1章 再会 ①
11月になったばかりの季節。
ハロウィンの喧騒が去り、街は早くもクリスマスの装いへと変わり始めていた。
会社が終わり、派遣社員として事務の仕事をこなす一途名光(34歳)は、煌びやかなイルミネーションを横目に駅へと向かっていた。
冷たい夜風が頬を撫でる中、コートのポケットの中でスマートフォンが震えた。
画面に表示された名前に、光は思わず立ち止まり、息を呑んだ。
それは4年前に別れたはずの元カレ、「青田 啓司」からのLINEだった。
青田との記憶が、鮮明に蘇ってくる。
初恋は高校一年の時。同級生であり、幼馴染の友人でもあった彼に惹かれた。体が小さくて、周りに悪口を言われても、人一倍頑張って真剣に野球に取り組む姿。自分にはないその「ひたすらな努力」に心を奪われたのだ。
高校卒業後、片思いで終わったと思っていた彼と25歳でまさかの再会を果たした。彼は夢を叶えプロ野球の世界へ進んでいたが、2軍で人生初の挫折を味わっていた。
そんな彼を、必死に支えたいと思った。その思いが通じたのか、私たちは付き合うことになった。
努力の甲斐あって、彼は1軍に昇格した。小さな体で筋肉をつけ、大柄な選手と同格レベルにまで登り詰めた。レギュラーを勝ち取り、国際試合にも出場するほどのスター選手へと成長していく姿を、私はずっと見守って、支えたかった。
しかし、彼の気持ちは次第に離れていった。
1軍に上がってしばらくしてから、会う頻度は極端に減った。たまに彼の大好物だったプロテインバナナケーキを作りにこいと言われ、都合よく呼び出されるだけ。
彼の家の洗面台で見つけた、私のものではない化粧水。床に落ちている、長い派手な色の髪の毛。
彼は浮気をしている。
でも、私は気づかないふりをした。
それを突きつけてしまった瞬間に、彼との関係はすぐに崩れそうだったから。
ずっと憧れていた彼に、少しでも必要にされるだけでもいい。それだけでも、という思いで5年間関係を続けた。
しかし、とうとう30歳になる年、彼から理由も告げられず別れを切り出された。
ずっとそうなるかもしれないと覚悟していたはずなのに、いざそうなると涙が止まらなかった。
それから、彼を忘れるために必死だった。マッチングアプリや合コンで出会いを探すものの、既婚者に騙されたり、都合のいい関係を求められたりと、心は折れそうだった。
そんな時に届いた、彼からの連絡。
『12月24日、◯◯駅で19時に待ってる。話したいことがある』
画面を見つめながら、嬉しい気持ちと、また苦しい思いをするかもしれないという恐れが入り混じる。
昔から私の勘は当たる方だ。でも、今度こそはと、その時は疑わなかった。
知らず知らずのうちに、一筋の涙が頬を伝って落ちた。
しかし、そんな私に、この連絡が来て1週間後ぐらいに、人生を変える再会が起きるとは、この時はまだ知る由もなかった。




