回想~4~
「んー!!腹減ったー」
隣ではさっきまで黙々と作業を続けていた中島が、お昼ご飯を今かと待ちながらノビをしていた。さっきまであんなに集中していたのに、昼ごはんの知らせを聞いた瞬間に一気に昼飯モードだ。
「でも、なんか悪いなー。女なのに私だけご飯の手伝いをしてないなんて……詩織はしっかり働いてるってのに」
佐々原はせっせと働く女性陣を見つめながら申し訳なさそうにつぶやく。
「いいんじゃない?ほら、適材適所って言葉もあるし、佐々原は俺たちと同じ大工仕事してた方が効率いいよ」
――と、佐々原を励まそうと思い、こんなことを言ってしまった。そのちょうど言いきったところで気付く……
「へえ……それはつまり私は女子と一緒にお料理するより、男たちに混じってトンカチ振り回してる方がお似合いってわけ……?へたれ航希のくせに言ってくれるじゃない。ねえ……?」
言わなきゃよかった……
佐々原に男っぽいとか力持ちとかは禁句だと言うのに……
今すぐ弁明しないと本気で佐々原にボコボコにされかねない。どうにか適当な言葉を探して謝らなければいけない。それなのに……
「いやあ、でも佐々原の活躍はすごかったぞ?佐々原は清水の持てないような重い材料をひょいひょい運んでくれるから、作業のペースもすごく速くなって――」
このめんどくさい場面で、空気の読めない男――中島が口をはさむ。俺の一言だけならまだ、謝れば済んだものを、こいつは取り返しのつかないところまで怒らせてしまった。
だが困ったことに、本人はからかう気はさらさらない。
純粋にほめているのだ。けれど、そんなの中島の考えなどお構いなしに、やっぱり佐々原の怒りは爆発した。
「あ・ん・た・は私をゴリラとでも言いたいのかー!!なあ、周平ぃ!!!!」
佐々原の最後のスイッチが入り、足元に落ちている巨大な木材を持ち上げる。そして、あろうことか、それをひょいと中島の足元まで投げつけた。
そんなだから自分が女らしくないと言われるのが分からないのだろうか……
こうなればもう手がつけられない。中島は天然だから火に油を注ぐし、佐々原の炎はどこまでも燃え上がる。
これを止められのは――
「みんなー!!ご飯できたよー!!一緒にたーべよ!!!!」
その声を聞き、佐々原も中島もピタっと動きを止める。
そして険しい顔を一変、ニコニコ笑顔になってその声の主の元まで駆けだした。俺もその二人の後に続き駆けだす。
俺たちが駆ける先にいるのは一人の女の子。
その子は笑いながら、俺たちに向かって必死に手を振っている。
――園原 詩織
俺たち4人グループの一人で、俺たちの大事な親友の一人だ。
「もう、二人はまたケンカしてたの?ダメなんだよ、ケンカしちゃあ。わかってる!?」
園原はぷっーと顔を膨らませて二人を怒る。
が、全くもって迫力がない。怒ってるのかどうかすらわからない。
けどそれでも、佐々原も中島も本当に申し訳なさそうに園原に謝って「もうしないから」と約束していた。
まあ、何度目かもわからないような約束だが……
「うん。ならいいけど……」
と言っても、さっきのように二人が園原の前でケンカしたことは今までで一度もない。ケンカになりそうな雰囲気になると、園原がいつもきまって泣きそうな顔になるから、すぐに一緒になって園原をなだめるんだ。
俺たちは園原には敵わない。いつもニコニコ笑って俺たちのそばにいるだけなのに、俺たちにとって誰よりも大切な存在になっていた。
「そんなことよりご飯食べよ!!みんなで一生懸命作ったんだよ?」
園原は先導するように、駆けながらお昼ご飯の場所まで案内した。
「おー!!おにぎりだ!!」
「えへへー。頑張って握ったんだよ?あとあと、あっちのトン汁の具を切るのも手伝ったんだよ!!」
「おお!!立派なおにぎりじゃないか!!お父さん、さっそくもらっていいかな?」
どこからか突然園原のお父さんが現れる。ずっと自分の娘たちにの手料理を楽しみにしていただけに、もう待ちきれないといった様子だ。
「だめー。みんなが先なの!!お父さんはみんなが食べた後―」
「そ、そんな。実の父より友達の方が大事なのか……」
さっきまでの喜びはどこに行ったのか、一気に落ち込んでしまう……が。
「お父さん、私もおにぎり作ったの……野菜は切ってないけど、おにぎり、食べて……?」
足元に、そんなかわいそうな父親に救いの手を差し伸べる女の子がいた。
「奈央……!!ありがとう、ありがたく頂戴するよ」
今度はまたこれ以上ないくらいに顔を輝かせて、園原のお父さんはもうひとりの娘にお礼を言った。
「ねえねえ、コウくん。作業はどんな感じ?お祭りに間に合いそう?」
園原は急にまじめな顔になって聞いてきた。きっと自分ひとりだけこっちの作業に参加出来てないのを気にしてるんだと思った。
「うん、順調だよ。だけど、今年はちょっと張り切り過ぎちゃって、おじさんたちが言ってたよ」
「へえ。じゃあ、コウ君たちのおかげだ!!コウ君たちが頑張ってるから、みんなも張り切ってるんだよ、きっと!!」
園原は自分のことのように、本当にうれしそうに笑いながら喜んでいた。
「だったら、いいな……」
「ねえ」
「うん?」
園原は依然として笑顔のままだ。
「夏祭りまで、あと一週間だね!!」
「うん」
隣では、泰造おじさんをはじめとしたこの村の男の人たちが、奈央ちゃんをはじめとしたこの料理を作ってくれた女の人たちが、本当に楽しそうに、もう一週間先まで迫った夏祭りを見つめていた。
「今年の夏祭り、コウ君とシュウ君とミキちゃんと……4人みんなで楽しもうね……!!」
「――うん!!!!」
強い日差しが初夏の終わりを告げている気がした。
年に一度しかない、それでいてどの年よりも楽しみな夏祭りがすぐそばまでやってきている。
今までで一番楽しい瞬間にしよう、そんな決意を込めて俺も園原に負けないくらいのめいっぱいの笑顔で返した。




