15章 重なる幸せ ⑤
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「えっ!!!! アメリカに戻るの、たった一週間だけだったの!?」
搭乗ゲートの近くにある、少し冷たいベンチ。
つい先ほど、「幼馴染」から正式に「彼氏」へと昇格したばかりのキノの隣に座りながら、私は素っ頓狂な大きな声を上げてしまった。
「……なんで俺がアメリカにずっと帰るなんて勘違いしたのかは、後でじっくり聞くとして。ちゃんと一週間で戻ってくるから、安心して」
キノは少しだけ呆れたように眉を下げながらも、フッと息をついて笑った。
その顔は、今まで見てきたどんな彼よりもずっと柔らかくて、甘く解けたような、心底愛おしそうな表情だった。
「よ、良かったぁ……っ!」
張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れ、安堵からまたしてもポロポロと涙がこぼれ落ちてしまう。
するとキノは、「しょうがないな」と言わんばかりの優しい笑顔で、ハンカチを取り出し、私の頬を伝う涙をそっと拭ってくれた。
ちなみに、搭乗券を持たない私がなぜ搭乗ゲートの目の前まで来られたかというと……キノが関わっている、数多くの1つの取引先が、なんとこの航空会社の親会社だったらしい。彼が顔を利かせてくれて、特別な許可を得てここまで入れてもらうことができたのだ。
(エリート国際弁護士の権力、本当にすごすぎる……)
「あっ、そろそろだな」
私の涙を拭い終えたキノが、搭乗ゲートの上に掲げられた電光掲示板の時計を見て、静かに口を開いた。
彼のフライトの搭乗案内を知らせるアナウンスが、広いロビーに響き渡る。
キノはスッと立ち上がり、スマートな仕草でキャリーケースの持ち手を引いた。
私もベンチから立ち上がり、彼の後ろをトコトコとついていく。
ゲートの入り口まで来たところで、彼は足を止めた。
「じゃあ、行ってくるね」
振り返ったキノは、私に向かって軽く手を挙げた。
大人の余裕と、私への愛情がたっぷりと滲んだ、とびきり優しい笑顔。
そして彼はくるりと背を向け、搭乗ゲートへと足を踏み出そうとした。
(一週間だけ……たった、一週間だけなのに……)
頭ではわかっているのに、さっきまであんなに絶望して泣いていた反動からか、彼が目の前からいなくなってしまうことがどうしようもなく寂しく感じてしまった。
ギュッ。
「……っ」
無意識のうちに、私の手は伸び、彼のスーツの裾を力強く握りしめていた。
「……寂しい……」
「…………」
不意の出来事に、キノがピタリと足を止め、ゆっくりと振り返る。
彼の綺麗な瞳と、真っ直ぐに目が合った。
「あっ!!!」
その瞬間、私は自分が無意識に口走ってしまった言葉と行動に気づき、カッと顔を真っ赤にしてパニックになった。
(あーっ!! 私、なんてことを!)
三十四歳にもなる大人の女が、たった一週間の出張に行く彼氏を引き留めて、「寂しい」だなんて。まるで駄々をこねる子どもみたいだ。重いって思われたらどうしよう!
「ご、ごめんなさい! 今のは忘れてっ、気をつけて行ってらっしゃ――」
私が慌ててスーツの裾から手を離そうとした、その時だった。
スッ……。
キノの大きく温かい手が、私の頭をそっと包み込んだ。
「えっ……」
彼がふっと愛おしそうに目を細めたかと思うと、長身の彼が私の顔を覗き込むように屈み込んできた。
フワッと、彼の清潔で大人びたコロンの香りが鼻腔をくすぐる。
そして。
チュッ、と。
彼の色っぽい唇が、私の広いおでこに、触れるだけの優しくて甘いキスを落とした。
「っ……!!!」
心臓が、ドクンッ!! と跳ね上がる。
全身の血が沸騰したように熱くなり、私は声も出せずに固まった。
「……俺もだよ」
顔を少しだけ離したキノが、私の耳元で、吐息が混じるような低く掠れた声で囁いた。
「すぐに仕事終わらせて、帰ってくるから。……待ってて」
彼はそっと私の頭から手を離すと、少しだけ名残惜しそうな、けれど嬉しさを隠しきれない極上の笑顔を見せた。
そして片手を軽く挙げると、今度こそ振り返ることなく、搭乗ゲートの中へと消えていった。
残された私は、ただ一人、空港のロビーで呆然と立ち尽くしていた。
キノにキスされたおでこに、そっと自分の手を当てる。
(この、優しくて熱い感覚…………)
間違いない。覚えている。
あれは、高校の卒業式の間近にみた夢....
夢うつつの中でふと感じた、あの温もりと全く同じだ。
(もしかして……あの時の、夢だと思ってたキスは……っ!!)
その事実に一気に顔から火が出そうになり、私はその場にしゃがみ込んで両手で顔を覆った。
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――そして、秀介が、ニューヨークでの仕事を鬼のようなスピードで片付け、予定より三日も早く日本に帰ってくるのは……また次のお話……♡
(二人の物語は、まだまだ続きます!! ♡)
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