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夜夜一夜(よながよっぴて)~奇の断片~  作者: 夏の月 すいか


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犬の話②

 散歩をしている中年女性が犬の小便を自宅のブロック塀にさせるので(しとみ)さんは困っていた。

 せめて水をかけてくれればいいが、それすらもせずにマーキングしたまま去って行くので悪臭が残り迷惑していた。

 (しとみ)さんが仕事で家を出るときには必ず小便のシミが出来ているので犯行現場を直接見た訳ではないが、駅に向かう途中で必ず追い越す犬を連れた中年女性がいるので、その女性が犯人なのは間違いなかった。

 (しとみ)さんが(いきどお)っているのはもちろん犬に対してではなく、マナーに欠ける飼い主の女性にだ。

 (しとみ)さんは対策として、塀に黒いペンキで<鳥居のマーク>を描くことにした。

 以前テレビで見たやり方で、飼い主の心理に訴えて忌避(きひ)させる効果があるらしい。

 

 しかし残念なことに鳥居を描いた翌日も犬のマーキングは止まなかった。

 鳥居に小便をかけるなんてどれだけ不敬(ふけい)で無神経なのだろうか。

 自身が描いた鳥居とはいえ(しとみ)さんはそう思った。

 憤慨(ふんがい)した(しとみ)さんだが、鳥居の横に書いた覚えのない、文字のようなものがあるのに気付いた。

 木簡(もっかん)などに書いてある古代の文字のように見えるが、読み方や意味は分からない。

 誰かがイタズラで書き足したのだろうか。

 その文字のようなものは鳥居に寄り添うように描かれていた。

 

 また翌朝も小便は鳥居にかけられていたが、不思議なことに隣にあった文字は消えていた。

 (しとみ)さんは(いぶか)しく思ったが時間もないのでそのまま仕事に向かった。


 その日の夜。

 仕事から帰った(しとみ)さんが塀を見ると、鳥居が上下逆さまになっていた。

 翌朝も鳥居は逆さまだったが、小便はかかっていなかった。

 その翌日も同様に小便はなかった。

 そのまま何事もなく一週間ほど経ったころ、(しとみ)さんはたまたま近所の人から例の犬と中年女性の噂を聞いた。

 なんでも飼い犬が急に獰猛(どうもう)な性格になって、特に散歩に出ようとすると手がつけられないほど暴れるようになったのだと言う。

 ある日無理やり散歩に連れて行こうとした女性の顔に何度も()みつき、女性は入院することになったらしい。

 

 鳥居は今も逆さまのまま残っている。


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