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時を越えた約束 〜精霊剣士の英雄譚〜  作者: 朧月アズ
過去編 第3章『封印の剣』
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Ep.420 Side.C 対魔将戦闘態勢

 それは、突如発現した光だった。


 天から伸びる光が巨影を包み込み、それは膝を折り、やがて消滅した。

 遠くから見えた光の柱が徐々に失われていく。我は空を駆けながらその傍らに、失われゆく残光の中に横たわる人影を見た。


「……白賢の仕業か。あの光……ただの光でもなく、ただの火でもない。……破邪の光……か」


 光と火の混合属性、といったところか。邪悪を焼き尽くす清浄なる光。理解するには相当の時を要したはずだ。


 さすが白賢の名を冠するだけはある。


 そのアル爺に接近するとある部隊が見える。

 長身の逞しい体躯の男がアル爺を抱き抱え、生死を確認しているようだった。

 東門からの援軍なのだろうか。彼が慌てた様子で人を呼んでいる。ならばアル爺は彼に任せて良い。


 我には我の成すべき事が残っているのだ。

 あとは――


 と、向かうべき戦場を視界に戻した刹那だった。


 敵指揮官の陣の手前で、轟音と共に紅蓮の炎が炸裂したのだ。


「始まったか!」


 あの炎はおそらくジーク・ディルヴァインの武技であろう。


 相手は魔族幹部の一人、ハーゲンティ率いる魔物の軍か。

 ヤツを相手にジークだけでは危険だ。


 ……急がねば!

 我は風に乗り、戦場へと急ぐのだった……。




「――ジーク!」


 我が戦場に辿り着くと、既に乱戦状態と化していた。

 ジークは率いているグラドの兵達と共に、勝利を勝ち取る為果敢に攻勢を掛け、それを魔族の軍が迎え討つ様相は、忽ち入り乱れ合う混戦の様相へと姿を変えていた。


 ジークはただ一直線にハーゲンティを目指しながら槍を振るい、その傍らにはミリィが魔術で味方を支援しながら追従している。


「オラァッ! ――どけぇ!」


 槍を振り回しながら突き進むジークの並々ならぬ気迫は、彼に続くグラドの兵達をもより精強に変え、劈くばかりの怒声は周囲の雑音をかき消していくかのようだった。


「ジーク! 此れより貴隊に合流する」

「ハァッ! ……チギリ殿かッ! 助かる!」


 我はジークの傍らに着地し、すぐさま近くの魔物にブレイズ・レイを放ち、ジークをチラと見て告げる。

 槍を振り魔物を両断したジークが構え直して我の言に返答した。


「敵の親玉までもう目と鼻の先だ! ここで決着をつけるぞ!」

「無論だ! ここで魔族の一柱をへし折ろうではないか」



 そしてハーゲンティの顔がハッキリと窺えるところまで辿り着いた。


 開戦前の落ち着き払った表情とは裏腹に、赤い瞳に怒りの心情を浮かべていた。

 ハーゲンティにとって、この状況は想定外であり、許し難いことなのだろう。


 ――だがその時、一見無表情に見えるその青白い顔を浮かべながら、ハーゲンティが片手で空を切る動作をした。


「――ッ!」


 背に強烈な悪寒が駆け巡った我が本能的に前進を止めたその直後、ハーゲンティの左右からこちらへ赤黒い魔力の刃が凄まじい速度で襲いかかってきたのだ。それは足を止めた我の足元で交差し、そして霧散した。


「ぎゃ――」


「……あ?」


 歩みを止めなかったグラドの衛士十数名。彼らの四肢が、胴体が、首が主から離れていった。


 今さっきまで勇敢に武器を奮っていた者達が、血を吹き出しながら肉塊となって冷たい砂へと埋まっていき、周囲は赤い砂の戦場へと変貌したのだ。


 ……進んでいたら我も彼らの末路を辿ったのだろう。


「な……っ!?」


 ジークもその光景に目を見開いて絶句している様子である。後ろでミリィが口を手で抑えて声にならない声を漏らした。


「くっ! 皆ッ不用意に突っ込むなッ!」


 ジークが即座に部隊に指示を出す。


 それにより我らはハーゲンティと魔物の戦列を前に睨み合った。


 すると、戦列の奥から今回の戦いを巻き起こした首魁がわざわざ前へ出てきたのだ。


 静まり返る紅の戦場。だが僅かな物音でも再び戦闘が再開されそうな程の一触即発な緊迫感が辺りを覆っていた。


 ハーゲンティがこちらを見下ろし口を開く。


「まさかここまでの抵抗を見せるとは想定外だ。それに先程の不快な光。一層に貴殿らを魔王様に近付けさせる事は出来なくなったぞ」


 奴の言う不快な光とは、先程巨人を焼いたアルマイトの魔術のことだろう。


「……ほう? つまりあの光は、魔王に有効、と?」


 我は彼の言を受けてニヤリと口元を吊り上げながら問いかける。


「…………」


 ハーゲンティの眉間がピクリと動くのが見えた。

 図星か。これは有益な情報を得たな。


「……さて人間諸君。貴殿らはよく戦った。その奮闘に敬意を表するとも。……そこでもう一度訊ねる。ここで潔く自害してくれないかね? そこの肉塊のような最後は嫌だろう」


 ハーゲンティがそう告げてくるが、我とジークの表情に変化はない。


 我らは静かに、ハーゲンティの顔を真っ直ぐに睨みつけ、それを返答とした。


 耳に届いたのは、魔族幹部の溜息。


「……ふ。やはり、か。人間は諦めの悪い種族だな。……ならば貴様らの血を、魔族領獲得への祝いの雨としよう」


 そしてハーゲンティが右手を我らに向けて振り下ろし――。


「惨たらしく殺せ」


「ギィィィィアァァッ!」


 その合図と共に、魔物の群れが襲い掛かってきたのであった――。

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