シーズン2・第6話:出発前夜の準備と、霊たちの遠足気分
シーズン2・第6話をお読みいただき、そしていつも温かい応援を本当にありがとうございます!
いよいよ週末の「旧・廃病院」取材を控え、張り切って荷造りをする楓ちゃん。しかし、その背後では幽霊たちがまるで「修学旅行の前夜」のようなテンションで遠足の準備(?)を進めているという、なんともシュールな空間が広がっています(笑)。
本人は恐怖を求めているのに、実際は「恐怖のデリバリー配達員」と化しているこのすれ違い、ぜひ最後まで楽しんでいってください!
それでは、第6話スタートです!
「えーっと、懐中電灯の替えの電池よし、予備のノートよし、虫よけスプレーに……おやつはチョコレート、と」
木曜日の夜。
水野楓は自室の床に大きなリュックサックを広げ、今週末に控えた『旧・廃病院』の取材に向けた荷造りをテキパキと進めていた。
彼女の表情は真剣そのもので、まるで遠足の前日の小学生のようにワクワクとした光景が漂っている。
だが、そんなリビングの空気は、人間以外の存在によって完全に支配されていた。
『ねえねえ、次の行き先は病院だってよ』
『やったあ、あそこは昔から色んな噂があるいい物件だよねぇ』
『あの人間、ちゃんと私たちの分のバス代……じゃなかった、移動用のルートを確保してくれてるのかい?』
『心配しなくても、あの女についていけば勝手に一番ヤバいところに連れて行ってくれるさ』
部屋のあちこちから、ぞわぞわと這い出すようにして無数の影たちが集まってきた。
天井の隅で逆さまにぶら下がる男の霊や、床を這う泥まみれの子供の霊たちが、楓の手元を覗き込むようにしてヒソヒソと(もちろん人間には聞こえない声で)言葉を交わしている。
彼らにとって、楓はもはや「恐怖の対象」などではない。
自分の足では何日かけても街を跨ぐ移動ができない彼らにとって、毎週末のようにあちこちの心霊スポットを巡り歩いてくれる楓は、神様をも凌ぐ最高級の「歩くターミナル駅」であり、無限に連れていってくれる「フリーパス付きのリムジンバス」だった。
「ふう、これでよし!」
楓はパンパンに膨らんだリュックサックのチャックを勢いよく閉めると、満足げに両手を腰に当てた。
そして、そのままの勢いで窓の外の夜空を見上げる。
「今度こそ、あそこならきっと……。冷気が背筋を凍らせて、目の前でポルターガイストが起きて、窓ガラスが勝手にガタガタ揺れるような、極上の恐怖体験ができるはずだわ!」
その言葉を聞いた瞬間、背後に群がっていた霊たちの間で「プッ……」「クスクス……」と奇妙な笑い声が連鎖した。
『この女、相変わらず何を言ってるんだか』
『私たちを怖がらせたいのか、それとも自分が怖がりたいのか、いまいち分からないよねぇ』
『まあいいさ。あそこに行けば、あの編集者の男みたいに、周りの人間が最高に面白い悲鳴を上げてくれるんだから』
霊たちはクネクネと体を歪めながら、嬉しそうに影を揺らした。
彼らが狙っているのは、楓自身ではない。
楓がその身に纏い、無意識のうちにあちこちの街へと運び屋のようにばら撒いていく「圧倒的な怪異の連鎖」こそが、彼らにとっての最大の娯楽だったのだ。
本人は「自分が恐怖を体験しに行く」つもりでいるのに、実際には「背後に大勢の幽霊を従えた恐怖のデリバリー配達員」として街を闊歩している。
この凄まじいまでの認識のズレに、当の本人格である楓は、いまだに片鱗すら気づいていない。
「さて、明日は金曜日。早く寝て、土曜の早起きに備えておこうっと」
鼻歌混じりに電気を消し、楓はベッドへと潜り込んだ。
部屋の明かりが落ちた瞬間、カーテンの隙間やクローゼットの暗がりから、ぞろぞろと無数の冷たい気配が這い出してきて、楓のベッドを取り囲むようにピタリと寄り添う。
まるで、修学旅行の前夜にはしゃぐ生徒たちのように。
あるいは、これから始まる一大イベントに向けて気合を入れる乗客たちのように。
静まり返ったアパートのワンルームで、霊感ゼロの少女と、彼女に憑いて離れない無数の幽霊たちの奇妙な共同生活は、週末の「廃病院ツアー」に向けて、静かに、そして確実に熱を帯びていくのだった――。
シーズン2・第6話、最後までお読みいただきありがとうございました!
遠足気分でウキウキな楓ちゃんと、彼女を「フリーパス付きリムジンバス」扱いして大はしゃぎする霊たちのコントラスト、いかがでしたでしょうか。
ベッドの周りを修学旅行の夜のノリで取り囲む幽霊たちを想像すると、少しシュールでホラーなんだかコメディなんだか分からなくなりますね……!
次回はいよいよ、因縁の「旧・廃病院」へ突入です。果たして、楓ちゃんを待っているのは本物の恐怖か、それとも周囲の人々を巻き込む大騒動か――!?




