私の記録③
「その言葉をそのときはわからなかった。
でもすぐにわかった。
私の後ろをつけていたフードを被ったいかにも怪しい男がね、私めがけて走ってきたんだ。
慌てて振り向いた私は恐怖で足が動かなかった。
だからね、そんな私をお父さんは押し倒して守ってね、お父さんは背中からきられたの。
それも何度も何度も……
苦痛に少し歪むお父さんの表情と、だけど柔らかいお父さんの大丈夫の声が聞こえて……
そして私の服がじっとりと血で濡れる感覚がわかった。
その後はよく覚えてないよ。
私は気を失って、その男も警察にすぐ捕まったからね。
だけどね、ここでお父さんは私を守って死んじゃった。
ほんとはね、私が夜に外なんかに出歩かなきゃこんなことにはならなかったのかなってずっと思ってる。
そうだったらお父さんは死ななくて、お母さんも本当は悲しみにくれることなんかなかったのかなって……
だからお父さんのお葬式からね、私は泣いてないの……
涙をみせるとお母さんが余計に泣いちゃうからね。
だからね、私のせいだってことにしてお母さんを元気にしたかった。
ホントはそんなやり方間違っているのにね。
私って意外とアホらしいからそこがでたのかなって思う。
でもね、ホントに嬉しいんだよ。
お母さんが元気になってくれて……
私はそれだけで嬉しかったから……
あれ、なんだろう。
私泣いちゃってるのかな?
ごめんね、愛美。
少し離してもらっていい?
涙拭きたいから……」
一応話しを終えたので涙を拭こうとそう愛美に言ってみるけど、愛美は一向に離してくれない。
そしてそんな愛美から小さく声が聞こえてくる。
「なんで?
なんで?
そんな平然としないでよ。
私はね、そんなすごい経験なんかしたことない。
目の前で大切な人が死んじゃって、でも自分よりもまた大切な人を優先して……
それじゃ、美佳は大切じゃないの?
一人でずっと心の中で泣いてばかりいる美佳はそれでいいの?
私はね、まだ出会ってホントに全然時間なんかたってないような付き合いだけど、美佳のことは大切だよ。
だからね、美佳にはちゃんと泣いて、ちゃんと笑ってほしいって思うのは私の身勝手かな……
自分ばっかり責めないで抱え込もうとしないでもっと私を頼ってよって言ったら迷惑かな……
ごめん……
変なこと言っちゃった……すぅすぅ……」
「寝ちゃった?」
愛美から確かな重みが伝わってくる。
でもその愛美の体は暖かくてあの時のことを思いだしていた今はすごく心地よく感じた。
だから私は雅人君が部屋をノックするまで愛美をギュッと抱きしめていた。




