Ep.433 Side.W 獣人族の性
家族と再会して久しぶりの顔に安堵でいっぱいになり、わたしの泣き顔はやがて笑顔へと変わっていった。
わたしの尻尾もごきげん。
そして家族のみんなのこれまでを聞いたり、わたしの大冒険の数々を話したりして猫耳族のみんなが辿り着くのを待った。
おとーさんは相変わらずムキムキで、おかーさんもぽかぼか太陽みたいににこにこで、変わりないようでよかった。
弟のケルは大分背が伸びて、わたしよりも頭ひとつ分高くなってた。故郷にいた時は後ろを着いて回って、たまに小言を言っていたのに、今ではわたしにくっついたりはして来ないところに成長を感じつつも少し寂しさを覚えた。
それから槍を持つ手が少し逞しくなってて、おねーさんも弟の成長を感じちゃったりした。なんだっけ。男の子、三日会わないと、なんかすごい。……だっけ?
妹のミリも大きくなったけどまだまだ甘えん坊で、わたしにくっついて離れない。
ここに着くまでにきっと怖い思いをしただろうから、わたしも今まで離れて出来なかった分、いっぱいなでなでしてあげた。
そんな妹にも変化があって、腰にはショートソードをぶら下げていた。少し臆病で、でも無邪気なところもあるミリは魔術師よりも剣士を選んだみたい。
おとーさんと同じおっきな斧は扱えないから、剣を練習しているんだとミリは楽しそうに話してくれた。
そんな、みんなの話を聞くわたしはミリを抱っこしながらおかーさんに寄りかかっていた。
「ウィニ、ミリと二人分じゃ、お母さん重たいわよ〜」
そういうおかーさんも尻尾を揺らしてどこか嬉しそう。
久しぶりの家族水入らずで、わたしの中で何かが満たされたのを感じていた。
それからしばらくすると、生き残った猫耳族の全員がラダラットに辿り着いたと、ダルトおにーさんが教えてくれた。
それでみんなにも挨拶をしたけれど、こんなに生き残ってくれたと知り、わたしの心の中には喜びが広がる。
族長も無事に辿り着けて良かった。もうおじいちゃんだから心配してたんだ。
そうしてカルコッタのみんなと話をしていると、広場の入口の方から突然大きな声が聞こえて、わたしもみんなも声がする方を向いた。
言い合いしながらの怒鳴り声。それは縄張り争いが始まる前の威嚇のようで、思わず身を固くしてしまう。
「ウィニねぇ……」
わたしに着いてきていたミリは不安そうにわたしにギュッと抱きついて、ケルは身構えるような姿勢を見せて、わたしとミリの前に立ち位置を変えていた。
「大丈夫」
わたしは怖がるミリの頭を撫でて、ケルの肩に手を乗せる。
広場中に張り詰めた空気が漂い始めて、当たりはある一点を覗いて静かになる。
その騒ぎの元を辿ると、灰色毛の狼の獣人と……あれは、うさぎの耳?
「よく姿を晒せたな腰抜けの兎共! 今日からお前らは俺達狼牙族の下僕だなァ!」
「ふざけるなッ! もはや我ら兎人族は、貴様らクズ共の言いなりにはならないぞ!」
狼牙族と、兎人族の数人が向かい合って言い争い、ついには武器を持ち出して睨み合う始末。
殺気まで溢れていて、今にも戦いが始まりそうな雰囲気で、他の獣人たちも集まり始めた。
おとーさんとおかーさんも異変を察知してわたしたちの所へやってきた、その時だった。
「口答えすんじゃねぇぞ家畜風情がッ」
「――ぐわっ! き、貴様!」
狼牙族が兎人族の胸倉を掴んで殴り付けたのだ!
それを見た兎人族の仲間たちが飛び掛かる!
――――ドガンッ!
突然、武器を手にぶつかり合おうとしていた狼牙族と兎人族の間に激しい轟音と共に紫の稲妻が奔り、衝撃波に煽られた彼らは吹き飛ばされて地面を転がった!
