番外編⑤ 爆誕、R the R
突然、インスピレーションが降ってきました。
変な箇所に番外編がはさまってしまい、申し訳ありません。
通りがかったマツダのディーラーに置いてあった、青の美しいFDがあかんのや・・・
20xx年春。
彼は、起床して、コーヒーを飲みながら、ほとんど日課となっている感がある、SNSの閲覧をした。
彼が憧れ、尊敬する男。いや、漢。
TKMC社長、高橋啓介氏の『高橋社長のロータリー日記』である。
彼は、ずっとロータリーに憧れており、レーシングゲームでも、ロータリー搭載車しか使わない。
そのきっかけになったのが、イニシャルDの高橋啓介だったのだ。
公式にはこの作品はフィクションです、ワカルネ、となっているのだが、あまり信じられていない。
彼も、高橋啓介の活躍に憧れた一人だった。高橋涼介はすさまじい切れ者だ、藤原拓海は異能の天才かもしれない。だが、彼が憧れたのは高橋啓介だった。
しかし、実際には、ロータリー車に乗るのは厳しかった。
彼が自動車免許を取れる年齢になったころには、市場に出回る中古車は数少なく、仮にあったとしても程度は良くないものが多く、メンテ代が怖くてなかなか手が出せない。
30歳そこそこの普通のサラリーマンには、旧車の維持は、ちょっと身の丈に余る贅沢と言わざるを得なかった。
昨秋MTエンヂニアリングが発表したRX-zzの販売は近いのではないか、とロータリー愛好者の間では噂されており、もしかしたら自分も買えるかも・・・と思う気持ちはある。
しかし、仮に発売されても、彼の手に届く価格になるか微妙だった。
ロードスターくらいのサイズ、手に届く価格で、ロータリー出してくださいよ、MTエンヂさん・・・とつぶやく。RX-zzを見てから、何回このつぶやきをしたか、数えきれない。
zzもいいのだ。しかし、彼が望むのは、コンパクトで、軽量で、ロータリーエンジンが直接後輪を駆動する車だった。ちょうど、86-S6がロータリーエンジンになったかのような。86-S6はストレートシックスに拘った素晴らしいクルマであるが、彼が求めるのは、あくまでもロータリーなのであった。そこに理由はない。ロータリーへの思いは、理屈ではなく、魂に食い込んで離れない呪詛のようなものなのかもしれなかった。
「あれ?」
今日の社長さん日記は外見からして普段と異なった。
一面黄色の背景の上に、踊る黒い文字。
『ついに顕現!シューティングスター!
86-S6をベースにロータリーエンジンに換装した、MTエンヂニアリングの新車種、RX-0 Roadster the Rotary "R the R"をベース車として、外装をTKMCが誇る3D曲面成形技術にて渾身の造形!
今よみがえる、シューティングスターの雄姿!』
その前に浮かび上がるは、鮮やかな黄色の流線形が印象的な、ロケットを思わせる外見の車体。
高橋啓介社長の愛車、FDを思わせる黄色い車を前に、覆面を取った、覆面レーサーのコスプレ・・・じゃない、装いの高橋社長がダブルピースサインを決めていた。
・・・コーヒーを噴き出した。
タブレットが壊れなくて、良かった、と気づいたのは、かなり後になってからであった。
R the Rってなんだよ、聞いたことがないぞ?仕様などを知りたく、ロータリー愛好者スレにログイン。
ロータリーを愛する漢たちが熱く語るスレは、すでに大騒ぎだった。
どうやら、高橋社長がSNSを更新したのは、深夜0時だったようである。
くそっ、出遅れた!
888: 通りすがりの名無しさん
86-S6をベースに、エンジンをzzのロータリーに換装。ちな、シングルローター。
システム出力は86を上回り、重量は下回り、前後重量バランスは47:53で、86よりさらに後輪トラクションが有利・・・だと!
889: 通りすがりの名無しさん
すげえ!Roadster the Rotary、ロータリーなのにEURO6にミート、だってよ!
