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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.445 世界を救う為のもの

「――よし! では触媒とメテオライトを融合させるぞ。よいなクサビよ!」

「はいっ!」


 僕は台座の6つの窪みに、一つ一つ触媒を丁寧に置いていく。

 それを手に入れるに至った経緯を思い出しながら、ことり、ことりと。


 ————アグニとの試練で右腕を失ったこともあった。あの時正直言えば、炎に手を突っ込んだ時、怖かった。でも迷いはしなかった。


 そして失われた右腕の代わりを探しに、シュミートブルクでゼクストさんと出会って、奇しくもジオの居る秘境へ。ジオとの鬼ごっこという名の試練はとんでもなかったっけ。そして手に入れた地霊石でゼクストさんと一緒に義手を創ったんだ。


 極寒の地ではセイランに出会い、絆を結んだんだ。そしてエクリプスに操られたデインと本気で戦ったっけ。本当に激しい戦いだった。


 そしてセイランに乗って移動していたら突然ゼファイアが会いに来たんだ。そして試練に峡谷を競走して、皆で力を合わせた白熱した競走だったなあ。


 そして次はリーヴァ。リーヴァとは一番濃いかもしれない。なんせ五年も一緒に過ごしたんだから。僕の剣術も以前とは比じゃないくらい上達した。


 アウレアは会いに行くまでが試練のようなものだった。それで会ってみたら一番変な祖精霊だった。でも誰よりも魔王——かつての同胞に気に病んでいた。


 途方もない道程をアズマ達と歩んできた。その結果が、今形として現れるんだ……!


 

 ゼクストさんは台座の中央、周りよりも奥まった所にある長方形の型にメテオライトを惜しげも無く放り込む。


 台座には、火、地、闇、風、水、そして光の結晶が中央のメテオライトを囲うように置かれ、6色が揃うとまるで祖精霊達が一堂に会したような感覚を覚え、僕の内から熱く込み上げるものを感じた。


 ——いよいよだ。


「始めるぞい! クサビよ! 火力を上げぃッ!」


「……はいッ! アグニ!」

「承知した」


 僕が声をかけると同時に、炉の炎が激しく燃え上がった。


「よーし。それじゃ僕も――」


 ゼファイアが両手を合わせて台座に向けると、そこから緑に発光した風の魔力が放出されていく。

 それらはメテオライトを中心にして集まり渦巻きながら炎に吸収されていった。


 すると、台座の結晶達が少しずつ輝きを放ちながら形を液状化させ、溝を伝って中央のメテオライトへと向かう――。


「ほう……! これはなんと神秘的じゃ……ッ。しっかり触媒が流れてゆくぞぃ! その調子じゃぞ……!」


 ゼクストさんが興奮した様子で台座を覗き込んでいる。僕も鼓動を早めながらも、固唾を呑みながら見守っていた。


 そして、流れていくそれぞれの色に輝く液体が、既に融解して液状化したメテオライトへと集まった。


 ……だが、何か様子がおかしい。


「むむっ。これは……どうしたことじゃ」

「……混ざらない……?」


 触媒は確かにメテオライトへと辿り着いた。

 だが、交わらない。


 六色の液体は、メテオライトの表面で互いを避け、押し合い、まるで自らの領域を主張するように激しく渦巻いていた。


「何じゃ……何が足りないのじゃ……ッ。ここまで来てまだ何か必要なのか……?」


 ゼクストさんの零れ落ちた言の葉が、工房の熱を下げた。そんな錯覚を僕は湧き出る不安と共に感じた。


 だがそんな僕達に、火を調整し続けているアグニが口を開く。その声色は明るかった。


「……ふむ。どうやら我々の自我と言うべきか、それらが反発しあっているようだ。杞憂であるぞ我が主よ、今暫し静観せよ」

「……だ、大丈夫なの……か?」

 

 そこにゼファイアも台座を覗き込んで苦笑を浮かべた。


「……あー、ほんとだね。見てよアウレアちゃんの白いやつ。誰よりも進んできてないよ。はははっ」


 よく見ると確かに。アウレアの触媒から流れ出た白く輝く液体は、他の祖精霊の液体よりも溝を進んでいなかった。


 …………アウレアさん?


