シーズン2・第8話:廃病院の内部へ、そして霊たちの遭遇
シーズン2・第8話をお読みいただき、そしていつも温かい応援を本当にありがとうございます!
ついに廃病院の内部へ侵入した楓ちゃん。待ち構えていたのは、ベテランの地縛霊である白衣のナースさん……のはずが、まさかの「霊界からの観光客たち」に圧倒されるというシュールすぎる展開に(笑)。
脅かすつもりが逆にペースを狂わされてしまう幽霊たちの悲喜交々を、今回もぜひお楽しみください!
それでは、第8話スタートです!
ギィィィ……と、錆びついた金属が擦れ合うような重い音が、静まり返ったエントランスに響き渡った。
「うわあ……すごい埃。やっぱり中は空気が違う気がする!」
水野楓は目を輝かせながら、懐中電灯の光をロビーの天井へと向けた。
かつては受付カウンターがあったであろう場所は、壁の剥き出しになったコンクリートが黒ずみ、あちこちに散らばったカルテの残骸が踏まれるたびにカサカサと乾いた音を立てている。
一般人であれば、一歩踏み入れた瞬間に押し寄せる強烈な澱んだ気配に足がすくみ、すぐにでも引き返したくなるような空間だ。
だが、楓の足取りは軽やかで、むしろ「いい雰囲気のロケーションだ」と心の中でガッツポーズを作っていた。
もちろん、彼女自身が気づいていないだけで、彼女の背後からぞろぞろとなだれ込んできた「大量の同行者(幽霊たち)」にとっては、ここはまったく別の意味でエキサイティングなテーマパークと化していた。
『おおい、見てみろよあそこ! 受付のところに昔のカルテがまだ残ってるぜ』
『へえ、この病院、昔は結構大きな総合病院だったんだねぇ。私たちが生きてた頃より立派じゃないか』
『ねえねえ、この病院に元々いた地縛霊の連中はどこにいるんだろ? ご挨拶しに行こうぜ!』
背後に群がった幽霊たちは、まるで修学旅行でやってきた生徒のようにキャッキャと騒ぎながら、ロビーのあちこちに散らばっていく。
その時だった。
ススス……と、受付カウンターの裏から、青白い顔をしたナース服姿の影がすーっと姿を現した。
十数年前にこの病院で命を落とし、そのまま地縛霊となったその女性は、長年誰も近づかなかったはずの病院に土足で踏み込んできた「生きた人間」を発見し、冷徹な目を向けた。
——今から、この人間を徹底的に怖がらせて、二度と足を踏み入れないようにトラウマを植えつけてやろう。
ナースの霊は怨念を込めた低いうめき声を上げながら、楓の目の前へと滑るように歩み寄った。
『……ここハ……人間が……入る……場シ……所……で……は……な……い……』
ぶるぶる手足を震わせ、いかにも「私を恐れなさい」と言わんばかりのポーズをとるナースの霊。
だが、その目の前にいたのは、恐怖で縮み上がるどころか、パッと目を輝かせたホラー作家志望の少女だった。
「わっ……! すごい! 白衣の幽霊さんだ……!」
楓は興奮のあまり、懐中電灯をピタリとナースの霊に向けた。
あまりの至近距離に、ナースの霊の方が「えっ?」と動きを止めて目を丸くする。普通なら人間は悲鳴を上げて逃げ出すか、腰を抜かすはずなのだが、目の前の女はメモ帳とペンを取り出しそうな勢いでじっと観察している。
「あの、もしもし? 何か言葉を喋っていただけますか? 例えば『ここから出ていけ』とか『呪うぞ』とか、そういう定番のセリフでも構わないんですけど!」
『……は?』
ナースの霊は絶句した。
恐怖を与えに来たはずが、逆に目をキラキラさせた変質者に食いつかれている。
気まずい沈黙がロビーを包み込んだその瞬間、楓の背後から、先ほどまで一緒についてきていた「別の幽霊たち」がワラワラと前に出てきた。
『おいおい、ベテランの地縛霊さんよ、そんな生ぬるい脅し方じゃこの女は微動だにしないぜ?』
『そうそう、この女はね、どれだけ脅しても全く怖がらない特級の「鈍感フィルター」の持ち主なのさ。おまけに私たちをあちこち運んでくれる最高の乗り物なんだから、あんまり変なプレッシャーかけないでくれよな!』
『……は? 何こいつら? 外から勝手に湧いて出てきた霊なの? っていうか、なんであんたたち、その人間の後ろにそんなに仲良さそうに群がってわけのわからないこと言って……って、重っ! なにこの大行列!?』
ナースの霊は、楓の背後に連なる数十体もの幽霊の群れに気づき、あまりのシュールな光景に思わず自分の霊体を抱えてよろめいた。
恐怖の心霊スポットであるはずの旧・青葉台病院は、今や「霊界の観光客が押し寄せた珍スポット」のような奇妙な賑わいを見せ始めていた。
そして、当の本人はそんな霊たちの会話に全く気づかず、「やっぱりこの病院、本物の霊現象が起きてる……! 取材の収穫がすごすぎる!」と、一人で勝手に大喜びしているのだった。
シーズン2・第8話、最後までお読みいただきありがとうございました!
恐怖の地縛霊として威厳を示そうとしたナースさんが、楓ちゃん側のあまりのマイペースさと、背後に群がる謎の大行列にドン引きしてしまう様子、いかがでしたでしょうか。
本人は「最高の取材だ!」と大喜びしていますが、霊たちにとってはもはやカオスな観光ツアー状態ですね……!
次回はさらに院内の奥深くへと進んでいきます。果たして、この大量の「珍客」たちを引き連れた楓ちゃんを待ち受けているさらなる怪異とは――!?