890: 通りすがりの名無しさん
環境規制クリアなら、大手を振って、ノーマルライセンスプレートになる!普通に運転できる!
なんたる朗報!
891: 通りすがりのロータリー大好き中年(元青年)
待った甲斐があった・・・(号泣)
少年時代、イニシャルDを読んでロータリーに一目ぼれして以来、苦節30年!
ついに、あこがれの、幻のロータリーが!げげげ現実のものにぃぃぃ!
892: 通りすがりの名無しさん
しかも、ロードスター!
このサイズ!1トン切り!
FR!
893: 通りすがりの名無しさん
RX-0 Roadster the Rotaryというネーミングがまたいい!
サイズ的には小ぶりだが、ロードスターのコンセプトと、ロータリーの魂の、夢のマリアージュ!最小のRX!
英語の文法的にどうよ、とか言っている人、わかってない!
これはわれらロータリー党、ロードスター党の魂の叫びなのだぁ!
894: 通りすがりの名無しさん
ロールスロイスも、Roadster the RotaryのOEM販売を考えているってさ!>url Rolls-Royce Official SNS
MGとかの系譜だもんな、そりゃイギリス人も好きそうだよな!
895: 通りすがりの名無しさん
ほんまやんけ!内装はすべてロールスロイスで実施、専用シートをおごり、一台ごとにオーナーの名前を刺繍、だと。
こっちもかっこいい!
896: 通りすがりの貧乏人さん
ロールスロイスのバッジがつくと、値段が3倍くらいになりそうな気が・・・
897: 通りすがりの名無しさん
まだ販売ページ立ち上がってないみたいだけど、とりあえずMTエンヂに購入希望のメール送った!
誠意を示せば、ワンチャン優遇してもらえるかも!
898: 通りすがりの名無しさん
許せぬ!(といいつつ、メーラー起動)
899: 通りすがりの名無しさん
抜け駆け禁止!(と言いつつ、メール送付)
・・・彼もメーラーを起動した。掲示板に書き込む前に、まずメール!
20年近い熱い思い、くみ取ってくださいMTエンヂさん!
TKMCにて
「総務部長・・・早めに火消しをしないと、まずいですよ?」
「社長、今日から海外出張なんだよなあ・・・。今頃、太平洋の上」
「営業の浅井ですが・・・ロールスロイスのマーケティングマネージャーを名乗る人から、本当に買いたいってLOIが入っているんですが、どうしましょう・・・」
「誰も、今日が4月1日だと気づいとらんのかぁぁぁ」
「あ、LOIの日付は、わざわざ4月2日になっています。真面目な提案ですよ、というイギリスジョークですかね?」
「はぁ。もうどうしようもない、MTエンヂに転送しといて。ccにロールスロイスの送信者のアドレス入れて。どっちにしても、うちでは何もでけん」
MTエンヂニアリング技術部にて
「何?・・・本当に作れる、だと?」
「はい、技術部長。検討してみたのですが、それほど難しくありません。もともと触媒はEH-cGPFですから、エンジンをzzのにとっかえて、DOCだけ追加したら、EURO6相当十分行けると思われます。エンジンが小さくなるので、DOCの入るスペースは十分です。車体は、86そのままで大丈夫です。ちなみに、重量バランスは、本当に47:53になりますね」
「それだったら、生産も・・・」
「はい、極論今からでも作れます」
「・・・謀ったな、しゃあねえ・・・ちょっと、代表社員のとこ行ってくる」
MTエンヂニアリング代表社員執務室にて
「本気ですか? いきなり500台?」
「はい。ロールスロイスからは、200台のオーダーを出したい、と。わざわざ4月2日の日付で、正式なLOIを送付してきました。
