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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第4章『知られざる決戦』
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Ep.450 この腕と、この剣で

 ——と、今日はここまでにしておこうか。

 え? やだ? この先をもっと聞きたいって?

 わかってるよ、凄く良いとこだからね!


 なんせ勇者クサビがついに! ついに封剣・月虹を携えて魔王の元へ向かおうっていうところだからね。

 続きが気になるのは仕方ないことさ。


 ……でも空を見てごらん? もう暗くなってきているだろう? もう帰る時間さ。


 また明日読み聞かせてあげるよ。約束する。

 風が明日も晴れると言っているからね。


 ……なんだいその胡散臭いものを見たような目は。……ホントだよ?


 ……ふふ。じゃあまた明日。




  ははっ。あんなにウキウキに走っていく。

  ……本当に、血は争えないものだなぁ。






 雲一つない空に、鳥の鳴き声が鳴く頃。

 陽の光は燦々と照らして一日の始まりを告げる。


 僕達はシュミートブルクを治める、ツヴェルク族の長、ガインさんに礼を言って、出立し、出入り門までやってきた。


 外では、偵察から帰還したセイランが待機しているはずだ。出立を決めてから、念話で戻ってくるように伝えていたのだ。


 城門の上の見張り台には、門番のナッツさんが僕達に気付くと、小さな体でドタドタと駆け出し、中に入っていった。相変わらず元気だなあ。


「ゼクストさーん! 勇者様方が来ましたよぉ!」

「大声出さんでも聞こえるわい! やっと来おったか」


 そんな騒がしいやり取りの後、石階段を降りて来たゼクストさんが、その顔を見せた。


 早朝だというのに、僕達よりも早くに来て待っていてくれたんだ。気難しいようで、誰よりも情に厚い人だ。


 ——そう油断していた。


「……もう、会うことはないのじゃろうな」


 ゼクストさんは落ち着いた様子で、僕だけを見てそう言った。

 事情を知らないナッツさんはきょとんとしている。


「…………っ、……はい」


 ゼクストさんのその言葉で、僕の喉に何かを詰まらせたが、それを呑み込みなんとか声を出した。

 ……そうだ。油断していた。これまで幾度となく別れを繰り返してきた。こういう場面は慣れたはずだったのだ。


 いや、こんな事、慣れるわけがないじゃないか。


 声は震えていなかっただろうか。みっともない顔になってないだろうか。

 この街を発てば、もう二度とこの顔を見ることは出来ない。あの厳しくも優しい声を背中で受けることも……。


 僕は魔王から退魔の精霊を取り戻したら、この時代での目的はもうない。すぐに僕の生まれた時代へ戻って戦いを続けなければならない。

 ……今生の別れなんだ。右腕の義手を与えてくれ、封剣・月虹を共に作り上げた、アズマ達にも劣らぬほど大恩ある人との。


「……ハクサ……っ」


 サリアが心配そうな声色で僕にそう投げ掛けたが、アズマ達が僕から少し距離を空けた気配がした。


「……まったく。なんて顔をしとるんじゃ。大の大人が」


 ゼクストさんが僕の前まで歩み寄って見上げていた。いつもの気難しい鋭い目つきだ。睨まれているというのに、何故かその目つきに安心を覚えた。


「気の抜けた顔しおって。これからお主には大仕事が待っとるのじゃろうが。シャキっとせんか」

「……ゼクストさん」


「……やり遂げるんじゃ」


 ゼクストさんの視線が真っ直ぐ僕を貫いた。


 ゼクストさんは僕が目的を成し遂げることを、信じてくれているのだ。そんな人の想いを無駄には出来ない。


「……はいっ! 必ずやり遂げてみせますっ! この腕と、この剣で!」


 僕は月虹を腰から鞘ごと外し、義手でそれを持って地面を突いた。


「よし! 腑抜けた顔は消えたようじゃな。ではとっとと行ってしまえい!」

「……はい! ありがとうございました!」


 ゼクストさんは腕を前に組んで『うむ』と頷いた。


「ではゼクストさん、また来るよ。ナッツさん、門を開けてくれるかい?」

「はいっ! ただいまーっ」


 アズマがゼクストさんに一礼し、ナッツさんに声を掛けた。するとナッツさんが走り去り、間もなく門が重厚な音を立てて開かれた。


 各々が別れを告げて門を通る。

 外には龍の姿のセイランが待機しているのが見えた。


 僕も街の外へと足を踏み出し、セイランに乗り込む。

 そして全員がセイランの背に乗り込み、大きな龍の翼が羽ばたいて、周囲に突風を巻き起こしながら浮上していった――その時だった。


「――死ぬでないぞッ! クサビッ!!」


 それはまるで天に向かって響くような雄叫びのような、ゼクストさんの声だった。


「——っ! ……はいっ!!」


 思わず涙がこぼれた僕は、大きく手を振って答えた。


 シュミートブルクがあっという間に小さくなっていく。もうゼクストさんの姿を見分ける事は出来なくなり、僕は涙を拭い、向かう先である北西へと目を向けたのだった。


 決意と、たくさんの絡み合う想いを胸に……。






「――相変わらずドラゴンの迫力はすごいや! もうあんな遠くに! ……そういえばゼクストさん、さっき『クサビ』って呼ばれてましたけど?」


 若造共が去った先にはもう何も見えん。

 工房に戻ろうとした儂に、やかましい若造が寄って来よる。


「ふん。……つい孫の名前を呼んだだけじゃ」

「えー? ゼクストさんって息子さんもいましたっけ――あいたーっ!?」


 この五月蝿いヒヨッコ門番の頭を拳で叩くと、存外良い音がした。


「五月蝿いんじゃ! さっさと戻らんか!」

「ひぃぃ!」


 ナッツが頭を抑えながら戻っていき、儂は工房への帰路へと戻る。

 そして歩きながら北西を見上げた。


 ……そうじゃ。孫と呼び間違えただけじゃ。

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