私の記録⑨
車中では会話はなかった。
親と子なのに全く会話がないというのはちょっと異常かもしれないけれど、私のお母さんの間には大きな溝があるから仕方がないことだ。
とりあえず私は外の景色を眺めていた。
移りゆく景色になんとなく見覚えがある。
なんだか懐かしいような気がする。
とここで心地よい眠気が襲ってきた。
昨日は愛美の家に泊まったため、実はいうと少し眠りが浅かった。
だから少し寝不足だったのだけど、それがここで解けるように睡魔に襲われる。
私はなんでか抗うことをせずにその眠りを受けれいた。
夢を見ているというのが自分でもわかる。
あー、また浅い睡眠か……
なんて思っているとその夢が映し出された。
そこには助手席に座って後ろの席のお母さんと、運転手のお父さんと楽しそうに会話している私だった。
景色で少しでも何かを見つけるとそれを嬉しそうに報告する私はすごく笑顔だった。
それを温かく見守るお母さんもすごく優しい表情で、お父さんはいつも見ていた笑顔だ。
これが昔の私だったんだ。
なんで忘れてたんだろ。
お母さんの笑顔もお父さんの笑顔も私はお父さんが死んでから思い出すことがなかった。
それに今までの自分も思い出さないようにしていた。
だけどなんだろう。
本当はお父さんがいなくてもお母さんと二人で笑えたはずなのに、できていない。
選択を間違えてお母さんの笑顔も奪ってしまった。
こんなに幸せそうなのに……
本当は私が今でも笑顔にしてあげないといけないのに……
子供の私に少しでもなれるのかな?
そしたら変われるのかな?
この夢の中で思う。
私の本心は単純だ。
本当はお母さんと笑顔で暮らしたい。
何があっても笑いあっていたい。
でもそんなのは叶わない。
だって私はお父さんを傷つけた。
だから私のもし叶えてもいい願いをするならそれは、私の分までお母さんに幸せになってほしいだと思う。
そこまで考えたところで頭に優しい感触がする。
意識が覚醒していくのを感じた。
薄目をあけてサイドミラーを見ると、どこかの駐車場に車は停まっていてお母さんが私の頭を撫でてくれているという状況だった。
どういうことなんだろう?
そう考えたところで一通り撫で終わったのか、お母さんは手をどけると素早く車を降りていった。
それを確認した私は、少しだけ待ってから音を立てないようにお母さんの後をつけた。




