シーズン3・第2話:薄暗い廊下と、動き出す噂たち
シーズン3・第2話をお読みいただき、そしていつも温かい応援を本当にありがとうございます!
いよいよ廃小学校の校舎内へと足を踏み入れた楓ちゃん。理科室での「人体模型事件」を巡る、楓ちゃんと霊たちのシュールな温度差を描く第2話、ぜひお楽しみください!
それでは、スタートです!
ギイィィ……と重く錆びた鉄の扉が閉まると、校舎の中は急に外の喧騒が遮断され、深い静寂に包まれた。
「うわぁ、やっぱり木造とコンクリートが入り混じった古い校舎って、独特の雰囲気があって最高だなあ……!」
水野楓は目を輝かせながら、首から下げた一眼レフのシャッターを切った。
パシャリ、と乾いた音が薄暗い玄関ホールに響き渡る。フラッシュの光が、剥がれかけた掲示板や、埃をかぶった下駄箱の影を白く照らし出した。
外観以上に、校舎の内側は時間の流れが止まったかのような澱んだ空気が漂っている。
しかし、霊感ゼロの楓にとってはそれが恐怖ではなく、純粋な「最高のロケーション」にしか見えていなかった。
「まずは1階の職員室と理科室あたりをチェックして、それから階段を上がって音楽室に行こうっと」
ノートに簡単なフロアマップを書き込み、楓はカツカツと足音を響かせながら最初の廊下へと歩き出した。
――その背後では、彼女の影にびっしりと群がった数十体の霊たちが、まるで修学旅行の夜の廊下を歩く生徒たちのように、ワイワイガヤガヤと騒ぎ立てていた。
『おいおい、この廊下の突き当たり、絶対になんか出る雰囲気だぞ!』
『理科室のほうから、ホルマリン漬けの臭いが漂ってきそうだなー』
『ねえねえ、あの女、全然怖がってないどころかウキウキしてやがる。せっかくここまで連れてきてもらったんだから、なんか派手な演出してやろうぜ!』
霊たちは、楓の背中から思い思いに腕を伸ばし、天井の埃を払ったり、窓ガラスをコツコツと引っかいたりして怪奇現象を自演しようと試みる。
もちろん、その微弱な空気の揺らぎさえも、楓は「うーん、やっぱり古い建物だから、隙間風がすーすー入ってくるなあ」と呑気に片付けてしまっていた。
やがて、楓は1階の奥にある「理科室」のプレートがかかった木製の扉の前に立ち止まった。
すりガラスの向こう側は真っ暗で、中の様子は一切うかがえない。ネットの噂では、夜になるとこの理科室の人体模型が勝手に廊下を歩き回り、理科の準備室のドアをノックするという。
「おお……ここが噂の人体模型の部屋か」
楓はゴクリと唾を呑み込み、ワクワクした面持ちで理科室の引き戸に手をかけた。
ガチャリ、と重い音を立てて扉が開き、カビと古い薬品が混ざった独特の匂いが鼻腔をくすぐる。
部屋の中央には、分解可能な内臓パーツを備えた実物大の人体模型が、ぽつんと立っていた。
窓から差し込む薄暗い夕日がそのプラスチック製の肌を照らし出し、何とも言えない不気味な存在感を放っている。
『おっ、出たな人体模型!』
『おい、誰かあいつに憑依して、ちょっと首をグキッと曲げてみせろよ!』
『よし、俺がやってやる!』
霊たちのうちの一体が、面白半分で人体模型のほうへフワフワと移動していく。
次の瞬間、ガタガタガタッと、人体模型の足元から激しい物音が響いた。
「――っ!?」
さすがの楓も、至近距離での突然の物音にピクリと肩を揺らし、大きく目を見開いた。
「いま……足音が……!」
ついに来たか! 期待に胸を躍らせて、楓はカメラを構え、恐る恐る人体模型のほうへ一歩踏み出した。
しかし、霊に操られた人体模型は、バランスを崩してそのままガシャンと派手な音を立てて床に倒れ込んでしまった。プラスチックの臓器パーツがパラパラと周囲に転がり散る。
静まり返った理科室に、バラバラになった模型の残骸が無残に転がっている。
楓はまじまじとそれを見つめ、そして――「あ、なんだ……。ただの経年劣化か、あるいはネズミが引っ掛けたのか……。人体模型が自力で歩いたわけじゃないみたいだなあ。ちょっと残念」と、大きくため息をついて肩を落とした。
『おいおい、あんな派手にぶっ倒してやったのに、「残念」で片付けやがったぞあの女!』
『ビビるどころか、推理し始めてやがる……!』
『手厳しいなー! 人体模型のプライドがボキボキに折れてるぜ!』
霊たちは、楓のあまりのリアクションの薄さにずっこけそうになりながらも、どこか面白そうにケラケラと笑い声を上げた。
「ふう、気を取り直して、次は一番の目玉である3階の音楽室に行ってみよう!」
バラバラになった人体模型には目もくれず、楓はカメラを首にかけ直すと、ギシギシと音を立てる木製の階段を軽快な足取りで駆け上がっていく。
彼女の背後には、さらにテンションを上げた無数の霊たちが、ぞろぞろと楽しげな大行列を作ってついていくのだった。
シーズン3・第2話、最後までお読みいただきありがとうございました!
理科室の人体模型を自力で(霊の力で)倒したのに、「ネズミのせいかな?」と冷静に片付けられてしまった霊たちのリアクション、想像するとちょっとシュールでクスッときますね(笑)。
本人は本気でビビりたいのに、なぜか全く怖がらないというこの絶妙なすれ違い、ここからいよいよ一番のスポットである「音楽室」へと進んでいきます!




