Ep.443 Side.S 久々の団欒
魔王による大規模な襲撃をなんとか凌ぎ、帝都に戻ってきて数日が経っていた。
その間私達希望の黎明も各々行動していて、今は宿舎の私達の部屋で皆で揃って近況報告を兼ねた団欒をしていた。
状況も落ち着いて来たので、数日の休暇を貰ったのだ。
ここ最近はずっと戦いの連続で、久々に肩の荷が降りたような気分だわ。皆、誰一人欠けることなく無事に再会出来て本当に良かった。
「ししょぉとせんせー、もう大丈夫?」
ふと、ウィニがそう呟いた。白い猫耳が少し垂れ下がっている。
「今はもう魔力枯渇も解消してお仕事しているそうよ。魔族幹部と戦ったというのに平然としていたから、こっちが拍子抜けしちゃったわよ」
「ははっ。あの二人がへばってるところは想像出来ねえしな」
私の言葉にウィニが頷き、ラシードが茶化すように笑う。
だけどチギリ師匠とアスカ先生の話題になると、微妙な空気になるあたり、皆本当に心配していたんだろう。もちろんその中には私も含まれるけれど……。
「ふふ、そうですねっ。私達もこうして無事に集まれましたし、なんだか久しぶりな気がします。仲間の顔を見ると、やはり安心しますね」
マルシェの口から紡がれたその言葉に、私達はそれぞれ同意の反応を返す。
マルシェの言う通りだ。
最近は防衛や任務でパーティメンバーがそれぞれ別々に行動していて顔を合わせる時間すら取れなかったから、こうして合流出来た事が嬉しくて、張り詰めていた気持ちが少しだけ解れた。
……あとはここにクサビが居たら、私の安堵はどれ程のものだったのかしら……。
エルヴァイナの防衛戦から、転移の精霊具を使って帰還した私は、その後近場の救援要請への対応に奔走していた。まだパーティメンバー以外の人を率いるのは慣れなくて、やっぱり行動するならこのメンバーとがいいわね。
ウィニはボリージャを守った後は、ラムザッドさんと東方部族連合の北の港町ラダラットへ。大きな仕事を果たして家族にも会えたって言っていたわ。尻尾が嬉しそうだった。
家族もラダラットの復興がひと段落ついたら帝都へやって来るそうだし、ウィニもきっと心の支えになるんじゃないかしら!
ラシードもウィニと一緒に帝都へ戻った後、私とは別の戦地を転戦していたそう。帰還した後の帝都での訓練所ではラシードの周りには新人らしき団員が集まっていて色々教えていたみたい。ああいう性格だから皆慕うのかもしれないわね。後は夜にフラッと街へ出ていたみたいだけど、何をしていたのかは聞かないわ。
マルシェは故郷のシュタイアをフェッティさんと防衛してからしばらく滞在したみたい。久々に家族の顔を見れたと目を細めていたわ。帝都に戻った後は新人の訓練を頼まれたらしくて、訓練所に入り浸りの日々だったそうよ。
皆忙しくしていたようで、今日やっと羽を伸ばせるとあって、皆少し浮かれていた。
そんな近況報告も済むと、ラシードが遠慮がちに口を開いた。
「……にしても、魔族も各地で暗躍してるようだよな。転移の精霊具の量産も目処が立たなくなっちまったって、アスカが悔しげに言ってたぞ。確かにあれが量産されていたら援軍も迅速に送れるからな……」
その言葉で、場の空気が少し重たくなるのを感じた。そうだ。私達は本来浮かれている場合ではないのだから。
「そうですね……。ですがまだ完全に頓挫したわけでは無いはず。それに今各地に設置してある精霊具だけでも、かなり迅速な戦力派遣が出来ますし、これからですっ」
マルシェが拳を握り締めて力強く断言する。
彼女の言うとおり、今私達は出来る事をやるしかないのだ。
