Ep.425 恩人との再会
遠目に街が見えてきた。
皆にとってはついこの前来たばかりの街だろうけど、僕にとっては五年振りのシュミートブルクだ。
工房の街だけあって物々しいが、住民の殆どは小人種であるツヴェルク族なので、子供の街のような錯覚を覚える街でもある。
街に近づくとセイランは高度を落としていき、やがて街の入り口へと降り立った。
「うわわわーー! ド、ドラゴンだぁぁ! て、てきしゅ……敵襲〜〜! って……あれ?」
セイランが着地した瞬間、ツヴェルク族の門番が慌てふためいて手足をバタバタしていた。しかし僕達の姿に気が付くと動きを止めて首を傾げた。
そうだった。セイランを使役している事など彼らは知らないのだ、もっと街の手前で降りればよかった。驚かせてしまって悪いことをしたかもしれない……。
「なんと! ゆ、勇者様達ではありませんか! ドラゴンに乗って来られるとはカッコイイですっ!!」
と、体いっぱい使ってはしゃぐのは、前にも門番をしていたナッツさん……だったかな。
騒ぎを聞きつけ他の門番達が駆け付けてくるが、彼と同じ反応を示す者が大半で、ひとまず大事にはならなかったようで、僕は安堵の吐息が漏らした。
「また用があって来たんだ。騒がせてすまないね」
アズマが清風のような爽やかな笑みでそう言うと、皆は尊敬の眼差しで僕達を眺めていた。
「いえいえ! では族長館へご案内を……ん?」
ナッツさんが僕に視線を移すと僅かばかりに眉を動かしじっと見つめてきた。
「ハ、ハクサさん……ですよね? こんな大人っぽかったですっけ?」
「は、はい。ちょっと色々ありまして……あはは」
そうなんだよな。皆からすれば、僕一人が五年の月日を過ごしてきたことは知らないのだから、容姿も成長した姿を見れば驚くのも無理はないよな……。
僕は曖昧に笑ってごまかした。
「ははっ、不思議な事もあるものだろう? さて、では入っても?」
と、アズマがナッツさんを促す。
「は、はい! どうぞこちらへ! ガイン族長の元へご案内します!」
そうして僕達はシュミートブルクの街中に入っていった。
「ふふっ。やっぱりこの街はなんだか和むわねっ」
「ああ。まるで子供の国のようだからな」
ナッツさんに連れられ街道を歩く。その道中、サリアが街の営みを見渡しながら楽しそうに声を漏らし、シェーデがその隣で同意する。
辺りから聞こえる鎚の音、人々の声……。
平和な街を眺める僕達には、この光景がこれから訪れるであろう壮絶な戦いの前の最後の羽休めであると、誰の心の奥底でも予感めいていたものであり、誰もが覚悟の糸を結び直すのだった。
その後、族長館にてガイン族長と面会し、軽い挨拶を交わして、街の外れにあるゼクストさんを尋ねることにした。
「――なんじゃぞろぞろと……む、お主……ハクサなのか? その出で立ちはどうしたのじゃ」
「ゼクストさんお久しぶりです。……僕にとっては5年振りですよ、実は……」
小人族の小さな体躯に、相変わらずの逞しい立ち振舞いのゼクストさんが僕を見て、その深い皺が刻まれた鋭い目つきを見開かせた。
僕は軽く自身の身に起きた出来事を掻い摘んで説明する。
「……ふむ。凡そ信じられんような馬鹿げた話じゃが……その義手の様子からは嘘とも思えん。して、今日は何の用じゃ」
ゼクストさんは驚きもせず淡々と述べる。
その視線は僕の右腕――義手へと向けられていた。かつて共に制作したゼクストさんだ、義手が辿ってきた年季を彼は感じ取っているのかもしれない。
「勇者アズマも久しいな。お主らも、茶は出んが適当に過ごしていけ」
「意外に早い再会だったね。少しお邪魔させてもらうよ」
「お邪魔しますね」
アズマとサリアが挨拶すると、ゼクストさんは一つ頷いて工房の奥へと踵を返して、背を向けたまま立ち止まった。
「ハクサは儂と来い」
「あ、はい! ……じゃあ皆、行ってきますね」
「ああ。僕らは武具なんかを見て回っているよ」
「しっかりね。ハクサ」
「……なら、俺は好きにさせてもらうぜ」
「そうだな。私はウルに同行しよう」
「…………」
それぞれが各々の目的を見付け、工房の中を見て回る者、外へ出ていく者と分かれて行動していく。
「はい! ではまた後で」
僕は皆の背中を見送って、ゼクストさんの後に続いた……。
工房の作業場にやって来た。
ここで義手を制作するにあたり、ゼクストさんと何度も試行錯誤を繰り返した記憶が蘇る。
見慣れた炉の前にゼクストさんは座り込んでおり、僕も向かい合うように座った。
「ゼクストさん。今日お伺いしたのは――」
「その前にその義手を見せろ。見てやる」
「は、はいっ」
有無を言わさぬゼクストさんに、僕は慌てて義手を外して差し出す。
彼は目を細めて僕の義手を覗き込み、時折指先や肘関節などを指先で触りながら検分していく。
「……ふむ。かなり使い込まれておる。やはり先程の話は本当の事なのじゃな」
ゼクストさんは工具を用いて義手を手入れしながらそう言って頷く。
「驚かせてしまってすみません……ははは」
「……ハクサよ、お主は一体何者なのじゃ。凡そ一般人とは思えん境遇じゃ」
ゼクストさんは手を止め、鋭い視線を僕に向けながら問いかけてくる。
「…………」
僕はゼクストさんの言葉に笑うのを止め、申し訳なさで次第に俯いてしまう。
――本当は500年後の未来の人間だなどと、僕の正体を明かす訳にはいかない。クサビという本当の名前も、これ以上は知られるべきでは無い。
だが、ゼクストさんは多大なお世話になった人だ。本当は明かしたかった。
でも、出来ない。僕の名はこの時代に残してはならないのだから。
僕は真実をぐっと飲み込み、ただ沈黙するしかない。
「……良い。何か理由があるのじゃろうよ」
僕の様子で察したのか、ゼクストさんは僕を見る視線を解いて手元に目を戻した。
「……すみません」
「気にするな。……ほれ、手入れしてやったぞい」
ゼクストさんがそう言うと同時に僕の手に義手が返却される。
「……ありがとうございます!」
ゼクストさんはただ頷き、僕が義手を装着するところを見守ってくれたのだった。




