第四話「シオン2号」
俺はリリーと解散し、すぐに帰宅した。
今日はとても楽しかった。
ギルゾックの飯もすごい美味かったし、
リリーとの会話も楽しかった。
そうだ、今日も日記を書こう。
記憶喪失になった日から毎日欠かさず書いている。
俺は椅子に座り、机に置いてある日記を手に取りペンでシュババッ!っと素早く書いた。
早書きは俺の特技だ!
おそらくクレスタ最速……いやつまんな。
俺もクレスタ最強の冒険者とか言われてえな。
今度、リリーに魔法とか教えてもらおうかな。
案外才能あったりして。ぐへへ。
俺はニヤニヤと笑みを浮かべ、ベッドに寝転がった。
もう外も真っ暗だ。寝よう。
そう思った瞬間、前に見た夢を思い出した。
今日寝たら、またあいつが夢に出てくる。
と、彼は言っていたけど、どうせ出てこない。
でも、これが不思議なことで、夢のことはすぐに忘れるだろうに、すべて覚えているのだ。
あいつの俺に少し似た声。
顔は見えないけれど雰囲気は自分に似てる。かも?
あーやばいやばい。
あいつのことを考えてたら、ほんとにまた夢に出てきそうだ。ギルゾックの数を数えて寝よう。
ゆっくりと目を閉じ、ギルゾックを頭の中で数えた。
(ギルゾックが1人、ギルゾックが2人)
……いや、気持ちわる!
もういいわ、普通に寝よう。
何も考えずに。
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真っ暗な世界。
一度来たことがあるような。そんな感じがする。
いや、前の夢の場所だな。
まじかよ。またきてしまったわ。
これ、絶対あいつ出てくるよな……。
「よっす」
「うわ!!!」
びっくりした。突然目の前に現れた。
前回と同じく顔は見えず、声は聞こえる。
「よっすよっす」
男が手を振りまくってる。
「聞こえてる聞こえてる。で、なんだよ」
こいつは、前回、次が最後だと言っていた。
恐らく、夢で会えるのは、これが本当に最後だろう。
なぜかそんな気がした。
「シオン・グラジオラスくん」
「はい?」
「俺はお前だ。俺もシオンだ」
まただ。
「はいはい、わかったよ。君は俺ね。シオン2号と呼んであげる」
「お、おう。シオン2号か、まあいいや」
彼の名はシオン2号と名付けた!
あまり喜んでなさそうだが。
「それで、なんでまた出てきたんですかい」
「なんだ。まだここが夢だと思ってるのか?」
「はい?まあ夢だよね。自分が出現するとか、そういう感じの夢」
「あー」
夢だと思ってるのか?と言われても、夢は夢。シオン2号も所詮は夢の中の人物。
そう思っているとシオン2号は、急に真剣な雰囲気になり、口を開いた。
「シオン、ここはな、夢ではない」
「ほう」
聞くだけ聞いてやろう。目が覚めるまでの暇つぶし程度に。
「ここは、俺たちの魂の中」
「……魂?」
「あぁ、もっと詳しくいうと、
15歳の時の俺が、今のシオンの目の前に出てくるように魂の空間を作った」
ふむ。15歳のシオン2号が、魂の中に空間を作って、現在の俺と会えるように?……いまいちわからん。
「よくわかんないな。つまり?」
「はぁ。まあわからんわな。まず大前提、俺とお前は同一人物だ。
お前は記憶喪失後の俺。
俺が記憶喪失になる前のお前」
とてもややこしい。シオン2号は記憶喪失前の俺。
そして、俺は記憶喪失後のシオン2号?
うーむ。とりあえず返事はしておこう。
「お、おうなるほど」
さっきまでの自分なら、はいはい夢夢、で済ましていた。
けれど彼の真剣な声からは事実としか思えなくなっていた。
「お前は、15歳の時、記憶消去の呪いを受けた。
ある一族によってな」
「呪い? 15歳の時?
