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第1章-2 こいつ・・・動くぞ?

抜き返された後は、拓海車と2台、軽いスプリントで坂道を下った。

後ろから観察する拓海車は、見れば見るほど、挙動がクイックかつシャープ、路面にへばりつく感じだ、

サイズは小さく、ツーシーターだろうから、普段使いには不便かもしれないが・・・

マツダのロードスター的な、あるいは大昔のホンダビートのような、乗っていて楽しいクルマでは無いだろうか。


(やま)を降りて、最初のパーキングエリアが見えてきた。

既に停車する意思を示して速度を落としていた小さな車が、左ウインカーを出し、パーキングエリアに車体を収める。

飲料の自動販売機の前に停車するのが見えた。


ドアが跳ね上がる。ガルウイング、だと!


FDがその後ろに停車するまでの間に、はねあがっていたエアロパーツが、翼を畳むようにさがり、後部ガラスにあたる部分に収納される。

自動販売機の前にかがみこんでいる拓海に駆け寄り、啓介は荒っぽく久闊を叙する。

拓海はやや顔をしかめ、きれいな手形がついたであろう背中を気にするそぶりをわずかに示した。


啓介は礼を言ってダイエットコークのうちの一本を受け取りながら、食いつき気味に問う。


「何だよ、この車は?・・・。

ツーシーターのオープンか?」


「一応4人乗りですよ、なんとか。

幌をしまうとツーシーターですけどね。

これから、購入者を募集する車の、上位バージョンの試作機、ということになりますね。だいたい、500馬力ちょっと出ています」


対照的に穏やかに拓海はいい、コークを一口。


「購入者を募集するって・・・この車のか?下位バージョンって、出力どの程度だ?」


啓介は、コークのプルタブを引きかけたまま、一瞬動きを止めた。


「排気量は1300、馬力は280に落とします。

HEVでも無いですけどね。

電動スパチャは付きますよ。

あと、エアバッグ、パワステ、ABS、トラコンもそっちには付きます」


「てことは、こいつはエアバッグもABSもついていないってことか・・・って、そんな試作車、どっから引っ張ってきたんだ?」


「涼介さんに貸してもらいました。聞いてないですか?」


「・・・兄貴が?」


 無意識に、ダイエットコークを一口、口に含む。


「内燃機関リバイバルプラン。これは、その試作機の1台です。

コードネームはX86-S6。

こいつはレシプロですが、ロータリーもあるそうですよ?

そっちも、いい車だと聞いています」


むせた。


「あ、そういえば後部座席にマウントした豆腐用のコンテナはTKMC謹製なんですが・・・ご存じないんですか?社長」


噴き出した。




むせる啓介の背中をさすりながら、拓海が説明する。


量産車は、軽自動車の部品を使用して、1300ccの直列6気筒エンジンに加え、電動パワーチャージャーを持つ。

可動エアロはオプション。

エンジンはドライサンプ、強度はフレームで確保し、外装は極論すると紙でも良い。

…と言うか、この試作車の外装は、実際に和紙だそうである。もちろん耐候、不燃処理済み。


ちなみに、主ライトの取り付け位置がウインドシールド直下なのは、米国の規制クリアのため、というのが主因。

アメリカでこんな車を買う人間がいるのか、不明であるが、歩行者保護も考えると悪くないだろう。


乗車定員は4人。

ではあるが、後部座席は「財布の紐を握る奥さん説得用に、一応つけたそうです」レベルで、居住性はお察しください・・・ということだった。

啓介がのると、3人乗りでも窮屈この上ないことが容易に想像できた。斜めに座って、長い足を斜めにのばすことになりそうだ。

4人乗りの場合・・・想像もしたくない。

体育すわりした上で、首と膝を縮め、加減速のたびに膝と頭をぶつけることになるだろう。


後部視界は潔く諦めて、カメラ。

ついでに、サイドもカメラ。

情報はウインドシールドと、全面液晶モニターに表示される。

運転中に視線を動かす必要が無く、UIは極めて優れていると言えるだろう。


なお、拓海が啓介をオーバーパスした車は、1800ccに排気量を上げた上で、前輪にインホイールモーターをマウントし、HEV化してある。

インホイールモーターは、試作品の()()()モーター。


それを聞いて、啓介は卒倒しかけた。いくらすんだよ、それ?


