シーズン2・第13話:編集部のパニックと、無自覚な原稿持ち込み
シーズン2・第13話をお読みいただき、そしていつも温かい応援を本当にありがとうございます!
今回は、マイペースな楓ちゃんがご機嫌で「出版社(編集部)」に原稿を持ち込むお話です。本人は締め切りに間に合ってドヤ顔ですが、彼女の背後に群がる霊たちは、ピリついた編集部の人間たちを格好のオモチャにし始めて……?
無自覚な「派遣行脚」がプロの編集者たちを直撃する第13話、ぜひお楽しみください!
それでは、スタートです!
「失礼しまーす! 今週分の怪談エッセイの原稿、持ってきました!」
水野楓は、元気いっぱいの挨拶とともに、老舗出版社『青月社』の編集部フロアに足を踏み入れた。
夕方の編集部は、締め切り間際特有のピリつした空気と、山積みにされた雑誌の束でごった返している。デスクのあちこちからキーボードを叩く激しい音が響き、編集者たちが険しい顔でモニターを睨みつけていた。
——だが、そのフロアの空気が、楓の一歩とともにガラリと変わった。
自動ドアの向こう側から、ジワジワと這い寄るように冷気が広がり始める。
真夏のエアコンが効いた室内とは明らかに違う、骨の髄まで凍りつくような湿った寒さだ。フロアの天井の蛍光灯が、チカチカと不気味に明滅し始めた。
「ん……? なんか急に寒くなったな。冷房の温度、誰か下げたか?」
ベテランの男性編集長が、首元を抑えながら眉間にしわを寄せた。
その時、楓の背後にぴっとりと張り付いていた「大名行列(幽霊たち)」が一斉にフロアになだれ込んできた。
『おお、ここはまた一段と人間が多いな!』
『見てみろ、あそこのハゲ頭の男、必死にパソコン打ってるぜ』
『ねえねえ、後ろから耳元で変な声を出してみようよ!』
廃病院やスーパーを経て、すっかり楓の「お供」として定着した霊たちは、編集部の人間たちの慌てふためく様子を見て、早くも面白がり始めていた。
そして、彼らを運んできた張本人である楓は、周囲の人間が突然ガタガタと震え出したことなど露知らず、ニコニコしながら担当編集者のデスクへと歩いていく。
「吉川くん、お疲れ様! 今週の原稿、めちゃくちゃ気合入れて書いてきたよ!」
先日のトラウマですっかり青ざめている後輩編集者・吉川のデスクに、楓はドンと原稿の束を置いた。
吉川は、楓の背後にうじゃうじゃと群がる無数の影(ナース、外科医、その他大勢の怪異たち)を視界の端にとらえ、恐怖のあまり椅子からひっくり返りそうになっていた。
「ひっ……! きた……また来たぞ、あの歩く心霊スポットが……っ!!」
「え? 吉川くん、どうしたの? また床の掃除? 最近、その姿勢ブームなの?」
「掃除じゃねえよ! お前、後ろに何連れてきてるんだよ! なんで編集部にまでこんな禍々しい大群を引き連れてくるんだよ……っ!」
半泣きになりながら叫ぶ吉川を見て、周囲の編集者たちも「どうした新人? 急に発狂して……」と不審な目でこちらを見ている。
しかし、その周囲の人間たちも、楓が近づいたことで次々と異変に見舞われ始めていた。
「うわっ、なんだこれ……急に背中が重くなった……」
「デスクの引き出しが勝手にガタガタ鳴ってるぞ……?」
「待て、窓の外に誰もいないはずなのに、ガラスに無数の手形がついていく……っ!」
編集部フロアのあちこちで悲鳴とどよめきが巻き起こる。
だが、霊感ゼロの楓だけは、相変わらずキョトンとした顔で首をかしげるばかりだった。
「ええ? 何も起きてないよ? みんな、ちょっと締め切り前で疲れが溜まってるんじゃないの? ほら、私が取材してきた廃病院の怪談を読めば、涼しくなってリフレッシュできるかもよ!」
「リフレッシュできるかっ! それ以上その原稿を近づけるな、呪われる……っ!!」
吉川が必死に両手でバツ印を作りながら叫ぶ。
その様子を眺めながら、霊たちは大喜びでキャッキャと(霊波で)はしゃいでいた。
『この編集部、いいリアクションする奴が多いな!』
『なあ、あのデスクの上の資料の山、ちょっと風で散らかしてみようぜ』
『いいねぇ、もっともっと慌てさせてやろう!』
霊たちのイタズラによって、編集部の資料がフワリと宙に浮き、派手に散らばった。
「うわあああ! 原稿が勝手に宙を舞ったぞーーっ!?」
「ポルターガイストだーーっ!!」
大パニックに陥る編集部の中、楓だけは「あらあら、風が強かったのかな?」と、マイペースに自分の原稿を拾い集めている。
自らは何も感じないまま、職場を一大ホラーショーに変えていく「幽霊派遣」。
彼女が原稿を持ち込むたびに、編集部の精神力は着実に削られていくのだった――。
シーズン2・第13話、最後までお読みいただきありがとうございました!
締め切りに追われる編集部に、大量の霊を引き連れてニコニコと現れる楓ちゃんと、恐怖で半泣きになる吉川くんたちのギャップ、楽しんでいただけましたでしょうか(笑)。
本人は全く悪気がないのに、職場がそのままポルターガイストの実験場になっていくシュールな構図、これからも全力で加速させていきます!




