シーズン3・第1話:旧・桜ヶ丘小学校と、遠足の到着
いよいよ本作もシーズン3に突入いたしました! いつも温かい応援とご愛読を本当にありがとうございます!
シーズン3の最初の舞台は、数年前に廃校となった「旧・桜ヶ丘小学校」。ワクワク気分で足を踏み入れる楓ちゃんと、遠足気分ですっかり大はしゃぎする霊たちのシュールな学校探索がいよいよ始まります!
新シーズンもマイペースな主人公の迷惑すぎる日常をどうぞお楽しみください!
それでは、シーズン3・第1話スタートです!
「――うわあ、すごい……!」
路線バスを降りた水野楓は、目の前にそびえ立つ古びた校舎を見上げて、思わず感嘆の声を漏らした。
バス停から緩やかな坂道を登った先にあるのは、数年前に統廃合で廃校となった『旧・桜ヶ丘小学校』だ。
山あいの自然に囲まれたその敷地は、緑の蔦がコンクリートの壁を這い、夕方でもないのにどこか薄暗い独特の空気をまとっている。割れた窓ガラスからは黒いカーテンがひらひらと揺れ、錆びついた校門の上では「桜ヶ丘小学校」の文字が半分剥げ落ちていた。
「これだよ、これ! こういうのを待ってたんだよ!」
楓は目を輝かせ、首から下げた一眼レフカメラを構えると、さっそく正門の写真を何枚もパシャパシャと撮り始めた。
ネットの噂では、夜だけでなく昼間でも校庭の端にある鉄棒のあたりから奇妙な足音が聞こえるとか、誰もいないはずの校舎の3階窓からこちらを覗き込む「白い顔」が見えると囁かれている場所だ。
しかし、肝心の楓自身には、背筋が凍るようなプレッシャーも、誰かに見られているような気配も一切感じられない。
ただ「空気がひんやりしていて、夏の暑さを忘れるには最高のスポットだなあ」と、相変わらずのマイペースぶりを発揮していた。
「よし、それじゃあさっそく中に入ってみようか」
意気揚々と錆びた校門をくぐり、草の生い茂るグラウンドへと足を踏み入れる楓。
――その背後では、路線バスから彼女と一緒に降り立った無数の霊たちが、まるで遠足にやってきた小学生のようなテンションではしゃぎ回っていた。
『おおーっ! 広い校庭だぜ!』
『見てみろよ、あの鉄棒の錆び具合、最高に味があるじゃねえか!』
『おい、みんな、はぐれるなよー! この「派遣(乗り物)」の女から離れると、またあの暗い山道に置き去りにされるからな!』
霊たちは、楓の背中にピタリと張り付くようにして、ぞろぞろと校庭を歩いていく。
その数は、赤坂ドライブインのときよりもさらに膨れ上がっていた。道中で拾い食いならぬ「拾い霊」を重ねた結果、今やその行列は小さなクラスの団体旅行ほどの規模に達している。
もちろん、霊感ゼロの楓にはその大行列の気配すら見えない。
ただ、グラウンドを歩いているときに、ふと肌寒さを感じて「うーん、やっぱり標高が高いからかな。ウインドブレーカー持ってきて正解だったな」と、軽くジャンパーのジッパーを上に引き上げただけだった。
「まずは正面玄関から校舎に入って……それから、噂の音楽室と理科室をチェック、と」
手元の取材ノートを開き、本日のルートを確認する楓。
そのノートのページを、背後から数十体の霊たちが代わる代わる覗き込んでいる。
『おっ、次は音楽室だってよ!』
『ベートーベンの肖像画って、まだあのボロボロの額縁に飾ってあるのかなぁ』
『おい、あの女がピアノの前に座ったら、誰か低音の鍵盤を勝手に鳴らして驚かせてやろうぜ!』
『いやいや、ビビらせてもあの女は全然反応しないだろ。それより、あの女の驚く顔より、もしこの後ここに別の一般人が迷い込んできたときの悲鳴のほうが面白そうじゃねえか?』
霊たちは、楓の背中でキャッキャと楽しそうに悪だくみを話し合っている。
しかし、本人はそんな彼らの声を聞くこともなく、「ふう、なんだか少しお腹が空いてきたなあ。校舎に入る前に、持ってきたカロリーメイトでも食べておこうかな」と、リュックから補給食を取り出した。
ガサゴトと包みを開ける音が、静まり返った廃校のグラウンドに響き渡る。
「よし、エネルギーも補給したし、いよいよ本格的な探索スタートだ!」
カメラをしっかり手で持ち直し、楓は校舎の入り口へと向かう重たい鉄の扉に手をかけた。
ギイィィ……と、錆びついた蝶番が耳障りな金切り声を上げて、ゆっくりと扉が開く。
その瞬間、校舎の内部から、外の空気とは比べ物にならないほど冷たく、澱んだ霊気がドッと押し寄せてきた。
まるで長年閉じ込められていた無数の影たちが、新しい「おもちゃ」の到着を歓迎するかのように、一斉にうごめき始める。
だが、楓はその冷気を「うわ、コンクリート造りの建物の中は一段とひんやりしてて気持ちいいな!」と完全に勘違いしたまま、何の躊躇もなく闇の広がる校舎の中へと足を踏み入れたのだった。
「幽霊派遣」の学校大冒険が、いま静かに幕を開ける――!
シーズン3・第1話、最後までお読みいただきありがとうございました!
ついに廃小学校に到着した楓ちゃんと、彼女を「移動バス」扱いして遠足気分を満喫する霊たちの構図、楽しんでいただけましたでしょうか(笑)。
本人は本気でホラー体験を求めているのに、周囲をどんどん怪異の動く観光バス状態にしていくこのスタイル、ここからいよいよ校舎の内部へと進んでいきます!




