シーズン2・第11話:日常の異変と、アパートのルームメイトたち
シーズン2・第11話をお読みいただき、そしていつも温かい応援を本当にありがとうございます!
大量の幽霊たちを自宅アパートに連れ帰り、すっかり「霊界のターミナル駅」と化した部屋でマイペースに執筆を続ける楓ちゃん。その一方で、友人たちは連日続く怪奇現象でぐったり……というシュールなすれ違いをお届けします(笑)。
本人は全く気づかないまま、幽霊たちとの奇妙なルームメイト生活が始まっていく第11話、ぜひお楽しみください!
それでは、スタートです!
「うーん、おかしいな……」
水野楓は、愛用のマグカップに注いだばかりのコーヒーを片手に、ノートパソコンの画面から顔を上げた。
今日の彼女の部屋は、いつもより心なしか空気がひんやりとしている。窓を閉め切っているにもかかわらず、どこからかカーテンがふわりと揺れるような微風を感じた。
「最近、美沙からの連絡がやけに少ないし、実家の母に電話したら『なんか最近、夜中にリビングの足音がうるさい』とか言ってたし……。もしかして、私の周りで何か流行り病みたいなものでも流行ってるのかな?」
首をかしげる楓の背後。
六畳一間のワンルームの天井付近には、廃病院から連れてきた白衣のナースや外科医、さらに数え切れないほどの幽霊たちが、まるで満員電車のつり革につかまるようにぎっしりと陣取っていた。
『いやあ、このアパート、居心地いいなぁ』
『そうか? さっきからこの人間、ずっとパソコンに向かって文字打ってるだけだぞ』
『それがいいのさ。怖がらせてもくれない代わりに、騒音も出さないし、なによりここにいると人間の生活圏に自然に溶け込める』
『おい、そろそろ隣の部屋の様子でも見に行こうぜ。あっちの住人はけっこういいリアクションしそうだったぞ』
幽霊たちはすっかりこのアパートを「拠点」として気に入り、自由にリビングや廊下を闊歩していた。もちろん、人間の目には何も見えないし、声も聞こえない。ただ、部屋の温度が常に冷蔵庫並みに低いことと、なぜか置物や本が勝手に微かに揺れること、そして何より――楓の周りにいるだけで、妙な寒気と疲労感が蓄積していくこと以外は。
「まあいっか! 人間、健康第一って言うしね。まずは今週分の怪談小説を仕上げちゃおう!」
嫌なことはすぐに忘れるのが楓の特技である。
彼女はカチャカチャと小気味よい音を立ててキーボードを叩き始めた。その画面に並ぶのは、昨夜廃病院で体験した(と本人が思い込んでいる)大迫力の怪奇現象の数々だ。
『……おい、あいつ、俺たちのこと「昨日の夜に出会った優しいおじさん(※外科医の霊)」とか小説に書き始めてないか?』
『しかも「親切に手術のレクチャーをしてくれた紳士」って……俺はそんなキャラじゃねえ!』
外科医の霊が頭を抱えてプルプルと震えるが、楓の執筆の手は全く止まらない。
むしろ、霊たちが近くにいることで、インスピレーションが刺激されていると本人は勘違いしているのだからタチが悪い。
その頃、楓の友人である美沙のマンションでは。
「……はあ、また昨夜もあまり眠れなかった……」
美沙は目の下にうっすらとクマを作った顔で、リラクゼーションサロンの開店準備を進めていた。
自分の部屋の鏡が割れて以来、毎晩のように室温が下がり、誰もいないはずの廊下から足音が聞こえる気がする。友人の楓に相談しても、「え? 私の部屋は快適で何も起きないけどなぁ?」と返ってくるだけで、全くあてにならない。
(もしかして、私……変なものに憑りつかれているの……?)
怯える美沙の背後では、廃病院から流れてきたナースの霊が、ふうっと冷たい息を吹きかけて遊んでいた。
もちろん美沙には見えないが、背筋が凍るような悪寒に、彼女は思わずその場でブルリと身震いする。
世界は何も変わっていないように見えて、確実に「水野楓の移動ルート」に沿って蝕まれていく。
自らは何も感じないまま、霊を運ぶ「派遣」としての役割を淡々とこなす楓。
彼女がこの「見えない大名行列」の存在に気づく日は来るのか、それとも――?
シーズン2・第11話、最後までお読みいただきありがとうございました!
幽霊たちがぎっしり詰まった部屋で、トマトパスタやコーヒーを片手にのんきに小説を書く楓ちゃんと、彼女が書く「優しいおじさん(※元・恐怖の外科医)」というトンデモ設定に頭を抱える霊たちのやり取り、楽しんでいただけましたでしょうか?
マイペースな主人公と、彼女に振り回される(?)霊たちのドタバタ共同生活は、ここからさらにエスカレートしていきます!




