Ep.427 封印剣作製開始!
翌日。
再び僕とゼクストさんによるシュミートブルクでの製作作業が始まった。
今回は義手ではなく、作るのは魔王を封印する為の剣――封印剣だ。
アズマ達は各々、来たる魔王との再戦の為の準備をするということで各々街を巡っているようだ。
僕は現在、ゼクストさんの工房で今まさに作業に取り掛かろうとしていた。
「封印に使用する為の剣を作るなぞ、数多の品を生み出してきた儂とて前代未聞じゃ。一からの試行錯誤になる。すんなり行くと思うなよ。良いなハクサよ」
「……はい!」
触媒の結晶が並ぶ鉄製テーブルを睨みながら、ゼクストさんは告げ、僕は覚悟と共に返答する。
昨日話を聞いてからずっと封印剣の生成過程を考えてくれていたようで、僕はその工程内容を確認していった。
その工程を淡々と説明していくゼクストさんだったが、素人目から見ても問題は山積みだった。
まずは剣自体の素材選びだ。
祖精霊の触媒全てを融合させる為にはそれなりの耐久性がなければならない。
鉄や鋼では不安が残る。もっと硬度の高い素材選びが重要との事だ。どの素材ならば事足りるのかの選定からとなる。
剣の素材を選んだら触媒と融合する工程へと移る。
触媒を溶かして剣の素材と混ぜ合わせ、形にするのがいいだろうというが、そこでも問題があるそうだ。
それらの問題をなんとかしてクリアし、封印剣の完成を目指す。
「――なるほど……。それで問題というのは、一体何なのですか?」
僕はゼクストさんに、これから解決しなければならない問題を訊ねる。彼はうむ、と一言頷くと触媒を見つめながら口を開いた。
「まずは素材じゃ。この結晶からは途轍もない魔力が漲っておるのを感じる。剣と素体となる素材は、魔力との融合性が高く、なお丈夫なものが望ましいのじゃ。――――そして……」
ゼクストさんはさらに話を続ける。
「それらを解決し、この結晶を融解させるには、この炉では設備不足なのじゃ。新しい専用の炉が必要になるじゃろう」
「……専用の炉を……わかりました」
予想はしていたけど、やはり一筋縄ではいかないよな。
でもここまで来たんだ。諦める理由は元よりない。
「それから、封印剣がめでたく完成したとしてじゃがな、おそらく封印が施せるのは一度だけじゃろう。いかに丈夫な素材を選ぼうと、封印の魔力に耐えられるとは到底思えん。完全な使い捨てになる事を努努忘れるなよ」
「一度きり……。はい、わかりました!」
僕は改めて強く頷いた。
それからさらに製作の話を詰めていく……。
「まずは剣の素材となる鉱石のアテじゃが、実はある」
「えっ!? 本当ですかっ! 一体どんな素材ですか?」
僕は思わず身を乗り出した。
するとゼクストさんは鬱陶しそうな顔で、僕はゴツゴツした掌に押し返されてしまう。
……いけない。つい興奮してしまった。
「ええい! ……『メテオライト』じゃ。知らんか?」
「メテオライト……」
《メテオライト……。天上より遥か先、星の外より舞い降りし神秘の石、のこと》
念話で光の祖精霊アウレアがぼそりと呟いた。
なるほど。教えてくれてありがとう!
「天上より遥か先、星の外より舞い降りし神秘の石……のことですよね?」
「……なんじゃ急に。胡散臭い詩人のような事言いよって。隕石と言わんかい」
「……」
《そのまま言うなんて……グフフフ》
アウレアの下品な笑い声だけが頭の中に響き渡る。
この人見知り祖精霊、いきなり罠にはめてくるじゃないか……。
《クサビ安心なさい? アウレアは私がお灸を据えておくわ……》
《ひっ!》
……リーヴァの静かな怒気がこもった声色に、何故か僕もビクッとしてしまうのだった。
その後リーヴァがアウレアに何をしたのかは聞かないでおこうかな……。
……それはさておき、本題のメテオライトだ。
僕は意識を現実に引き戻してゼクストさんに質問する。
「そのメテオライトは、どうしたら手に入るのでしょう?」
僕の質問に、ゼクストさんは無言で奥の部屋へ消えていき、戻ってきた時には片手に拳大の黒い岩のようなモノを抱えていた。
その岩をテーブルにドンと置く。
「もしかして……これが……」
「左様。これが正真正銘のメテオライトじゃ」
無骨な真っ黒いただの岩のように見えた僕は半信半疑に訊ねたが、どうやらこれが本物のメテオライトのようだ。
もっと煌びやかなものを想像していた僕は拍子抜けする。
「見てろ」
ゼクストさんは無言で鉄のピックを掴み、黒い岩を軽く突いた。
――カン、と乾いた音が工房に響く。
次の瞬間――
岩の亀裂から、虹色の光が滲み出した。
「……すごい! 鉱石の中が虹色に光ってますよ!」
「うむ。これは魔力の光だ。メテオライトにはこのようにあらゆる属性の魔力を貯め込む性質があるのじゃ」
僕は思わず身を乗り出していた。
確かにメテオライトは黒くてゴツゴツとした見た目ではありながらも、その内部に光る虹色の光が内包されていたからだ。
アズマが見たら僕のように興奮したかもしれない。
「耐久性も申し分なく、封印の力を内包する事が可能な筈じゃ。……ま、封印術を発動すれば粉々じゃろうがな」
やはり使い捨てになってしまうのは避けられないのだろう。
「でも、このメテオライト……とても貴重なんじゃ……」
僕は遠慮がちに言葉を投げ掛ける。
ゼクストさんはそれに、さもありなんと言わんばかりに頷き口を開いた。
「無論稀少な鉱物じゃ。じゃが、それがこの石の役目なのじゃろうて。その使い道が訪れただけの事じゃ。然るべき時然るべき事に使ってやらねばコイツも不憫じゃわい」
ゼクストさんなりの物の扱い方に、僕は心が熱くなる。
心が動かされたのはそれだけが理由ではない。
ゼクストさんは貴重な鉱石を、素性の全てを明かせていない僕の我儘の為に差し出してくれているんだ。
僕を信頼してくれているんだ……!
僕は僅かな罪悪感と多大な感謝の念で胸を満たしながら、ゼクストさんへと向き直る。
「ありがとうございます……!」
深々と頭を下げる。
「……ふん。礼を言われる筋合いはないわ。それよりハクサよ、早速形にするぞ。手伝え」
「……はいっ!」
不器用な優しさに目頭も熱くなったが、すぐに気を取り直して僕は、ゼクストさんと本格的に封印剣作製の作業を始めるのだった。