拓海はうん、うんとうなずいている。啓介が驚きを分かち合ってくれてうれしいと見える。


「計算方法で変わりますが、最低でも云億円とか言っていました・・・

外装の和紙とかもですが、試作要素、遊びまくりですよね。

涼介さんには誤魔化されたんですけど、こんなとんでもない玩具を持ってこれる人が誰かと考えると、ちょっと怖いです」


拓海は遠い目になった。


「あと、趣味では無いので俺はOFFにしていますけど・・・デフォルトは、SUPERモードにすると、継ぎ目みたいなところが光るんですよ。

まるで、アニメのロボットみたいです」

ちょっとやりすぎですよね、という言葉が宙に消える。

彼が遠い目の先に見ているのは、この車のプロデューサーに違いなかった。

啓介も、かなり同感である・・・もっとも、啓介自身はこういうノリが嫌いではなかったが。

そういえば、兄貴も意外とアニメ好きだったな、と思い出す。


ちなみに、後部座席にマウントされたコンテナは、豆腐専用というわけではなく・・・当たり前だ、そんなニッチな用途で使うのは、藤原とうふ店くらいに違いない・・・サードパーティーに対してメーカーから事前開示された諸元に基づいてTKマッハコーポレーションで独自企画したもの、らしい。

らしいというのは、拓海は当然ながら詳細を知る立場に無いからである。

誰の差し金なのかは、考えるまでもなかった。


超電導モーターを使用したお化け試作車は高い高い棚に上げ、豆腐用コンテナは横に置いておいて、量産車の仕様は悪くない、と啓介は評した。

運転して楽しく、助手席に乗って楽しく、曲がりなりにも4人乗りで、トランクスペースも大きくは無いが確保されている。

1300ccの直6エンジンには笑ったが、コストが割高になる以外のネガは、意外と無いのではないだろうか。

自動車を運転するのが、ほぼ趣味に限定される現代では、意外と悪くない選択と思えた。


「ちょっと、俺に運転させてくれよ。挙動を見るだけの安全運転すっから」

啓介は頼み込む。


「駄目なんじゃないですかね。

この車、盗難防止とモードセレクターの上限管理のために、指紋認証がついているんですよ」

「モードセレクター?・・・こいつか。SAVING, SMART, SPORT,・・・そしてSUPERか!」

普段使い、省エネ運転モードがSAVING、バランスが取れたモードがSMART、スポーツ走行用のモードがSPORT、そして純然たる高回転高速運転モードであるSUPER。SPORTとSUPERモードの使用には、ディーラーでのセッティングが必要ということであった。


「さっき俺をぶん抜いて行ったのがSUPER、だよな?」

「はい、そして最初がSAVINGでした。ちなみに、SAVINGだとパワーすかすかで、修行僧みたいな我慢の運転になります。下りだからそれでもマシですけどね」


啓介は拓海に一言断ってから運転席に座ってみた。ガルウイングのドアは、降雨時の乗り降り時に傘代わりになり、便利そうだ。

「くっそー、運転してみたいな・・・間違って反応しないかね?」

といいつつセンサーに左親指を当ててみる。

反応した。

"WELCOME, KT,"

全面LCDディスプレイに文字が浮かび上がった。

「こいつ・・・動くぞ?」




閑話:その日の夕方、ある兄弟の電話


「兄貴、ひでえじゃねえか!俺だけ蚊帳の外かよ!?」

涼介は、スマホを耳から20㎝程離したが、彼の反射神経をもってしても手遅れであった。鼓膜が痛む。

「まあ落ち着け。蚊帳の外も何も、おまえにもそのうち、ある程度形になったら伝えるつもりだったぞ?」

「ある程度形になったら、って何だよ! なんで拓海を乗せてやって、俺には運転させられないんだ?」

「お前も、まあ、一応会社社長様だからな、まさか試作車のテストドライバーはやらせられんだろう?社員の生活もある」


 ・・・次の日、TKマッハコーポレーションは蜂の巣をついたような大騒ぎになった。CEOが突然辞任を表明したのである。

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