第一章(5-3)
「さて、余興も楽しんだところで、いよいよ清水の番だな」
いよいよ来てしまった……浅井の時間稼ぎも何の意味もなく、無情にも俺の番が来た。
そもそも、俺の予行練習のためにやっていたことなのだが。
「はあ、ほんとにやらなきゃだめ?」
「やらなきゃいけないことはないが、もしやらなかったら、空気読めよ的なムードになるだろうな。そして、一生意気地なしの烙印を押され続けるだろうな」
「それは、恐ろしいな……」
出来ればそんな不名誉な烙印は押されたくない。なにより、二人から相当さげすまれるだろう。
逆におとなしく行った方が楽かもしれない。究極の二択だ。
二人からの空気読めよ的な視線に耐えるか、それとも女子と会話するか……
ん?なんかよく考えたらすごくバカらしいことで悩んでるんじゃないか!?
「行ってきます」
心はきまった。最悪お茶に誘えなくても、普通に会話できればいいだろう。
「頑張れよー」
「ミスれミスれミスれミスれミスれミスれミスれミスれミスれミスれミスれ」
なんか奥の方から、怨念にも似た声が聞こえるが気にしない。
俺は教室の中に入り、中村さんの姿を探す。するとすぐに窓際の席で本を読んでいるのを発見する。
読書中とはなかなかの難易度だな。友達との会話中よりはまだいいが、何もせずにぼーっとしている時よりは難しい。
いや、何もしていない時なんて普通あまりないだろうが……
だが、俺はやってやる!!今の俺はひと味違うんだ!!
遂に中村さんの席の前に来る。中村さんはまだ気付かずに読書に没頭している。
後ろから中島の温かい視線を感じながら、俺はありったけの勇気を振り絞って話しかけた。
「な、なな、中村しゅわぁん!?」
噛んだ。だがそんなことはどうだっていい。人間の舌っていうもは不出来で、よく絡まるものだ。
「ひ、久しぶりでしゅね!!」
実際そこまで久しぶりじゃないだろ!!と自分に突っ込みたくなるが気にしない。
「元気してた? もすよかったらでしゅね、あの、お茶とか一緒にいちますぇん?」
そう言って思いっきり頭を下げて、返事を待った。
言った。言えたよ俺!!噛みまくったが、知ったことか!!
「………………」
だが、返事が来ない……まさか、ダメなのか、失敗だったか??
相手の表情を探ろうとして俺は頭を上げた。
すると、そこには“未だに本を食い入るように見ている中村さん”がいた……
こちらには全く気付いていない。代わりに、他のクラスの人たちの目線が俺を射抜いていた。
……………あああ、ああああ。ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!
恥ずかしい!!ちょっと顔赤いんじゃない!? 嘘、ちょっと!? 明日校内新聞とかに張り出されない!? 大丈夫!? ねえ俺の社会的名誉大丈夫!? 息してる!?
走った。全速力で教室を出た。
廊下の奥まで逃げ込むと、中島と浅井が憐れみの視線を向けて待っていた。
「すまん、中村は一つのことに集中すると、周りが全く見えなるんだったわ」
などと浅井がぬかす。
「お前の所為かああああああああ、うわああああああん!!!!」
もうやだ……人生って難しい。
俺は行く当てもなく、再び全速力で走りだした。
結局その日の特訓(?)はそのまま終わりになり、どうすればいいかもわからず仕舞いのままだった。




