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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.428 心の枷

 朝。

 窓から覗く晴れ渡る青空や小鳥の声に、新しい一日を実感する。


 顔を洗い着替えを済ませ、いつものように伸びた青髪を三つ編みに整えて、自室のドアを開けた。

 族長館の外には清涼感ある空気が流れ込み、心地良い朝陽が射し込む。


 この朝の空気を胸いっぱいに吸い込んで、僕は気合いを入れる。


「……よし。今日も頑張るぞ!」


 僕は張り切って工房への道を歩き出す。

 槌と鉄の都シュミートブルクでの朝は早い。



 僕はゼクストさんの工房に入り浸ることになるが、アズマ達は来たる魔王との戦いに向けて最後の支度をしたり、鍛錬に勤しむそうだ。


 セイランには、魔王が封印されている地を上空から偵察する為、北へ飛んで貰っている。


 街外れの道を歩きゼクストさんの工房へ向かう。遠くからでも既に工房の煙突から黒煙が上がり、金属を打つ鎚の軽快な打音が奏でられ、既にゼクストさんは工房で作業をしている事を窺わせていた。


「おはようございます! ゼクストさん!」

「……うむ」


 ゼクストさんの挨拶も短いものだったが、それだけ集中しているのがわかる。

 ゼクストさんは炉の前の作業台で鎚を手に、なにやら台座のような物を拵えていた。


 ゼクストさんの後ろから覗き込むと、不思議そうな顔をした僕の疑問を察したゼクストさんが口を開いた。


「コイツは封印剣に触媒を流し込む為のものじゃ。昨晩練りに練って構図を考えた」


 見ると、台座中央に長方形の窪みがあり、少し底が深くなっている。その周りに6つの丸い窪み。その丸い窪みから剣の窪みに導線のように小さな溝が延びているようだった。


 ゼクストさんはそこに触れながら言う。


「……6属性全ての結晶を取り囲むようにこの6つの穴を作り、中心に流し込み、そこにメテオライトを加えて融合させ、一つのインゴッドを作る予定じゃ。……だが……」

「……結晶を液状化する為の火力がまだ……」


「そうじゃ。……じゃが火力の問題ではない。この結晶、どうやら熱でどうにかなる代物ではなさそうじゃ」

「え…………」

「これを見ろ」


 ゼクストさんは触媒の一つを炉にくべた。


「あっ!」

「いいから黙って見ておれぃ!」


 ゼクストさんは慌てる僕を制止して注視を促した。


 炉の中で炎が揺らぐ。

 だが結晶だけは、まるでそこだけ別の世界にあるかのように、変わらず淡い光を放ち続けていた。


 ゼクストさんは結晶を炉から取り出し、元の位置に戻す。


「この通りじゃ。高温であろうと熱をまったく受け付けん」

「な、なるほど……」


 火の力が問題ではなく、別の要因があると言うことなのか。


「……ハクサ、これを持ち出したお主になら、何か解決の糸口、その心当たりはないのか?」


「うーん……。そうですね……」


 僕は腕を組んで瞑目し、今までの記憶を辿りながら考える。


 ゼクストさんによると、この祖精霊の触媒は熱によって変化しない。火力を上げても意味は無い。


 ここは、この触媒をくれた本人達に聞いてみるのがいいかもしれない。


「……そうですね……。少しお時間を頂けますか? すぐに戻りますのでっ」


「うむ。儂は引き続き台座の制作に取り掛かる。ここから専用の炉を拵ねばならんからかなりの時が掛かるじゃろうて。お主も進展があれば直ぐに知らせるんじゃぞ」

「……はいっ! では行ってきますっ!」



 ゼクストさんの工房を出た僕は少し離れた場所で立ち止まり、目を閉じた。


《誰か、教えて欲しいんだけど……》


 僕は頭の中で祖精霊達に呼び掛ける。すると間髪入れずに元気な声が。


《はいはいはーい! やっほぉ! お困りならこのジオにお任せだよ〜っ!》