「ええ、そうね! ……今だと、サリア神聖王国の聖都マリスハイム、エルヴァイナ。帝国だとここ帝都リムデルタとアドヘルム……」
「ファーザニアでは首都シュタイアと南西のサレナグランツ港にありますね」
私の後にマルシェが都市の名前を羅列していく。
「東方部族連合だと花の都ボリージャ、ナタクが統治していたツクヨミっつう都市に——」
「——ラダラットの港! お魚がおいしかった」
「「「…………」」」
……まったくこの子は。いや一応年上なんだけど……。
「……こほん。あ、あと南の砂漠の街グラドにも設置されたそうね!」
「こうして見ると、世界中に点在してんな。これからは守っていかねえと」
ラシードの言葉に皆が頷く。
……本当に、魔族の動きも不穏だし、これからまだまだ忙しくなるわね。
「皆はこの休暇、どうするの?」
重くなるのもどうかと思い、私は話題を転換した。
するとラシードは肩を竦めて微笑。
……いいえ、あれは何かいやらしいこと考えてる顔だわ。
「特にやることもねぇし、訓練だな。後は……アレだ。たまには街をぶらつく、くらいだぜ……へへ」
そう言って視線を逸らすラシード。なんでちょっと照れくさそうなのよ。
「ラシード前に夜、なんか薄着のおねーさんがいっぱい並んでる街道に歩いてったけむぐぐ――」
「――よしウィニ猫そこまでだおやつやるから黙っててくれ」
……ああ。やっぱりそういうことなのね。
「……不潔」
マルシェのボソリとした言葉が刃となってラシードの胸を貫いて、ラシードは情けない顔して胸を抑えていた。
「……と、私も姉様と訓練ですね。パリィの精度をもっと上げなくてはっ」
マルシェが拳をぎゅっと握って呟く。ひたむきな姿勢はさすがね。
「さぁやはなにする?」
「そうね……。私はちょっとツクヨミへ行きたいと思っているわ」
「ツクヨミ? そいやサヤとクサビの故郷が近くだったか」
ラシードの問いに私は頷いた。
正しくは故郷があった、だけれど。
魔王に滅ぼされて、今はもう廃墟しか残っていない。
「旅を始めた時、お世話になった人達がツクヨミに避難しているそうなの。無事か確かめたいなって」
「そうか……。無事だといいな」
私の言葉にラシードは穏やかに言ってくれた。
「じゃ、わたしもいく」
ラシードから貰ったおやつを食べ尽くしたウィニがぴょこっと猫耳と尻尾を立ててそう言った。
「転移の精霊具、起動に魔力いっぱい使うから。さぁや一人だとたいへん」
「……それは確かにそうね。ありがとうウィニ。一緒にいきましょう」
「ん!」
口をへの字にして、相変わらずの仏頂面のウィニだけど、しっぽは揺れていた。
「んじゃ、そろそろお開きとするか! 俺らはクサビの帰る場所も守らねえと行けねえしよ」
「ええ。そうですねっ。クサビさんが過去から帰ってくるまで私達がこの世界を守らねばなりませんから。勇者パーティとしてっ!」
「……そうね」
ラシードやマルシェ、そしてウィニが部屋から出て各々の寝所へ戻っていく。
私は静かになった部屋でベッドに腰掛け、青髪の少年の横顔を思い浮かべる。
最愛の人の横顔を。
「クサビ……。きっと、帰ってくるわよね……?」
絶えず勃発する戦闘と度重なる犠牲に、私の心は少しばかり疲弊していたようだ。
つい不安が言葉となって出てしまった。
私は……私は……。
「……っ。いけないわね。今は私が弱音なんか吐いてる場合じゃないのよ」
クサビが居ない間、私が皆の希望になるって決めたのだから。
「私、頑張ってるわ。……クサビ――」
窓からは星明りが煌めいて、私は小さく呟いた。
「――早く帰ってきて」
そうして私は寝台へ潜り込んだのだった……。




