ALONE~nakajima~(4)
村長たちが部屋を出てから10分、15分ほどが経過した。その間も会議に参加している人たちは、確かに昔にも建設した記憶があるだの、そんな記憶これっぽっちも無いだの、言い合いを続けていた。
その言い合いの途方の無さに対し、みんなに嫌気が指し始めてきたころ、どたどたと足音を立てて村長たちが戻ってきた。
驚きの表情を浮かべながら。
「あ、あった!!確かにあったよ!!5年前に、ちょうど同じ場所にやぐらを建てようとしていたみたいだ!!」
村長は走ってきた所為か、息も絶え絶えになりながら叫んだ。
――本当にそんなことがあったなんて……!!それに、5年前って相当最近じゃないか。ええと、5年前って言ったらその時俺は何年だ?今が高二だから……
そう、小6だ。そういえば、その年はちょうど佐々原が引っ越した年じゃないか?
佐々原の引っ越しに、やぐらの建設……覚えているべきはずなのに、忘れられていた二つの記憶。これを偶然なんて言えるのか?
「5年前だって!?そんな最近のことなのにどうして誰もはっきり覚えていないんだ!!」
「村長、それは本当なんですか!?」
「訳が、わからない……!!」
室内が再びどよめきに包まれる。泰造おじさんも清水のおじさんも例外じゃなく、驚きを隠せないでいる。
けれど、そのざわめきはすぐに収まった。
「それで、村長。その5年前に建てたやぐらは結局どうなっちまったんだ?」
泰造おじさんがざわつく室内を静まらせるような、低く重い声で言葉を発した。
「あ、ああ。5年前はちゃんと無事に完成させられたみたいだね……でも、どうしてだろうね。完成させた後の記述がまったくないんだ。いったいどうして……ん?」
「どうされました?何か目を引くような記述でも?」
「…………………」
村長の様子をおかしく思った進行役が尋ねる。けれど、それに対する返事は帰ってこない。どころか、村長の表情はどんどん青ざめていき、それだけでなにか重要な記述があったんだと想像できる。
「…………村長?」
「………………7月12日、歴史的豪雨が我が村を襲った」
重く閉ざされていた口がようやく開かれた。そのくちびるは少し震えている。
「村では洪水が起こり、様々なものが流された。だがその日は夏祭りの前々日で、追い込みの作業に追われる最中だった」
――なんだこれ?聞くに堪えない!!村長はいったいなんの文面を読み上げてるんだ!!
「それは子供たちのやぐらの作業も例外ではない。完成直前にしてこの嵐の様な天気にさらされることになってしまった」
――頭痛がする……ひどく気分が悪い。この村長の言葉を聞いているからだろうか。
どうやら、村長が読みあげているこの文は、5年前に自分で書いた手記みたいだ。
「村ではこの嵐のなか外に出歩く人間はほとんどいなかった。だがしかし、そんな中、村を歩く4人の子供を目撃した人がいたという」
――あれ?苦しんでるのはオレだけじゃない?この村長の話を聞いてる村人全員が苦しそうにしてる?
「その4人の子供たちは、夏祭りのやぐら作りを任された子供たちだった。その子たちは、嵐で自分たちの作ったやぐらが壊れていないか、案じていたのだと思う。だが、その健気さが悲劇につながってしまった」
――痛い、痛い、痛い!!頭がズキズキ痛む!!
「4人のうち一人の女の子が、やぐらの上で足を滑らせて落ちてしまったらしい。そして、打ち所が悪く、その女の子は、亡くなってしまった……」
――止めてくれ!!これ以上は聞きたくない!!まだ知るだけの覚悟はオレに無いんだ!!!!!
「その女の子の名前は――――」
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「では、これにて本日の会議を終了といたします!!本日の議題の決定に関しては、二日後に村長より発表していただくこととします!!」
こうして、長かった会議は、ついに終わりを迎えた。辺りでは緊張の紐がほどけたのか、伸びをしたり大きく息を吐いたりしている。
結局今日の会議の結果はあさってまでお預けになった。今日の話し合いで出た意見を総合的に判断して、村長が今後どうするかを決めるらしい。
途中、5年前にも子供たちだけでやぐらを建てていたと言う事実が見つかって、混乱もあったが、まあ、妥当な落とし所だろう。
――それより、もう疲れた。帰って寝よう……
すれ違った清水の両親や泰造おじさんに軽く会釈をして、足早に会議室を去った。
帰り道は一瞬だ。気づくと、もうそこは自宅の布団の上だった。そこで目を閉じて寝ようとする――けど、それでも一向に眠気は訪れない。何かが胸の中で暴れていた。
30分くらいたっただろうか……その時、携帯の着信音が鳴り響いた。
「もしもし」
電話に出てみると、相手は朝に引き続き、村長だった。
オレはてっきり今日のことでお礼を言われるか、そういった内容の電話だと思っていた。けど、実際に応答ボタンを押し、聞こえてきた声は予想以上に固くて強い声だった。
次に悪い予想。早くも作業を中止する方向性で決まったのを伝えようとしているのか。
けれど結局、どの予想も外れだった。
村長が伝えた用件はこうだ。「やぐらの建設を中止するかどうかの、決定権をすべてゆだねる」と――
――思ってもみない申し出。
俺の中で暴れていたモノたちは、いつのまにか暴れるのをやめ、熱く、熱く燃え上がっている。
今回こそ、オレのすべてをかけて最後までやり遂げると……
村長は、期限の二日後までゆっくり考えていいと言ってくれたけど、オレの気持ちは最初の言葉を聞いた時から決まっていた。
――ん?
電話を終え携帯を閉じると、間髪いれずに携帯が、今度は短い着信音を鳴らした。
携帯を開き画面を確認すると、案の定メールの通知。差出人は佐々原だった。
肝心の内容は、『大事な話があるから、今からどこかであえないか』ということだった。




