Ep.434 Side.W 四獣乱戦
「――ぐぇっ」
サッズが地面にめり込んでる。
戦いが始まってすぐ、虎のおっちゃんに襲いかかったと思えば、次の瞬間にはおっちゃんの普通の拳で広場の硬い地面に植えられていたのだ。
虎のおっちゃんは拳を握っている手を軽く振りながら言った。
「狡いこと考えてねェで研鑽積みやがれ、雑魚が」
サッズにおっちゃんの言葉が聞こえているかわからないけど、足がぴくぴくしてる。サッズ、脱落っと。
ラダラットの広場では、今獣人たちによる喧騒で包まれている。
虎のおっちゃん……虎牙族族長ラムザッド・アーガイルの宣言に各種族は戸惑いつつも、それぞれの族長、もしくは族長によって選ばれた代表者が参戦していた。
わたしたち猫耳族からは、おとーさん――ソバルトボロス・リィズ・カルコッタ――が大きな斧を振り回して豪快に暴れている。戦士長っていう偉い役に就いてるから、おとーさんは強い。
狼牙族からはサッズが。でもたった今脱落した。
うさぎの耳としっぽを持つ兎人族からは、純白の毛並みの『レア・リップル』というおねーさんが杖を振るっている。長杖を上手に使った棒術と魔術を掛け合わせた、珍しい戦い方をしてて面白い。
熊の特徴が色濃い熊爪族からは焦げ茶と黒の毛並みの、体の大きなおじさん『ベンダス・アルバダ』が力強い咆哮とぶっとい腕で圧倒していた。
特に目立っているのは、虎のおっちゃんを除けばこのくらい。他にはリスの大きなしっぽがかわいい尾栗鼠族や、狐の特徴が色濃く出ている狐人族も混ざっている。
こんなに色んな獣人が一堂に集まっているなんて、初めて見る。
外で見守っている獣人族にもその特性や性格が良く出てる。
猫耳族はおとーさんをみんなで応援しているし、熊爪族の人たちはガラ悪く煽り立てるような声を上げていた。
虎牙族の人たちは、おっちゃんの勝利を疑っていないようで、冷静にただ静かに戦いの行く末を見つめ、尾栗鼠族たちは手で目を被ったりしながらあわあわしてた。指の隙間からしっかり見てたけど。
「えい! やあ!」
普段大人しい尾栗鼠族だけど、懸命に虎のおっちゃんにくるくると体ごとぶつかっていく。
「……まァ、お前らは温厚だからなァ……。尾栗鼠族製の装備には助かってンぜ。これからも頼む、ぞっと」
「んぁぁぁ〜お任せあ〜れ〜――」
おっちゃんが尻尾を一振りすると、尾栗鼠族の族長が吹っ飛んでいく。
ぽいん、ぽいんと何度かバウンドして転がると、目を回して倒れた。
尾栗鼠族の『ショール・ラコッタ』脱落。
おっちゃんが尾栗鼠をあしらってる間に、熊のおじさんが狐のおにーさんをやっつけていた。
狐人族代表者『ロット・フォクシー』脱落。
むぅ。見るとこ多くてたいへん。
あ! おとーさんがおっちゃんに行った!
「ラムザッド殿! 行くぞッ! ふん!」
――ガィィンッ!
激しい音を立てて、斧と手甲が打ち合わされた。
「ラムザッド殿、以前カルコッタへのご助力に改めて感謝を。それから娘が世話になっております、重ねて感謝申し上げるッ」
――ギィンッ!
「気にすンなァ。お前ら猫耳族は好戦的じゃねェが侮れねェ。これからの戦いに必要だしなァ!」
――ガギャ! ギリギリ……。
「んむ! 俺は総族長は貴方が相応しいと思っている。だが! 今はこの力で打ち込んでみたくて血が騒ぐのだ! 胸を借りるぞ! ふん……ラァ!」
「ヘッ。いいぜ受けて立ってやる!」
おとーさんが大斧を垂直に振り上げて切り返し、振り下ろす。地面に刃が食い込んでめり込んだ。そして――。
「――地穿岩砕弾ッ!」
「ッ!?」
おとーさんが斧の持ち手を反対側に入れ替えて捻りながら持ち上げると、抉れた地面が礫となって飛んでいく!
