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幽霊界隈で「派遣」と呼ばれています。~怖くない主人公の迷惑すぎる日常~  作者: 凪塩 未来


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シーズン2・第9話:手術室の怪異と、霊たちの観光ツアー

シーズン2・第9話をお読みいただき、そしていつも温かい応援を本当にありがとうございます!


ついに廃病院の最深部、いわくつきの「手術室」へと足を踏み入れた楓ちゃん。待ち構えていたのは、最恐の外科医の霊……のはずが、相変わらずのマイペースな取材魂を発揮して、相手を盛大にドン引きさせています(笑)。


恐怖を与えるはずが、すっかり霊たちの観光ツアーの引率状態になってしまった外科医の運命やいかに!?


それでは、第9話スタートです!

「ふむふむ、ロビーの次は……やっぱりこの奥に進むのが王道よね」


水野楓(みずの かえで)は、懐中電灯の光を廊下の突き当たりにある重厚な両開きドアへと向けた。

『手術室』と掠れたプレートが掲げられたその場所は、病院跡地の中でも特に強い怨念や負のエネルギーが渦巻いていると、ネットの掲示板でも噂されていた最深部だ。


一般人であれば、近づくだけで吐き気やめまいを催すような魔のエリア。

だが、楓の足取りは相変わらず軽やかで、むしろ「いよいよメインイベントだ!」とワクワクした笑みを浮かべている。


もちろん、彼女の背後には、ロビーで出会った白衣のナースの霊も含め、総勢数十体を超す「観光客(幽霊たち)」がぞろぞろと大名行列のように続いていた。


『おいおい、あそこの部屋はヤバいぜ。昔、失敗した手術の噂が絶えなかったいわくつきの部屋だ』

『へえ、まだ当時の医療器具とか残ってるのかねぇ』

『ねえ、あの人間、また無計画に突っ込んでいくつもりだよ。止めなくていいのかい?』

『止めなくたって平気さ。あいつはどれだけ危ない場所に突っ込んでも、なぜか無傷で生還する「特級の移動装置」だからな。むしろ中がどうなるか見てみようぜ!』


幽霊たちは、まるでテーマパークのアトラクションにはしゃぐ子供のように、ひそひそと楽しそうに囁き合いながら楓の背中を押すようにしてついていく。


ガァァ……と、楓が手術室の重いドアを両手で押し開けた。


途端に、室内の空気が一気に凍りついた。

窓の無い密閉された空間。中央には不気味に錆びついた手術台がぽつんと置かれ、その周囲には無数のメスや注射器が散乱している。さらに、壁や床にはおびただしい数の黒ずんだ染みが――。


その中央に、ひときわ巨大で禍々しい影が揺らめいていた。

十数年前にこの部屋で命を落とした外科医の霊だ。彼は生前の絶望と狂気をそのまま纏い、常人であれば一目で正気を失うほどの恐ろしい形相で、ゆっくりと振り返った。


『……許さない……私の領域に踏み込む者は……すべて……切り刻んで……』


地響きのような低音が、室内の空気をビリビリと震わせる。

外科医の霊は、怒りと憎悪を剥き出しにしながら、恐ろしいスピードで楓へと滑り寄った。


——これだ。これを見たかった!

楓は心の中で歓声を上げた。


「わあ……! すごい! これぞ本物の怪奇現象……!」


感動のあまり、楓はカメラのシャッターを連打した。

フラッシュの光(もちろん霊の目には眩しくないが、彼女の気迫が眩しい)が薄暗い手術室を照らし出す。


外科医の霊は、突撃してくるはずの獲物がカメラを向けて目を輝かせているものだから、盛大に勢いを削がれた。

『……は? なんだお前は。恐怖に狂って写真を撮っているのか?』


「違います! ホラー作家志望の水野楓です! よろしければ、当時の手術の様子や、その時の絶望感をもう少し詳しくインタビューさせていただけませんか! あと、できれば宙に浮くとか、物を飛ばすとか、そういう派手なポルターガイスト現象を見せてほしいんですけど!」


『……はあああ!? なんだこいつは! 気味が悪い! 怖くないのか!?』


外科医の霊がドン引きして一歩後ずさった。

長年、人間を怯えさせることだけを生きがい(死にがい?)にしてきた彼にとって、自分を前にして取材の交渉をしてくる人間など、想像の斜め上を行く存在だった。


すると、その様子を後ろから眺めていた「連れ添いの霊たち」が、一斉にクスクスと笑い出した。


『おいおい、外科医の旦那、そんなんじゃこの女は落ちないぜ?』

『そうそう、この女は恐怖を感じる回路がぶっ壊れてるのさ。それより旦那、あんたこの病院から外に出たくないかい?』

『外……?』

『そうさ、この女についていけば、電車に乗って都会の街まで一瞬で行けるんだ。おまけに退屈もしない。どうだい、一緒に来ないか?』


外科医の霊は、目の前の奇妙な人間(楓)と、彼女の背後に群がる大量の「元・患者や無関係な霊たち」を交互に見て、絶句した。

自分が支配するはずの恐怖の病院が、いつの間にか「謎の霊たちによるバスツアーの経由地」と化している。


「うーん、なんだか後ろが一段と賑やかになった気がするな……。やっぱり、この病院にはたくさんの霊が集まっているんだわ!」


相変わらず的外れな感想を抱きながら、楓は満足げにノートにメモを書き込む。

驚かせたい幽霊と、体験したい人間、そして勝手に便乗するギャラリーたち。

すれ違う思惑の果てに、この大量の霊を背負った楓が街へ帰ったとき、周囲の人間たち(友人や家族)にどんなさらなる大騒動が巻き起こるのか――。


彼女が「幽霊派遣」である限り、平穏な日常への道のりは、まだまだ遠く険しいものだった。

シーズン2・第9話、最後までお読みいただきありがとうございました!


狂気に満ちた外科医の霊さえも、楓ちゃんの「取材させてください!」という圧倒的な圧(と鈍感さ)の前にタジタジになってしまう様子、いかがでしたでしょうか。

恐怖のスポットが、すっかり珍スポットツアーのようになっていくカオスな展開をお楽しみいただけていれば幸いです!


大量の幽霊を引き連れたまま、いよいよこの後は「日常」へと帰還していく楓ちゃん。彼女が街へ戻ったとき、周囲の友人や家族には一体どんなさらなる大騒動が待ち受けているのか――!?

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