それ以外にも、販売店や購入希望者からも問い合わせが殺到しています。SNSなども、もう収拾がつかないくらいの盛り上がりぶりです」
「この車、試作すらしていないだろう?」
「そうなんですが・・・仕様書をご覧ください。もともとEH-cGPFがついていましたから、直6をロータリーに換装してDOCを追加するだけで環境規制対応できます。エンジンが小さくなる分、スペースも十分です。担当者によると乗りそうな気がしたとかで、一応、どちらのエンジンでもマウントできるように設計しておいたとか・・・」
紳士の唇が、『確信犯だな』という言葉をつむぐ形に動いたような気がする。声はあったとしても可聴限度以下で聞こえてこない。聞こえていないから、気づかなかったことにする。
「・・・まず、試作してみようか。話はそれからだ。費用は、私のポケットマネーを充てる。成立していなければ、エイプリルフール企画でお騒がせして申し訳ない、で押し通す」
成立したら?・・・成立したら、やらない理由が無くなる。
「・・・ただでさえ86-S6の需要は強いし、RX-zzにも期待の声が強く、熱い。嬉しい話なんだが、生産をどうするかが悩みだな」
「・・・すいません、今BMWからもLOIが来ました。こちらは、86-S6GRベースに、OEM提供300台の引き合いです」
「・・・・・・断る理由が見当たらないな。こっちは先月将来の販売をアナウンス済みだし。生産をどうしようか・・・」
「あれ、エンジンが少し重くなったので、結果的に重量バランスが50:50になったんですよね・・・偶然にしてはできすぎです」
なにか超絶的存在の恩寵、または祟りでもあったのだろうか?代表社員の前では、さすがに口を慎んだが、かなり本気でそう思わせる不思議な暗合であった。
それは、後日BMW Z0として発売されることになるOEM車プロジェクトが動き出した瞬間であった。
デトロイト空港にて
啓介は、満ち足りた眠りの後の快さとわずかな疲れを感じながら、ゲートをくぐった。彼は、フライトの最中は基本的に寝だめ派である。どこでも眠れる、ぐっすり眠れる、それが啓介だった。
荷物は、機内持ち込みのみ。荷物受け取りの行列を待たなくていいのがうれしい。メールをチェックしようとしたら、その間もなく迎えに来ていた旧友が啓介を認めて手を振った。スマホの画面に一瞬だけ見えた、TKMCとMTエンヂからの多数のメールは何だったんだろう・・・
「KT! 久しぶりだな!」
「久しぶり、グレッグ。相変わらず、何時でも何処でも半そで半ズボンだな」
「それより、あれ、いいな、R the R。米国販売はいつだ?」
「R the R? なんだそれ?」
彼はまだ知らない。
彼がデトロイトに到着するまでの間に、昨日までどこにも無かった新車種が勝手に生えてきて、勝手にバズり、既成事実化していたことを。
エイプリルフール企画で、シューティングスターのCGの下に、彼が新入社員に命じて雑に作らせたつもりの仮想の車の設定が、結果的に妙にリアルになっていたことを。
訪米寸前で、時間がなかったこともあったし、シューティングスターのCGと彼自身のコスプレの質に注意が集中していたこともあり、見てすらいなかったのである。ベース車の設定適当に書いておいて、と振られた若手社員が15分で書いた適当なやっつけ仕事のハズだったのだが・・・
TKMC若手社員Yさん(今日から入社二年目)の悲痛な叫び
「し、信じてください・・・偶然です。偶然なんです。
社長に、86ベースでエンジンをロータリーに換装した車の設定を一行適当に書いとけ、って言われただけなんです!エイプリルフール企画なんです!47:53という比率をどこから聞いたか? そんなの、ハチロクの数字を1ずらしただけです~!