おっちゃんは接近の足を急停止させて横っ飛びに躱し、追撃の斧を屈んで避けた。
「……ッ……! ちぃ!」
着地したおっちゃんは舌打ちすると、バチバチッ右腕に紫電を迸らせた。
その時、突然二人が大きな影に覆われ、わたしはその元を辿る。
「む! 上かッ」
「――当方をお忘れかね? グオオオオッ!」
おとーさんとおっちゃんはすぐさま攻撃を中断して避けようとしていて、そこに熊のおじさんの大きな体が落ちてきて乱入してきた。
――――ズゥン……ドガッ!
全体重を乗せて両腕を突き出したその攻撃は、おとーさんと虎のおっちゃんを纏めて叩き潰す勢いで襲いかかり、衝撃で地面を陥没させた。
大きな揺れが起きて、わたしを含めた他の獣人たちがたたらを踏むほどだった。
すごい。おとーさんのさっきの攻撃よりも、虎のおっちゃんよりも、力だけなら上だと思った。
一歩迫る事にズシンズシンと音がして、迫力で少しびっくりした。
「――あたしを置いてくとかナイっしょ!」
その時颯爽とみんなから少し離れた所に着地した白い影が現れた。
「びゅーびゅー吹いて、チャキチャキやっちゃって〜☆ いっけ〜っ『ウインド☆リッパー』♪」
それは息付く間もない戦場にさらなる追撃の風。
力をぶつけ合う3人を纏めて覆うように風の刃を纏った竜巻が吹き荒れ、鋭い刃がおっちゃんたちのところまで圧縮していった!
それを放ったのは、兎人族族長レアの魔術!
上品なお姫さまみたいだと思ったけど、喋り方も詠唱もクセが強かった。
レアおねーさんの魔術が霧散すると風が止み土煙が晴れて見渡しやすくなると、中のおとーさんたちはみんな防御に強化魔術を回して嵐刃に耐えていた。
……そして誰もが相手を仕留めきれなかったことを悟ると、距離を取って油断なく構えて、みんな四方に散って相手を見据えた。
「……うわー。今のでやれないんだぁ……ヤバ」
レアおねーさんが姿勢を低めに杖を構えながら呟いていた。少し強気な表情だけど冷や汗をかいていた。
残ったのはおっちゃんを含めた4人。この4人が獣人族の中の強者ということになる。
このヒリついた空気に、何故かわたしの杖を握る手がぎゅっとなっていて、胸の奥がウズウズしてしまっていた。
いつもそんなことないのに、ここのみんなの熱さに当てられちゃったのかな。
「猫耳族、熊爪族に兎人族か。お前らは俺が頭張るのには反対か?」
「んむ! 異論なしッ!」
「当方も異論はありますまい。しかし力は示すが我々の常。故にこの力、披露したく存ずる」
おとーさんの迷いのない返事に、わたしも猫耳族のみんなも思わず頷いちゃった。
熊のおじさん、ベンダスは低くてくぐもった声で、理性的かつ丁寧に答えている。
「あたしらも別に引き続き従うつもり。でもさ、狼のやつらに舐められっぱなしはムカつくわけ。だからここで兎人族だってやれること証明するために、本気出しちゃうかんね!」
レアおねーさんは不敵な笑みを浮かべて、ぐっと杖を握りしめてみせた。
「……そうかイ」
「――だが」「――されど」「――でもさぁ……」
おとーさんと熊のおじさん、レアおねーさんが同時に声を重ねた。そして――。
「「「――その座、引きずり下ろしてみたくなった!」」」
3人が同時に同じ言葉を言い放つと、一斉に虎のおっちゃんを標的に定めて駆け出した!
「ッ!」
おっちゃんが一瞬目を見開く。
だけどすぐに獰猛な目つきで笑い顔を見せると、毛の至る所から電気が走った。
「いいぜェ……纏めてかかってきやがれッ!」
虎のおっちゃんは両腕に電気を集中させると、その両手に纏わせて構えていた。




