8章 温かい言葉 ⑥
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色々あったけれど、本当に楽しくて、心が満たされた1日だった。
帰りの車。私たちはまず、ミサおばさんが泊まる都内のホテルまでおばさんを送り届けた。
その後、キノは車を走らせ、彼の自宅近くの駅まで私を送る流れになっている。私はここから電車に乗って、実家まで帰る予定だ。
その時だった。
ドドドドドドッ!!
突然、バケツをひっくり返したような激しい大雨が、車のフロントガラスを強く打ち付け始めた。
「うわっ、コレはやばいな……」
運転席のキノが、眉間に深い皺を寄せてワイパーを最速にする。
なんとか駅のロータリーに到着したが、雨は弱まるどころかますます激しさを増していた。
とりあえず雨が少し小降りになるのを待とうと車内で待機していると、地下鉄の入り口から大量の人々が足早に出てくるのが見えた。みんな一様に困った顔をして、スマホを操作したり、タクシー乗り場へ列を作ったりしている。
「どうしたんだろう? 人、すごいね」
私は不思議に思って首を傾げた。
(……もしや!?)
嫌な予感がして、私は慌ててバッグからスマホを取り出した。
「あっ!!!」
「ドーシタノ? ヒカリチャン?」
後部座席に座っていたサラさんが、身を乗り出して私のスマホの画面を覗き込む。
「わー……電車、人身事故と大雨のせいで運転取りやめになっちゃったみたい……」
私はスマホを持つ手を震わせながら言った。
どうしよう。明日からまた仕事なのに、これじゃ家に帰れない!
「え?……なら、俺が家まで送ろうか?」
キノがすぐに優しく提案してくれた。
でも、時計を見れば今はもう23時を回っている。キノだって明日から激務が待っているはずだ。ましてやこんな視界の悪い大雨の中、私の実家まで長距離の運転をさせて、もし事故にでも遭ったらたまったもんじゃない。
「い、いやいや! 大丈夫だよ! 夜遅いし……あと、こんな大雨の中の運転、絶対に危ないから!」
「でも……」
「大丈夫! この辺のビジネスホテル探して泊まるから!」
私はキノの言葉を遮り、慌ててスマホのブラウザを開いて宿泊予約サイトを検索した。
キノとサラさんに見守られながら、現在地周辺の空き部屋を探す。
画面をスクロールするたびに、私の背中をツツーッと冷や汗が流れていった。
(ぜっ、全然空き部屋ない……!!)
そりゃそうだ。ここは都心部の主要駅。ましてや電車の運転見合わせで帰宅難民が溢れている今、この時間帯に当日の空き部屋なんてあるはずがない。
(今日は……野宿……?)
絶望で目の前が真っ暗になりかけた、その時だった。
「じゃあ、シュースケ。ヒカリチャン、家に泊めてあげなヨ!!」
後部座席から、サラさんがとんでもない提案を繰り出したのだ。
「「えっ!!」」
私とキノの声が、車内に見事にハモって響き渡った。
「アッ、ちなみにワタシの家は汚イからダメだよ! じゃあネ〜♡ ひかりチャン、シュースケのコトよろしくね!」
サラさんはニヤリと笑うと、近くのマンションに帰るため
嵐のように車を降りて、大雨の中、上着を頭に乗せ走っていった。
(……私が、キノの家に、お泊まり!?!?)
残された車内。雨音だけが響く中、私は隣に座るキノの横顔を恐る恐る盗み見た。
つい最近引っ越したばかりだという、彼の住む都内のマンション。
そこに……私が行くの?
胸の奥が、パレードの時とは比べ物にならないくらい、激しくドクンッドクンッと警鐘を鳴らし始めていた。




