第二十八話「後悔」
後悔している。
バルクを逃したということを。
俺は、油断しすぎたんだ。
相手が弱いからといってもしてはならないのに。
けれど、次はしない。
次こそは。
……てなわけで、マリアの研究室に来た。
「今度はなんだよ!」
「いや、申し訳ないんだけどさ、――」
今回、ここに来たのは、
バルクを探して欲しいからである。
二度目で申し訳ない。
「また!? なんでだ?」
マリアの問いに、気まずさを感じつつも答えた。
まず、最初にバルクを占ってもらった理由。
彼は、学園で呪い魔法を使用し、生徒に危険魔法を使わせた。
そして、あいつ自身の性格の悪さ。
腹黒さを分かりやすく伝えた。
最後に、それを逃してしまったと。
「……ほう」
珍しく、マリアは真剣な表情になった。
いつもは、はっちゃけてる感じなのに。
ぶっちゃけ、顔はガキ。
だけど、顔だけでは判断できない、何かカッコよさを感じた。
あ、そういえば、この人年上だった。
「すみません、なので占って……」
「任せろ。それはウチも許せん」
最後まで喋らせてくれなかった。
それほどまでに、マリアも怒りを覚えている様子。
「……」
彼女は、すぐに目を閉じた。
これは毎度のこと。
そう、占いを始めるという合図。
いや、これが合図かどうかしらんけど。
と思いつつも、俺はマリアを凝視する。
紫色の煙が、彼女の周りをクルクルと、渦のようにうごめいている。
この煙は魔力だ。
「……」
いつにも増して、魔力消費量が多い気がする。
何故だろう。
そう疑問に思っていると、マリアは目を開けた。
「すまん」
あれ?
いつもみたいに、脳内に居場所が映し出されるのを予想していたんだけれど。
先に謝られた。
「どうしたんですか?」
「むり」
無理?
な、なにが?
「えっと、なにがでしょう」
「バルク・カタラ、対策してきておるな……」
「対策って?」
さっきから、何を言っているのか?
本当にわからない。
むり、とか。
対策、とか。
「え、えっと」
俺が困っているのをみたマリアは、単刀直入に言った。
「バルクは、自分に呪いをかけた」
「自分にですか?」
呪いとは勿論、自分にもかけられる。
基本的には、戦闘が有利になるものだ。
『ワープ』とやらも、自身に使用してた。
……待てよ?
嫌な予感が頭を過ぎる。
「まさか……」
次の瞬間、その予感が正解へと変わった。
「うん、『クルプトー』だろうな」
「……!」
そんな……。
バルクは、あれも使えたのか……。
てことは、
「マリア博士の、占いでもバルクの居場所は……」
「……むりだな」
「…………まじですか」
『クルプトー』。
使える者は稀である、呪い魔法。
自分を隠蔽できる能力だ。
まさか、彼女の占いにも出ないようにするとは。
ん……。まてよ?
それってもしかして、俺がバルクに説明しすぎたからではないのか?
『マリアに教えてもらった』的なこと言ってしまったから……?
「シオン?」
この時、俺は自分を激しく責めた。
マリアがいるから、いつでも奴を見つけられると。
逃してしまったけれど、チャンスはいくらでもあると。
ずっと、そんなことを頭の片隅に入れていた。
けど違った。
昨日のロット村が最初で最後だったのだ。
呑気に授業とか受けている場合でも、
アイクがモテて羨ましいなとか感じてる場合でも無かった。
さっさと、バルクを探さないといけないんだ。
「マリア博士」
「……?」
「俺、行ってきます」
「探しにか?」
彼女はとても悲しそうな声音で、俺に返事をした。
恐らく、マリアも悔しいんだろう。
苛立ちを覚えた相手を占えなかったから。
「はい、探しにです」
「厳しくないか?」
ごもっともだ。
アペプ一族なんか、何年も探してようやく見つけた。
それも、運が良かっただけだろうしな。
……でもだ。
バルクを見つけないと、俺の気が済まない。
罪悪感で死にそうだし。
それにもう、かなり鬱……。
「そうか……」
表情を見て察してくれたっぽい。
「すみません。それでは」
研究室から出ようとした瞬間、はぁ、とため息が聞こえてきた。
「まあまて!」
「うわ! なんですか」
彼女は普段のような声音になった。
元気で子供みたいな高い声。
俺は、それを聞いて振り返った。
それに何故か、
さっきまで、自分にあった鬱々としたものが晴れた気がした。
びっくりしたからかな。
「ウチは、天才!」
彼女は毎度の台詞を吐いた。
俺は、その次に来る言葉を待つ。
「だから! ウチの魔法を伝授しよう!」
「開発魔法ですか?」
「そう!」
マリアは、変身魔法というのを開発している。
ってことはそれかな?
別にいらないんだけどな。
「じゃ、じゃあありがたく」
でも、お言葉に甘えておこう。
この世に不必要な魔法は存在しないからね。
付け足すと、悪用しなければ。
「うん! それじゃ」
それから、数分で習得した。
それに、変身魔法では無かった。
彼女はもう一つ開発していたのだ。
その魔法の名は『データ』。
能力は解析。
相手の使用した魔法の詳細を知れる。
普通に強くて驚いた。
もし、昨日のバルクみたいに、
『ワープ』を使われても、
逃げれる魔法と分かるので、
「これなら!」
「うん!」
以前のような失敗はしなくなるってことか!
ついつい、嬉しくなり、
俺は彼女を抱き上げた。
「やったぜ! さすが天才マリア博士!」
「わわ、下ろして! ウチ年上だぞ!」
そう言いつつも、天才と言ったからか、
マリアの顔は、微笑んでいて、とても嬉しそうだった。
---
寮の自室に戻った。
一応、今日は休みたかった。
久しぶりに修行で汗をかいたことで、
なんだか、疲れがものすごい。
「このベッド本当にフカフカだな」
と、感動しつつ就寝の準備万端。
あとは目を瞑るだけ。
なんだけど、その前に計画を立てておこう。
・朝目覚めたら、出発の準備。
バルクを見つけるためのだ。
・出発したら、王都全体を探そう。
広いので、魔法陣を使おう。
アイクとかに聞いたら、どこにあるか分かる。
・王都にバルクがいない場合、クレスタに行こう。
可能性は極めて低いけど、念の為探す。
・もし、見つけて戦闘になったら。
マリアに教えてもらった『データ』を駆使して、油断のしない戦闘にする。
「こんなかんじかな」
これで完璧のはずだ。
一通り、プランは立てられた。
これの通りに立ち回れば本当に、
何も心配はないはず!
そう確信して、目を閉じ、
頭の中で、羊を数えた。