《し、仕方ないでしょっ! あ、アンタ達とま、まじ、交わるとか……! 特に風の! アンタとだけはぜっっったいに! 嫌!!》


 頭の中でアウレアの抗議の声が響く。……極度の人見知りだからな、この精霊。


《心配には及ばん。私達が授けた触媒は言わば、魔力の塊だ。魔力と心は密接に関係しているが故、魔力の中にも記憶や意識の残滓が宿る事もまた、さして不思議な事でもない》


 落ち着いた様子でエクリプスが補足をしてくれた。


 その言葉を信じて、台座の様子を皆で固唾を呑んで見守っていると、徐々にだが動きがあった。


 赤の液体が、少しずつ黄色の液体と交わり始めたのだ。それが他の場所でも起こり始める。……白を除いては。


《……アウレア?》


《べ、別にわたしが意地悪してる訳じゃないわよッ! 本来の……気質っていうかぁ……。お、お姉さまぁぁ〜〜〜!》


 目の前では前代未聞の挑戦が繰り広げられているというのに、脳内が騒がしい……。


《だから前々から引きこもってないでもっと皆に心を開きなさいと言ったのよ? まったく。…………でも、そんなアウレアちゃんなら、私には反応する筈よね? ――クサビ、台座をご覧なさい?》


「ん……? あ! 白と隣り合った青が混ざり合っていきます!」

「……おおっ!? なんと……」


 他の属性が少しずつ混ざりあっていく中、最後まで頑なに個を主張していた白く輝くの液体が、リーヴァの触媒から溶けだした青の液体と交わり、色を変えると他の触媒と融合し始めた。


 そして、メテオライトと混ざりあっていく!


「よ……よしッ! 融合していくッ! 見よクサビ! 虹色に輝いておるぞ……ッ」

「はい……すごい……!」


 メテオライトを包み込むように虹色の液体が広がり、やがてその全体が虹色に煌き出す。

 全く未知となった物質を中心に虹色の光を放出するその光景は幻想的で、まるで奇跡が起きているように感じられた。


「よし。ではインゴット化するぞ。火を消してくれぃ!」


 それを受けて僕はアグニに目配せする。


「承知した」

「次の出番は剣を打つ時だね! ワクワクするよっ!」


 アグニが炎を消し、ゼファイアが風を解除する。



 その後しばらく置き、虹色に輝く液体が徐々に固まり始めた。


「固まってきよったな。では水で一気に冷やすぞい」

 

 ——その時、念話にてリーヴァが語り掛けてきた。


《クサビ? 精霊の素材なのだから、この際使う水も選ぶべきじゃないかしら?》


 水の祖精霊の提案、というより介入希望の申し出だ。確かにより良い結果に繋がりそうな予感がする。


「ゼクストさん! その水、僕が用意します!」


「ほう? なんじゃい急に」

「少し待ってくださいね。…………――リーヴァ!」


 僕は再び目を瞑り意識を集中させ、水の祖精霊を喚び出す。


 すると僕の足元から包むように水泡が現れ、目の前で一つに合わさると女性の形を成し、僕の右肩に手を添えたリーヴァが顕現した。


「求めに応じて参りました。クサビ? よく出来ましたね?」


「……もう驚かんわい」


 ゼクストさんが額を押さえつつ呟いたのは置いておくとして、水の祖精霊であるリーヴァは台座に視線をやる。


「ふふ。なんだかアズマの神剣を作った時を思い出すわね」

「うむ。あの時も我が炎をくべてやったものぞ」

「そうだね。今度はそれをアズマの子孫とだなんて。精霊ながら運命というものを感じるよ」


 三人の祖精霊は懐かしむように語っていた。

 それは僕にとってはサリアが遺した手記でしか知らない、彼らの旅の目的の一つだったのだろう。


 勇者の道、とでも言うべきか。

 それらは世代を経ても繋がっている。そんな気がした——。


「——クサビ? どうしたのかしら、呆けた顔をしているわよ?」

「……あ、ああ。なんでもないよ。じゃあリーヴァ、お願いします」


 彼女は僕の方を向いて頷くと、右手を前に出し、掌に生み出した水を台座へ向けてゆっくりと注ぐ。


 その水がキラキラと光を発しながら台座に落ち、直後激しい蒸気に包まれた。


 その蒸気がやがて晴れると、そこには美しい鋼色の塊が出来上がっていた。

 だがそのインゴットは、見る角度を変えると色を変え、七色に煌めく不思議なものだった。


「これが……触媒とメテオライトが融合した、まったく新しい素材……」

「……うむ」


 僕とゼクストさんは言葉少なくインゴットを食い入るように見つめたままだった。


「上手くいったようね? では私は戻るわ。クサビ? この後も、しっかりね」

「はい、ありがとう、リーヴァ!」


 リーヴァは穏やかに微笑み頷くと、青い光の粒子となって消えていった。



「……クサビよ。お主ならこれに、何と名付けるんじゃ。これはお主が名を決めるべきじゃ」

「名前……」


 インゴットを見つめ、僕はこれまでの旅のこと、そして未来で待つ僕の仲間達のことを思い浮かべた。


 何の為にこれを生み出したのか。

 魔王から封印の力を、解放の神剣に再び宿し、再封印を施す為だ。


 それは元を辿れば、世界を救う為のものだ。



「……『救世鋼』」


「……救世鋼、か。……ふん。実に勇者たるお主らしい、良い名じゃな」

「はい……!」


 僕らは互いに頷き合い、救世鋼と向かい合った。

 さて、ここからは剣を打っていく事になる。封印剣の完成は、もう間近に迫っていたのだった。

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