俺が記憶喪失になったのは、ちょうど16歳の日だったな」
「まぁ、そうだな。呪いを受けたのが誕生日の前日だった。呪いの発動は1日後。
結果、記憶喪失は16歳の日に起きた」
なんか、絶体絶命のピンチって感じだな。以前の俺。
でも呪いってのがよくわからない。
何故呪いなんて受けた?ある一族とは?
「そ、それで、ここが魂の中ってのは?」
「まあ待て。俺はどうしてもやらなければならないことがあった。まあ……復讐だな」
「復讐?」
「ある一族を、殺す。それが俺の生きる意味であり、目的だった。
今のお前は、呑気に生きているだろう?
どうせ弱いだろうし、ギルゾックの所に入り浸ってんじゃないか?」
「ま、まあ弱いよ俺は」
「だろうな。申し訳ないが、その呑気な生活は最後になるだろう。
また以前の俺のように、
復讐がすべての人生になるだろう」
俺はゴクリと唾を飲み込み、シオン2号に、あることを聞いた。
「なんだって復讐? その、ある一族を殺したいんだ? 俺は殺さないぞ。理由がわからないし」
「……」
シオン2号は黙ってしまった。
「俺は先程、ここが魂の中と言ったな」
「お、おう」
復讐のことを無視されてしまった。
まぁ、魂の中というのも気になっていたけど。
「記憶消去の呪いが発動すると、俺は復讐することを忘れてしまうことになる。
それだけは嫌だった。
どうしてもあの一族を殺したかった。
殺せたら俺は死んでもいい。そのくらいに。
だから俺は未来の自分に託した」
未来の自分って、今の俺のことだよな
……もう訳がわからない。一族やら殺したいやら。
「すぐに俺は魔法を開発した。魂の中に干渉する魔法。まあ自分の魂の中にしか入れないけど」
開発した?そんなのできるのか?きいたことがない。魔法を開発だなんて。
「今喋っている俺は、15歳の時のコピーみたいなもんだ。
シオン2号は全ての記憶を持った人形ってことだな」
「お、おう。なるほど?」
「説明が難しいな、俺はお前だし、お前は俺だし。
ま、魂がどうとか今はどうでもいいんだ。」
どうでもいいのか。
でも確かに、知りたいことはたくさんある。
シオン2号は俺の知らない記憶全てを持っているらしい。
たくさん、たくさん聞きたい。
生まれてから約15年間、何があったのか。
いや、1番聞きたいのは『復讐』だな。
その言葉を聞くたび、頭痛が起こる。
「すまない。聞きたいことがたくさんあるだろうな。でもシオン2号の活動はこれでおしまいだ。
時間切れってやつだな」
「え、お終い? なんでだよ! 教えろよ、復讐が気になるんだよ! なぜ復讐なんだ!?
俺はその一族になにをされた?」
『メモリア』
「は?」
「メモリアと唱えろ。お前が目覚めたらな。
これも開発した魔法だ。
最初っからこの魔法を使えばよかったけど、
弱々しい俺と……少し喋りたかった」
「なんだよ。メモリアって、また開発したのか? なんでもありか? お前」
「メモリアはな。記憶だよ」
「記憶?」
シオン2号はコクリと頷いた。
「俺の全ての記憶。この世界に生まれてからの約15年間。……そして前世の記憶」
前世?なんだろうそれは。
それにしても本当にメモリアって魔法は、
15年間の記憶が詰まってるのか?
疑問で頭がいっぱいの時、彼の声はどんどん薄れていく。
消滅してしまうかのように。
いや、消えていってる。
シオン2号が、いなくなってしまう。
「おい、シオン2号! まってくれ!」
「ったく、思ってたけどシオン2号ってなんなんだよ。俺はお前だっての!」
最後に聞こえたのは、呆れた俺の声だった。
最後に見えたのは、笑顔の俺の顔だった。
そして、シオン2号が俺の魂から消滅していく。
そんな感覚を味わった。
この魂の世界が消えてゆく。
真っ暗だったのが、真っ白に。
眩しくなって、視界がプツンと消えた。




