シーズン2・第4話:訪問者は突然に、そして背後から
シーズン2・第4話をお読みいただき、さらに温かいブックマークや評価を本当にありがとうございます! 前回のマイペースすぎる休日もお楽しみいただけたでしょうか(笑)。
さて、霊界のターミナル駅と化した楓ちゃんの部屋ですが、今回はついに「霊感がある不憫な後輩・吉川くん」が合鍵を使って突撃してきます!
部屋に充満するヤバすぎる気配と無数の霊たちを目の当たりにして、吉川くんの精神は耐えられるのか……!? そして相変わらず鋼鉄のメンタルを発揮する楓ちゃんとの温度差にもご注目ください!
それでは、第4話スタートです!
「へえ、水野の部屋って、相変わらず日当たり良さそう……って、あれ?」
水曜日のお昼過ぎ。
水野楓が留守の間に合鍵を使って勝手に部屋に入ってきたのは、出版社の後輩編集者である新人・吉川だった。
担当作家である楓に急ぎの原稿確認があったのだが、何度ノックしても応答がないため、以前預かっていた合鍵を使って中に入ってきたのだ。
ガチャリとドアが閉まった瞬間、吉川は全身の毛が逆立つような激しい悪寒に襲われた。
「な、なんだこれ……っ!?」
真夏のエアコンが効いた部屋とはワケが違う。骨の髄まで凍りつくような、湿った冷気がワンルームの部屋中に充満している。
見渡すと、部屋の隅という隅に、黒々とした染みのような影がびっしりと張り付いていた。窓ガラスには数え切れないほどの白い手形。テレビの液晶画面には、映るはずのない歪んだ無数の顔がうっすらと浮かび上がっている。
『……おや、また新しい人間が来たぞ』
『今度は若い男だねぇ』
『ねえ、驚かせたらどんな顔をするかな?』
部屋の天井から、ぞろぞろと這い寄る無数の視線が、一斉に吉川へと向けられた。
わずかに霊感体質だった吉川は、その異様な気配と視線の重みに耐え切れず、その場で膝から崩れ落ちた。
「ひっ……! なんだこれ、やばい、ここ、心霊スポットよりやばいじゃないか……っ!!」
ガタガタと全身を震わせ、冷や汗をダラダラと流しながらパニックに陥る吉川。
部屋の空気が重すぎて呼吸ですら苦しい。まるで何十人もの人間から、怨念のこもった視線を一斉に向けられているような強烈な圧迫感だ。
だが、そんなカオスが支配する部屋に、タイミング悪く当の本人――楓が大きなエコバッグを両手に下げて帰ってきた。
「ただいまーっ! 吉川くん、勝手に何やってるのさ?」
ガチャリとドアを開けた楓は、床に這いつくばって絶望的な顔をしている後輩を見て、きょとんと首を傾げた。
「あれ、吉川くん? どうしたのそんなところで。床の掃除でもしてるの?」
「い、い、い、水野さん……っ! おまっ、この部屋、この部屋になんだこれ……っ!」
半泣きになりながら、吉川は背後の天井を震える指で指さした。
その先には、首の曲がった女の霊が、面白そうに首をコキリと傾げながら吉川を見下ろしている。
「え? 天井? 別に何もないけど……あ、もしかして、うちの天井のクロス、少し剥がれてきちゃったからそれが気になった?」
「違うっ! そうじゃなくて、その、お前の後ろに……っ、後ろにうじゃうじゃいるだろ、この化け物たちが……っ!!」
吉川の必死の叫びを聞き、楓は「後ろ?」と言いながら首をひねり、クルリと振り返った。
もちろん、楓の目には何も見えない。そこにあるのは、いつもの殺風景な壁と、ただの空気だけだ。
「もう、吉川くんってばホラーの読みすぎだよ。そんなにお化けが見たいなら、今度我々と一緒に廃トンネルでも行く? すっごく空気が澄んでいて気持ちいいとこなんだからさ」
「行けるかっ! なんだよお前、どうしてそんなに平然としていられるんだよ……!?」
頭を抱えて絶叫する吉川の姿を見て、楓は「うーん、最近の若い子は想像力が豊かだなあ」と、まったく見当違いな感心の仕方をしていた。
その背後では、部屋に詰めかけた無数の霊たちが、吉川の怯えっぷりを見てクスクスと(霊界の波長で)笑い合っている。
『この男、面白いように怯えるねぇ』
『さすが「幽霊派遣」の連れ合いだ、いいリアクション持ってるじゃないか』
『もっと泣かせろ、もっと震えろ!』
霊たちにとって、楓自身はまったく驚いてくれない「退屈な器」だったが、彼女が連れてくる友人や同僚たちは、毎回期待を裏切らない最高の「エンタメ供給源」だった。
こうして、楓の部屋は、知らず知らずのうちに「霊たちが人間の悲鳴を鑑賞するための特等席」と化していたのである。
「ほら、そんなところで床に座ってたら風邪ひいちゃうよ。温かいお茶でも淹れてあげるから、原稿の相談なんでしょ? さっさと終わらせちゃおうよ」
ケロッとした顔で、まったく恐怖を感じていない楓。
冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り出し、呑気にグラスに注ぎ始める。
その圧倒的なマイペースさと、背後につきまとう無数の影のコントラストに、吉川は「この人に関わると命がいくつあっても足りない……次から絶対に合鍵を返して二度と一人で来ないぞ……!」と、心の中で激しく泣き叫ぶしかなかった。
シーズン2・第4話、最後までお読みいただきありがとうございました!
霊感ゼロの主人公に連れ回される周囲の人間代表として、今回は新人編集者・吉川くんに思いっきり怯えてもらいました(笑)。天井から見下ろす霊たちにとっても、吉川くんのビビりっぷりは最高の娯楽になっているようです。
楓ちゃんの「最近の若い子は想像力が豊かだなあ」という超絶鈍感なズレっぷりも、執筆していてとても楽しいポイントです。