……雷が落ちた場所には、握りしめた右手に紫電を纏わせて立つ、虎のおっちゃんの姿があった。
「「「「――――」」」」
金の隻眼で突き刺すような眼光で一瞥する虎のおっちゃんに、誰もが息を呑む。
「テメェら……何してやがる」
おっちゃんは低く、地を這うような声でそう呟くと、ゆっくりと近づいていく。
「テメエらをここに集結させたのは俺だァ……。だが、誰が殺しあえっツった?」
おっちゃんが近づいていくたびに狼牙族は後退りしていく。
「……ッ……」
そして、虎のおっちゃんは狼牙族の男を見下ろして睨みつけると、その男はカタカタと震えて、ガタガタと歯が鳴った。
「――おいラムザッドォ。あまりウチのもんを虐めてくれるなよ」
不意に聞こえた声に虎のおっちゃんが静かに振り返る。
やってきたのは真っ黒な毛並みに一際鋭い牙を持つ、狼牙族の男だ。その立ち姿から既に粗暴な印象を受け、わたしは目を細める。
「俺ら狼牙族にとっちゃ兎共は昔っから家畜だもんでな。そんなヤツらと肩を並べて仲良しこよしなんぞ、若いモンには無理って話だぜェ」
「俺が離れてる間随分と調子付いたじゃねェかサッズ。族長に上り詰めて勘違いしたか?」
おっちゃんがそう訊ねると、サッズと呼ばれた男はニヤニヤと笑みを刻む。
「……なぁに。ちょっとした手違いで族長が戦死しちまったンでなァ。まぁ俺は元々族長補佐だったから問題ねぇのさ」
「ハッ……。族長の不審死が多い狼牙族が何ほざくよ」
……思い出した。
狼牙族の族長は別の人だったはず。この人は側近の一人『サッズ・グロウシル』という男だ。今は族長になったみたい。
狼牙族は粗暴で自己中心的な人が多い。けど中には優しい人もいるのも知ってる。ボリージャにいる素材買取屋さんのおっちゃんみたいに……。
でもそんな優しい狼牙族は里の人らに合わず、だいたい里を出ていくことが多いらしい。
だから、里の狼牙族に優しくはない人が多くて、みんな怖いと思う人も多いのだ。
……でも今は獣人同士で争ってる場合じゃない。魔物に全部奪われてからでは……皆が暮らせる場所がなくなっては意味がないんだから。
今は獣人同士のいがみ合いも置いて、握手しなきゃいけないのに!
「総族長だかなんだか知らねェが、俺ァ前から気に入らなかったんだよナァ。……お前その座、狼牙族に寄越せよ」
「……そうかイ」
おっちゃんは落ち着いた様子でそう言うと、周りを見回した。
その時おっちゃんと目が合い、わたしは悟る。
家族に会うこと。それはここに来た一番の理由だった。
でもほんとはそれだけではない。
わたしは今、世界を助けるために集まった、黎明軍のひとり。そのお役目を果たすためにきたんだ。
……わたしはミリをそっと下ろし、頭に手を乗せながら家族を見渡して言う。
「わたし、やる事ある。いってくるね」
おとーさんとおかーさんは何も言わなかったけれど、その眼差しはわたしの背を押してくれているような、真剣だけど優しさのこもった目だった。
戸惑うケルとミリだったけど、そんな二人を安心させるように笑って見せ、わたしは胸を張った。
「わたし、こー見えても勇者くさびんの、ゆいいつむにの仲間!」
「「!?」」
わたしの言葉を聞いて驚く家族の反応に満足したわたしは、風を操りふわっと浮いて、分かりやすく風圧を巻き起こしながら虎のおっちゃんのところまでびゅんと飛んでいく。
――――ざわざわ。
周りの驚くざわざわ声が気持ちいい。ふふん。
力あるものが偉い獣人には、力でびっくりさせるのが一番なのだ。空を飛ぶなんて、師匠やアスカ先生くらいしかできないすごいこと。
ここの誰にもできないことを見せつけたわたしは、胸を張っておっちゃんの横に降り立った。
わたしの派手な登場に、サッズとおっちゃんや兎人族の人たちの言い争いも止まり、おっちゃんから、ふっという小さな笑いが漏れ出る気配が伝わってきた。
ちょと褒められた。うれしい。
「……いいぜサッズ。ならこの場を借りてもう一度ハッキリさせようじゃねェか」
「望むところだ虎ヤロウ――」
「――ただしッ!」
おっちゃんはサッズを遮って強い語気で言の葉を紡ぐと、再び周囲を見回す。
「それぞれの獣人族の最強は全員参加だッ! ここで総族長が誰が相応しいか決めなおす――乱戦上等の総族長選出の儀よォ!」
そう叫んだおっちゃんも、これ見よがしに全身に雷を走らせる。衝撃がこっちにも伝わり、毛先が電気でぴしぴしした。
周囲の獣人からどよめきが上がる。
呆気にとられる人、巡ってきたチャンスに戦意をたぎらせる人と反応はそれぞれだった。
「見届け人は、黎明軍所属の猫耳族のわたし、ウィニエッダ・ソバルト・カルコッタが務める」
わたしは腰に手を当てて高らかに名乗りを上げ、予めおっちゃんに言われていた言葉を宣言する。これがわたしのお役目。
ホントはちゃんと名乗りたかったけど、おっちゃんに止められたから省略版……ぐぬぬ。
……とにかくこれで場は整った。後はおっちゃんにまかせる。
「――さあ、戦うヤツァ前へ出ろッ!」




