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幽霊界隈で「派遣」と呼ばれています。~怖くない主人公の迷惑すぎる日常~  作者: 凪塩 未来


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シーズン2・第16話:廃ドライブインのバス旅と、増える乗客たち

シーズン2・第16話をお読みいただき、そしていつも温かい応援を本当にありがとうございます!


今回は、マイペースな楓ちゃんが路線バスに乗って、新たな心霊スポット「赤坂ドライブイン」へ向かうお話です。本人はワクワクのバス旅ですが、背後の霊たちは車内でもすっかり大はしゃぎで……?


無自覚な「派遣行脚」が山奥の廃墟へと向かう第16話、ぜひお楽しみください!


それでは、スタートです!

「よし、今週末の準備は完璧っと!」


土曜日の朝、水野楓(みずの かえで)は大きめのリュックサックを背負い、最寄りのバス停へと軽快な足取りで歩いていた。

今日の目的地は、隣町の山あいにひっそりと佇む『赤坂ドライブイン』だ。

かつては大型トラックの運転手や家族連れで賑わっていたものの、三十年前に閉業して以来、すっかり寂れ果てて今では「夜な夜な謎のトラックのエンジン音が聞こえる」「赤い影がウロウロしている」という噂が絶えない有名な心霊スポットだった。


「ふふ、廃墟にドライブインなんて、名前からしてロマンがあるよねえ。今度こそ、何かこう……ゾクッとするような霊障が起きないかなあ」


期待に胸を膨らませる楓の背後には、もちろん今回もアパートからぞろぞろと引き連れてきた「大名行列(幽霊たち)」がぴっとりと張り付いていた。

首の曲がった女に、病院の外科医、そして実家の近くで拾ったはぐれ霊たち。さらに、今朝のアパートの廊下で新しく仲間入りした「昔のヤンキー風の霊」まで加わり、総勢はなかなかの大所帯になっていた。


『おいおい、今日の行き先はドライブインだってよ!』

『懐かしいなぁ、俺がまだ生きてる頃は、あそこの食堂のラーメンが結構うまかったんだぜ』

『ねえねえ、今日の乗り物はバスなのかい? 電車より揺れが少なくて快適そうだねぇ』


霊たちは、楓の背中にぶら下がるようにして、まるで遠足気分ではしゃぎ回っている。

もちろん、霊感ゼロの楓にはその重みすら「ちょっとリュックの肩紐の調整が甘かったかな?」程度にしか感じられていない。


バス停のベンチに腰掛け、時刻表を眺めていると、遠くからゴウンゴウンとディーゼルエンジン音を響かせながら、年季の入った路線バスがやってきた。

プシューと扉が開き、楓はリュックを背負ったまま一番乗りで乗り込む。


「おや、お嬢さん、今日はまた大きな荷物だねえ。どちらまで?」

疲れた様子の初老の運転手が、バックミラー越しに声をかけた。


「あ、はい! 隣町の赤坂ドライブインまで!」

明るく答える楓の言葉に、運転手はふっと苦笑いを浮かべた。

「あんな寂れた何もないところで降りて、何をするんだか。若い人は物好きだねえ」


「へへ、ちょっと探訪というか、取材の帰りでして」

笑いながら、楓は車内の後方座席へと腰を下ろした。


――その瞬間。

楓を追うようにしてバスの車内に乗り込んできた数十体の霊たちが、一斉に車内になだれ込んだ。


『うわ、狭い車内だなオイ!』

『でも、みんなして窓の外の景色が見られるから悪くないぞ』

『おい、一番前の運転席のオッサン、めちゃくちゃ肩こりそうな顔してやがるぜ』


バスが発車し、ガタゴトと山道を登り始める。

その車内では、みるみるうちに空気が冷え込み、窓ガラスにうっすらと白い結露が張り付いていった。


「……あれ? なんか急に車内が寒くなったぞ。エアコン、そんなに強くしてたか?」

運転手がバックミラーを覗き込みながら、首を傾げた。

だが、ミラーに映っているのは、一番後ろの席でノートパソコンを開き、熱心に何かをタイピングしている楓の姿と、その周囲を埋め尽くすようにうごめく無数の「冷たい影たち」だけだ。


もちろん、人間の目にはその影の姿は映らない。しかし、ただならぬ悪寒と、背筋が凍るようなプレッシャーだけが生々しく運転手を襲っていた。


「ひっ……なんだこれ、まるで後ろに何十人も乗客が乗ってるような……いや、それ以上に重いぞ、このバス……っ!」

冷や汗をダラダラと流しながら、運転手は必死にハンドルを握り締めた。


その最中も、楓は全く気にせず、ノートの画面に向かってカタカタとキーボードを叩き続けていた。

「うーん、廃ドライブインの歴史を調べてると、やっぱり当時の人間関係のドロドロした噂が出てきて面白いなあ。これが次の小説のいいスパイスになりそうだぞ」


自分の書くエッセイが、幽霊たちの移動を完璧にサポートする「超特急のフリーパス」になっていることなど知る由もない。


バスはやがて、緑の深くなる山道を進み、かつての賑わいを失った『赤坂ドライブイン』の朽ち果てた駐車場へと、ガタゴトと音を立てながら滑り込んでいった。


「おっと、着いたみたいだな。お嬢さん、気をつけてな」

運転手はバスが停車するやいなや、冷や汗を拭いながら早口で言った。


「はい、ありがとうございました!」

元気に挨拶をして、楓はバスを降りる。


――その背後に、ぞろぞろと嬉しそうな顔をした大名行列の幽霊たちが、一斉にバスから降り立っていった。


自らは何も感じないまま、霊たちを新たなスポットへ運ぶ人間「幽霊派遣」。

廃ドライブインを舞台に、今度はどんな大騒動が巻き起こるのか――。

シーズン2・第16話、最後までお読みいただきありがとうございました!


路線バスで廃ドライブインへと向かう楓ちゃんと、車内でキンキンの冷気を振り撒きながら大はしゃぎする霊たちの構図、楽しんでいただけましたでしょうか(笑)。

本人は全く悪気がないのに、移動するだけで周囲の空間を凍りつかせていくシュールな旅、ここからさらに盛り上がっていきます!

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