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幽霊界隈で「派遣」と呼ばれています。~怖くない主人公の迷惑すぎる日常~  作者: 凪塩 未来


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シーズン2・第1話:派遣社員、新たな路線図をゆく

前作『幽霊派遣』では、たくさんの温かい応援やブックマーク、評価を本当にありがとうございました! 読者の皆様の熱いご声援のおかげで、こうして無事に【シーズン2】の幕を開けることができました……!


前回の実家&廃病院行脚を経て、さらに全国から熱視線を浴びるようになった(そして相変わらず絶望的に霊感ゼロな)主人公・水野楓ちゃん。

パワーアップした彼女の背後には、今回は日本全国から集まった新たな「乗客」たちが大集合!?


新章初日から、コールセンターが盛大に阿鼻叫喚の地獄絵図と化しますが、当の本人は至ってマイペース。

果たしてシーズン2はどんな大迷惑と大興奮の旅路になるのか――?


それでは、シーズン2・第1話スタートです!

「いってきまーす」


平日の朝、水野楓(みずの かえで)は自宅のアパートの扉を元気よく開けた。

相変わらず黒縁の大きめな眼鏡をかけ、足元は動きやすいスニーカー。そして肩には、パンパンに荷物が詰まった一泊用のリュックサックが背負われている。

手には、今週新たに新調したハードカバーの分厚い「取材ノート」が握られていた。


あの廃病院での一件以来、楓の日常には(本人の自覚なきまま)大きな変化が訪れていた。

以前は地元や近郊の心霊スポットを巡るだけだったが、WEB投稿サイトで自身の連載『実録・深夜の路線図ツアー』が爆発的な人気を獲得して以来、彼女の元には全国から「うちの地元にもヤバいスポットがあるから来てほしい」「私の街の幽霊を乗せていってくれ」といった謎の読者タレコミ(という名の幽霊たちの口コミ)が殺到するようになったのだ。


もちろん、楓はそれを「熱心なホラーファンのリクエスト」だと勘違いしている。

「みんな、そんなに私と一緒にリアルな恐怖を体験したいんだ……! 期待に応えなきゃ!」と、彼女のモチベーションはうなぎ登りだった。


――ガタッ。


アパートのエントランスを出た瞬間、背後からひんやりとした空気がまとわりついてきた。

振り返ると、そこには見慣れた(そして最近はすっかり顔馴染みになった)無数の影たちが、楽しそうに列をなして待機していた。


首の曲がった女が首をカクカクと鳴らし、オフィスで声を漏らしていた男がネクタイを整え、泥だらけの子供たちが「今日はどこ行くの?」とでも言いたげに裾を引っ張っている。

それだけではない。最近ではすっかり「口コミ」が広がったせいか、見知らぬ地方の古びた鎧を着た武者幽霊や、明治時代の学生風の幽霊まで、どこからともなく新規の「乗客」が続々と列に加わっているのだ。


「みんな、お待たせ! 今日はね、都内でも一番ヤバいって噂の『開かずの地下鉄駅跡』に行くからね。乗り過ごさないようにしっかり捕まってて!」


楓が明るく声をかけると、幽霊たちは嬉しそうに(あるいは呆れたように)冷たい笑い声を響かせ、ぞろぞろと彼女の背後に密着した。

自らは何も感じないまま、無数の霊を背負ったまま通勤ラッシュの街へと歩き出す。

これが、シーズン2を迎えた水野楓の、相変わらず迷惑で、最高にエキサイティングな一日の始まりだった。


――午後。都内某所のオフィス街。


楓の本業は、ごく普通のデータ入力や事務作業をこなす派遣社員である。

派遣先の会社は、大手IT企業のコールセンター。無機質なビルの20階にあり、数百人の社員が黙々とパソコンに向かってキーボードを叩いている、極めて現代的で明るい職場だ。


「水野さん、昨日のデータの集計、助かったよ。ありがとう」

フロアのリーダーを務める温厚な男性社員が、書類を片手に声をかけてきた。

「いえいえ、お疲れ様です! このくらいお茶の子さいさいですよ」

楓が満面の笑みで返答する。


だが、そのリーダーの背後をふと見た瞬間、楓は「あれ?」と首を傾げた。

リーダーのすぐ後ろの空間が、なぜか歪み、チカチカと蛍光灯が不気味に明滅していたのだ。

そして、その影から、じっとこちらを覗き込む「青白い顔の男」の姿がちらりと見えた。


(……ん? 今日の職場、また一段と空気がひんやりしてて気持ちいいな。クーラー効きすぎなのかな?)


