シーズン2・第2話:週末特急は幽霊を乗せて
シーズン2・第1話もお読みいただき、温かいブックマークや評価を本当にありがとうございます! コールセンターでの大騒動を楽しんでいただけたでしょうか(笑)。
さて、第2話となる今回は、お待ちかねの**「週末の遠征編」**です!
ネットで噂の「日本一電波の入らない、霧のトンネル」へ、自称・霊感ゼロのホラー作家志望こと水野楓ちゃんが向かいます。
今回は地方の最恐スポットということもあって、背後の「乗客(霊)」たちのラインナップもさらに豪華(?)かつ大所帯に……?
当の本人は「空気のいい温泉気分」で満喫していますが、果たして地方の地縛霊たちを巻き込んでどんな珍道中(?)繰り広げるのか。
それでは、第2話スタートです!
「ふふーん、ふふーん♪」
週末の土曜日、朝の穏やかな日差しが差し込むプラットホームで、水野楓はご機嫌に鼻歌を歌っていた。
大きめのリュックサックに加え、今回は小型のキャリーケースまで引いている。その中身は着替えや食料ではなく、愛用のカメラ、三脚、そして分厚い取材ノートの予備だ。
「よし、今日の目的地は……『日本一電波の入らない、霧のトンネル』、っと!」
スマホの画面を表示しながら、楓はテンションを上げていた。
前回のWEB連載の更新以降、彼女のコメント欄には全国のホラーファン(と、おそらく一部の物好きな幽霊たち)から「うちの地元のここにも来い」「私の霊をあの街まで運んでくれ」という熱烈なリクエスト(タレコミ)が連日のように届いている。
中でも今回のターゲットである地方のトンネルは、「足を踏み入れたら二度と戻れない」「カーナビの画面がすべて血のような赤色に染まる」という、ネットで噂の最恐スポットだった。
「霊感がなくても、これだけガチな場所に行けば、さすがに今回は何か……こう、背筋がゾッとするような体験ができるかもしれない!」
期待に胸を膨らませる楓。
だが、彼女が「期待している」のは、あくまで自分が恐怖を体験することであって、決して周囲の人間がパニックに陥ることではない。本人はあくまで純粋なホラー愛好家なのだ。そのピュアな探求心こそが、周囲にとっては最大の災厄であることに気づかぬまま、彼女はやってきた地方行きの特急列車にヒョイと乗り込んだ。
――プシュー。
発車のベルが鳴り、列車が静かに滑り出す。
指定された予約席の車両には、週末の朝ということもあって乗客はまばらだった。窓際の席に座った楓は、さっそく窓の外を流れる田園風景を眺めながら、旅のお供にと買ったペットボトルのお茶を開ける。
その瞬間。
ガタン、ゴトンと響く電車の走行音に混じって、車内の空気が一気に数度下がった。
『おや、新しい乗り物か?』
『今度はどこまで行くんだい?』
『早いなぁ、最近の人間はせっかちでいけないねぇ』
聞こえるはずのない、湿った重低音のざわめきが、座席の隙間から染み出すように広がっていく。
いつの間にか、楓の座る周囲の座席――いや、天井や通路の隙間にまで、数え切れないほどの「乗客」たちがみっしりと入り込んでいた。
先週のコールセンターからついてきた武者幽霊やオフィスワーカーの男に加え、今日の駅でひそかに列に加わったと思われる、昭和の制服を着た少女の霊や、ずぶ濡れのサラリーマンの霊までいる。
彼らは自分一人では県境を越えることも、高速で走る電車に乗ることもできない。だが、この「幽霊派遣」こと水野楓にぴったりと密着していれば、彼女が動くエネルギーに引きずられて、いとも簡単に遠くの街へ移動できてしまうのだ。
「うーん、なんか急に車内が涼しくなったな。やっぱり冷房が効きすぎて肌寒いかも」
楓は持参していたカーディガンを羽織り、何食わぬ顔でスマホの時刻表を確認する。