《相変わらず騒がしいな、地よ。……して主よ、話は聞いていたぞ》


 念話に地の祖精霊ジオと、闇の祖精霊エクリプスが応答してくれた。


 そうか。常に繋がっているのだから事情も皆に筒抜けなのだ。だがそれなら話は早い。僕は早速相談することにした。




《――というわけで、熱を加えてもダメらしいんだ。あの結晶はどうすれば素材として使えるの?》


《うーん! ボクは使い方までは考えてなかったからわかんないや〜!》


《うむ。もとよりアレを溶かすという用途とは知らなんだからな。私は封印に用いるだけの力を授けたに過ぎんのだ》


 ……なるほど。確かに溶かすとは言ってなかったし、そもそも僕もどう扱うかは想像も出来てなかったのだ。


 誰にも非のない話だ。祖精霊達に感謝はあれど、責める理由なんて一つもない。


《そっか……。ありがとう二人とも。……あ、そうだ! アグニの炎ならどうかな?》

《我の炎に目をつけるとは流石我が主よ。あの結晶は言わば精霊の魔力の結晶体。溶かすには精霊の力と炎が合わされば、あるいは……》


 火の祖精霊アグニが念話に参加し、思案気味な声色で返答する。


《確かに、精霊の力を揺るがすには精霊の力を当てる……。言い得て妙ね。クサビ? 試してみる価値はありそうよ》


 水の祖精霊リーヴァも賛同する。


《それなら、僕の風でさらに精霊力を増した焔に仕上げようじゃないか! なんだか楽しそうだしね!》


《うっわ風の……。く、クサビ。でも火と風の精霊の力でなら……か、可能かも。……知らないけどっ!》


 風の祖精霊ゼファイアに、光の祖精霊アウレアが加わり、僕の脳内は契約した祖精霊全員集合状態である。



 それから祖精霊達と、あれやこれや、やいのやいのと相談を続け、どうにか溶かせる手段を編み出すことが出来た。


 具体的には、触媒を使う時が来たら、アグニとゼファイアを召喚し彼らに力を注いで貰い、触媒を溶かす。

 というやり方を試すことになった。


 これを早速ゼクストさんに話に行かないといけないのだが……。


「……はは。これで僕が正真正銘何者なのか疑うだろうな……」


 僕は頭を掻きながら一人呟いた。

 目的は話したとは言え、未来の人間であることは然る事乍ら、祖精霊と契約を果たしている事は伏せていたのだ。そしてこの体がもはや人を辞め掛けていることも。


 しかし封印剣を作製する為には、明かさなければならなくなった。

 いや、それ以前に、多大な恩があるゼクストさんには、これ以上隠し事をしたくはないんだ。


 本名も素性も明かせないことが後ろめたく、さらには重要なことを後から告げる事への、不義理めいた感情が僕の中に渦巻いている。


 それにずっと苦しんできた。そして葛藤してきた。


 全てを明かすこと。

 以前、僕の事情全てを知ったアズマ達は、僕に関する情報を残すことなく、生涯心の内に留めることを約束してくれた。


 僕の素性を知る人を増やす事は、本来は未来の――僕の生まれた時代の為にしちゃいけないことだ。……わかっているんだ。


 それでも出来るだけ誠実でありたい。

 素性も名前も偽ったまま、大恩ある人の前に立つ、そんな勇者では居たくないんだ!


 そんなんで、胸を張っていられるのかクサビ・ヒモロギ!

 今の僕を見たら、きっとサヤならこう言うだろう。


「何うじうじしてんのよ、アンタらしくない」


 って。


「……はははっ。そうだね……僕らしくない」


 最愛の人の顔が浮かんだ瞬間、心の中で何かが抜け落ちた感じがした。

 そしてふつふつと、僕の中で勇気が湧き上がってくるのも。


 ――伝えよう、全てを。僕が僕らしくある為に。

 そして信じよう。ゼクストさんならきっと、僕の事を後世には秘してくれると。


 そう僕は己の想いに整理を付け、工房へと戻りの足を向けるのだった。

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