楓が呑気にそんなことを考えていると、突然、オフィスの天井のスピーカーから、ざざざ、と激しいノイズが響いた。

直後、コールセンターの全オペレーターのパソコン画面が一斉に真っ暗になり、次の瞬間、一文字だけが画面いっぱいにズラリと描き出された。


——『シ、ネ』


「ひゃああああああっ!?」


フロアのあちこちで、女性社員たちの悲鳴が爆発した。

心臓を鷲掴みにされたような恐怖のなか、社員たちはパニックを起こして机の下に身を隠したり、頭を抱えて泣き叫んだりしている。

先ほどまで温厚に話していたリーダーも、恐怖のあまり腰を抜かし、床にへたり込んでガタガタと震え出していた。


一方その頃、フロアの真ん中に立つ水野楓はというと。

「うわあ、すごい! 一斉に画面がバグった! これ、もしかして都市伝説でよくある『呪いのウイルス』ってやつじゃない!? めっちゃリアルでテンション上がる……!」


目をキラキラと輝かせ、スマホを取り出してパシャパシャとフロアの惨状(というか社員たちのパニックぶり)を撮影し始めた。

もちろん、彼女の背後には、今回の職場見学(?)のために一緒についてきた、あの古びた鎧の武者幽霊や、数体の新顔の霊たちが大満足の笑みを浮かべて控えている。


一人ではビルの外に出られず、インターネット回線を通じてこのオフィスに迷い込んだ彼らにとって、楓という「移動基地」の存在は、まさに神出鬼没の侵略兵器そのものだった。

楓が会社に行けば、その背後から霊気が漏れ出し、コピー機が暴走し、パソコンが呪われ、社員たちが最高の悲鳴を上げてくれる。


「みんな、楽しんでるかい?」と言わんばかりに、楓は自分のデスクの上のアイスコーヒーをストローで美味しそうに吸い込んだ。


「水、水野さん……っ! お前、なんでそんなに平気なんだよ……っ! このフロア、絶対になんかいるぞ……! ひどい悪寒がする……!」

床に這いつくばったリーダーが、血の気のない顔で楓の足元にしがみついてきた。


「えー? そうですか? むしろ仕事の息抜きになっていいと思いますけどね!」

呑気に笑う楓の背後で、武者幽霊が「コイツ、大物だな……」とでも言うように、フッと言葉なき感嘆の息を漏らした。


定時までの数時間、コールセンターはかつてないほどの阿鼻叫喚の地獄絵図と化したが、当の本人である楓は「今日の記事のネタは最高に盛りだくさんだぞ」と、心の中でガッツポーズをしていたのだった。


そして夕方。

仕事を終えた楓は、社員たちの恨めしそうな(しかし恐怖に怯えた)視線を背中に受けながら、爽やかに退勤カードを切った。


「お疲れ様でしたー!」


ビルを出て、夕暮れの街へと繰り出す楓の足取りは軽い。

彼女の背後には、今日の職場で仕入れた数体の新しい霊たちが、嬉しそうにぞろぞろと列に加わっている。

「次はどのスポットに行こうかな。全国の読者さんたちも、新しい霊のバリエーションを楽しみにしてるはず!」


自らは何も感じないまま、日本全国の恐怖を背負って街を駆ける「幽霊派遣」の旅。

シーズン2の幕開けは、前作を遥かに凌駕する大迷惑と大興奮の渦の中で、静かに、そして盛大に加速していくのだった――。

シーズン2・第1話、最後までお読みいただきありがとうございました!


無事に新章をスタートさせることができましたが、いかがでしたでしょうか?(笑)

本人の自覚はゼロなのに、全国からの口コミ(?)で霊界での知名度がすっかり上がり、色とりどりの新顔幽霊たちを引き連れて歩くようになった楓ちゃん。

職場でのパニックを「リアルな演出最高!」と喜んでしまう相変わらずの圧倒的な鈍感さに、背後の霊たちも思わず呆れつつ感心しているご様子です。


シーズン2では、さらにスケールアップしたスポットや、個性豊かすぎる幽霊たちとのシュールな道中をお届けしていく予定です!

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