その隣の席(もちろん人間の目には見えないが)に座っていたずぶ濡れのサラリーマンの霊は、あまりの楓のマイペースさに、青白い顔のまま「……こいつ、本当に何も感じてないのか?」と呆れたような、あるいは感心したような奇妙な視線を向けていた。
――二時間後。
特急列車を降り、さらにローカル線を乗り継ぎ、バスに揺られて数時間。
辺りはすっかり深い山あいに囲まれ、どんよりとした鉛色の空が広がっていた。ネットの地図を頼りに歩くこと二十分、いよいよ噂の「霧のトンネル」の入り口へとたどり着いた。
「うわあ……! 写真で見た通りの、この苔むしたコンクリートの質感……! 最高じゃないか!」
楓は目を輝かせながら、さっそくカメラを構えた。
周囲にはすっかり濃い霧が立ち込め、昼間だというのに薄暗く、不気味な静寂が支配している。遠くでカラスの鳴き声が不吉に響く、まさに絵に描いたような心霊スポットだ。
「よし、じゃあ中に入ってみよう。今度こそ、何か物音くらい聞こえてほしいなぁ」
期待を込めて、楓は懐中電灯を片手に、湿った冷気が漂う暗いトンネルの中へと足を踏み入れた。
その背後には、まるで遠足の引率を待つ子供たちのように、無数の幽霊の列がぞろぞろと楽しそうについていく。
「……あれ?」
トンネルの真ん中あたりまで進んだ時、楓はふと足を止めた。
スマホの画面を確認すると、見事に圏外になり、画面の端が不気味に赤くチラついていた。ネットの噂通りの現象である。
「おっ、本当に電波が消えた! カーナビ(スマホ)が赤くなるやつだ! すっごい、ちゃんと再現されてる!」
感動して一人で小さくガッツポーズをする楓。
だが、彼女が気づいていない背後では、トンネルの壁面に這いつくばっていた何十体もの古い霊たちが、一斉にうごめき始めていた。
ここには、もともとこの土地を離れられずにいた地縛霊たちが数多く眠っている。彼らは長い間、このトンネルから外に出ることを許されていなかった。
しかし今、水野楓という「最強の移動装置」がやってきた。
『……外へ……連れて行ってくれ……』
『都会へ……、あの明るい街へ……』
無数の怨念や未練が、ざわざわと波のようにうねり出し、楓の背負う「霊の列」に次々と加わっていく。
もはや彼女の背中は、ちょっとした心霊スポットの「バスツアー最終便」のような状態になっていた。
「なんだか、さっきより空気がしっとりして肌にいい気がするぞ。美容にいい温泉みたいな感じかな?」
相変わらずズレた感想を抱きながら、楓はパシャパシャとシャッターを切る。
驚かせたい幽霊たちは、あまりにも怯えない彼女の反応に拍子抜けしつつも、「まあ、この人間についていけば新しい街に行けるなら、それも悪くないか」と、すっかり彼女を気に入っていた。
こうして、地方の最恐トンネルでの「収穫」を終え、さらに乗客(霊)の数を増やした水野楓は、また元来た道を軽快に引き返していく。
彼女が街に帰ったとき、今度はどんな「楽しいハプニング」が待ち受けているのか。
本人だけはのほほんとしながら、週末の帰りの電車へと再び乗り込むのだった――。
シーズン2・第2話、最後までお読みいただきありがとうございました!
地方の最恐トンネルを訪れた楓ちゃんですが、相変わらずのマイペースっぷりで、現地の地縛霊たちすらも「おいおい、こいつについていけば街に出られるぞ……!」とすっかり取り込まれて(?)しまいましたね(笑)。
幽霊界隈での彼女の評価(便利すぎる乗り物)が、もはや全国区になりつつある今日この頃です。
たくさんの霊を背負ったまま、彼女がこの後どんな街へ帰還し、どんな大迷惑(と本人は気づかないエンタメ)を引き起こすのか……次回以降もドタバタでお届けしていきます!




