすぐる温かい匂いに、結乃のお腹が小さく鳴る。


 二人はローテーブルを挟んで、静かに箸を動かした。

 テレビもつけず、窓の外で激しさを増す雨音だけをBGMにした、あまりにも静かな食事。


 結乃は、まるでお供え物をいただく小動物のように、小さな口で丁寧に麺を啜った。一口ごとに温かさが身体に染み渡っていくのが分かるのか、彼女の白い頬にほんのりと赤みが差してくる。錬慈は、彼女がなぜ学校にいないのかを問い詰める気配を一切見せず、ただ黙々と自分の器を空にしていく。


 その徹底した追求しないスタンスに、結乃の強張っていた肩の力が、少しずつ、けれど確実に解けていくのを錬慈は感じていた。何も言わなくていい。ただここにいて、温かいものを食べればいい。言葉のない空間に、そんな無言の許しが満ちていた。



♢不器用な肯定


「……ごちそうさまでした、です」


 小さな声で告げられた言葉に、錬慈は、おう、と短く応え、空になった食器をシンクへ運んだ。

 水が器を叩く音が狭いキッチンに響く間、結乃は自分の細い指先をぶかぶかの袖の中にすっぽりと隠し、所在なげにリビングの絨毯の端に腰を下ろしていた。借り物の大きな服に身を包んだ彼女は、まるで嵐の夜に迷い込んできた迷子のように、小さく肩をすぼめている。


 重苦しい沈黙を切り裂いたのは、結乃の震える告白だった。


「……わたし、その……最近は、えっと……高校に行ってないの」


 それは、彼女にとって世界から切り離されたことを意味する、絶望に近い言葉だった。自分の価値を否定されるかもしれないという恐怖に、彼女の細い背中が硬直する。

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