第3章(4)
「あ、やっと来た!!」
やぐらのところでずっと待たせていた女の子たちが両手を上げて歓迎する。
「どうしたの?大丈夫そう?」
みんなは一斉に心配そうな顔をして聞いてくる。少しでもその心配を和らげられるように、努めて表情を作った。
「うん。ちょっと翔太君が足をくじいちゃったみたいなんだ……今日一日は一緒に作業できないけど、たぶんすぐ良くなると思うよ!!」
「う、うん。わかった……」
しぶしぶといった表情ながらも、一応納得した反応を見せてくれる。
そんな反応にひと安心しながらも、今後の作業の予定を考えるとそういつまでもほっとしてもいられない。
夏祭りの開始まで、あと一週間と少し。当初の予定よりも少し作業内容を拡大してしまったせいもあって、あまりゆとりのある状況とはいえない。
それを考えると、今日はここで作業を終わらせるというわけにもいかなかった。
「よし!!じゃあ、今日はこの飾りつけの作業だけやって終わりにしよう!!翔太君はいないけど、やりかけのだけ終わらせちゃおう」
「「「はーい」」」
さっきまでの不安な表情もなかったように、女の子たちは元気よく返事をする。
子供の切り替えの速さに驚きつつも、今回はそれに助けられたなと大人しく感謝した。
「俺たちはどうすればいいのー?」
手持ちぶさたそうにぴょんぴょんと跳ねながら、将大君が聞いてくる。隣にはいつのまにか海斗君もいた。
「ああ、そうか。じゃあ、悪いけど翔太君の様子を見てきてくれる?同じ男の子同士だし」
「オッケー!!わかったー!!」
そう言い終わるかどうかのところで二人は向こうの休憩場所の方に走っていく。
走っていく二人の背中が見えなくなるのを確認して、俺は一人こっそり深呼吸をして心を落ち着ける。
「よし……!!じゃあ、作業を再開しよう!!」
「「「おー!!」」」
掛け声をかけると3人は、待ってましたと言わんばかりに紅白幕を持ってあっちこっちに走りまわる。長い布に絡まりながらも、一生懸命に作業をしていた。
それを見て苦笑いしつつ、怪我をさせないための監督業務を思い出し気を引き締める。
「そっちのはじを持ってて!!今当ててる場所から動かさないようね」
――俺達は作業を続ける。
――すぐそこまで迫っている夏祭りのために……
それから30分ほどたっただろうか……
俺たちはあれから黙々と作業を続け、予想していた以上のペースでやぐらの装飾の作業を行った。
本日のノルマ達成まであと少しだ。もう10分ほど作業を続ければ終わるだろう。
だが……
そう思った瞬間、小さなしずくが肩をたたいた。
「ん、雨……?」
反射的に空を見上げると、ついさっきまで綺麗な青色だった空はいつの間にか灰色に変わっていた。
「困ったな、あと少しで終わりだって言うのに……」
俺が突然の雨と言うアクシデントに頭を悩ませている間も、子供たちはそんなこと気にせずに黙々と言われた作業をこなしていた。
雨脚は少しずつ強まっていく。いよいよ作業に支障をきたすほどにまでなってしまっている。このまま作業を続ければ身体が冷えて風邪をひかせてしまうかもしれないし、思わぬ怪我だってあるかもしれない。
だけど今ここで作業の中断を告げれば、間違いなく子供たちのやる気に水を差す。
きりがよくなるまで後少しなのだから。
「どうしよっかな……」
一度みんなの様子を確認しようと、元気にやぐらの上で作業をする子供たちに目を向ける。
雨の中、せっせと働く子供たちを見つめる。
――その時、それは来た。
言いようのない不安。得体のしれない吐き気。
ただの小雨だ。それほどまでに心配する必要はない。
そのはずなのに……
なぜか子供たちのことが無性に心配になって体が勝手にやぐらの方に向かう。
――子供たちの無事を確かめたいかの様に。
「みんな!!雨が降ってきたから、いったん屋根のあるところに――」
みんなを避難させようと発せられた言葉も、無情にもそこで途切れた。
やぐらの上で作業をしていた一人の少女が、雨で滑りやすくなった木の上で、足を滑らせたことによって……
「……ッ!!」
それを確認して身体は一気に加速度を増す。
だが、そこで急に世界が反転した。
その後のことは知らない。
ただ、そこで俺の世界は、真っ暗に落ちていった……………