産業スパイだなんて・・・私ごとき下っ端に、そんな情報源あるわけないじゃないですか~!」
・さりげなく、R the Rの1号車を確保しようとしている代表社員。
あーずるい、自分だけ!とは、技術部長は言いません。大人だもの。
というか、試作は2台くらいはいりますよね、私も責任取って自費で1台・・・とか言い出しそう。
ところで、RX-0 "R the R"って、ゼロ・ジ・アールを思い出しますよね・・・とか言っていたら、なぜかBMW Z0が生えてきた。OEM車だからね、経営判断も簡単だよね。顧客リストの上から順番に声をかけていけば、このくらいの数、確実にはける!とBMW営業さんが即決した模様。BMWがこのタイミングになったのは、前からOEM販売を検討していて、ロールスロイスの動きに、やべっ、先越された!と思ったのでしょうか。なお、GRの詳細データは広報されていないので、BMWは50:50のことは知りません。近い未来、運命を感じることになるBMWの皆さん。
《イメージカラー》
R the R: 赤
ロールスロイス版R the R: 緑
BMW Z0: 青
できれいに光の三原色です。
・なぜこうなったのか・・・素人だからさ。ロータリー=環境規制に不向きという“固定観念”があった専門家と異なり、素人は、エンジン換装したらいいロードスターになるじゃん、エンジンが小さくなって却って軽くなるくらいだし、重量バランスは1ポイントほどずらしとけ、くらいだったというのが真相。
・頑張って作ったシューティングスターネタは、ほぼ誰にも注目されていない。マッハ号と並んで、それなりにバズると思っていたのに・・・啓介は泣いていい。日本に帰った後、微妙な表情のMTエンヂ幹部陣との会話を想像し、珍しく胃の痛みを覚える啓介であった。
《環境規制についての設定: 独自設定あり》
■ 電気加熱式触媒(EHC)
排ガス浄化用触媒は低温では十分に機能しないため、始動直後から触媒を活性化させる目的で、電気ヒーターにより触媒を強制的に加熱する技術。
これにより コールドスタート時の排ガス(HC・CO・NOx)を大幅に低減できる。
■ GPF(Gasoline Particulate Filter)
ガソリンエンジンの排ガスに含まれる 粒子状物質(PM:Particle Matter)を捕集・除去するフィルター。排ガス規制が厳しくなると、PM量だけでなく、PN(Particle Number、粒子状物質の数)が規制される。特に、ガソリン直噴エンジンやリーンバーンエンジンの場合、「PMの発生重量は少ないが、微小粒子であるため、発生数が多い」ことから、PM量より PN のほうが問題になりやすい。
86-S6は、ガソリン直噴エンジン採用でPNが発生しやすいため、GPFの必要性が高い。ロータリーエンジンも潤滑油を燃焼室へ直接供給する構造上、PNが発生しやすく、GPF の装備が有効となる。
■ EH-cGPF 《独自設定含む》
触媒をコートしたGPFをEHCと組み合わせ一体化したという設定の仮想の環境対策部品。
仮想のつもりなんですが・・・仮想になっているよね?と調べたところ、開発・試作はかなり進んでいて、実車搭載もそれなりに近そうでした。
■ DOC(Diesel Oxidation Catalyst / Gasoline Oxidation Catalyst)
排ガス中の CO(一酸化炭素)やHC(未燃焼炭化水素)を酸化反応により低減する触媒。
ディーゼル向けに使用されることが一般的だが、ガソリンでもDOCとの名称が使われるのが普通。
EH-cGPFと組み合わせることで、総合的な浄化性能を高められる。
■ EURO6相当《独自設定》
この世界では、BEV化が急速に進んだ結果、内燃機関車の新規開発が早期に停止した。
そのため 内燃機関車向けEURO6はドラフト段階で検討が止まり、正式施行されなかった。
結果として、現行の内燃機関車への環境規制の適用は、以下のように運用されている:
・EURO5を確実に順守していること
・EURO6ドラフトをほぼ満たしていること
つまり、内燃機関車は「EURO6ドラフト準拠レベル」であれば、実質的に最新規制をクリアした扱いとなる。EURO7?ありゃ無理でしょ、どうやってブレーキダストの量を実車で測るんだよ、試験室ならともかく・・・試験室でどんなに良い数字が出ても、どの程度信頼できるんだか。




