第3章(2)
『これ以上手伝わない方がいい……』
昨日佐々原が言った言葉を反芻する。
しかし、何度頭の中で繰り返しても、佐々原の言いたいことは分からなった……
いや、実のことを言えば、少しは心当たりがあった。
この手伝いを始めてから、少しづつ作業が完成に近づくにつれ、言いようのない不安が心の中に広がっていくのを感じていた。
きっとこの不安は、佐々原の伝えたいことと関係していることだって言うのは、どんなに鈍い俺だって直感している。
「はあ……」
なにもする気になれずに、気だるさだけが体を支配する。
それでも、後は惰性でいつものように身支度を整え、かばんを背負い学校へ向かう。
自転車をこいで中島の家の前に着くが、そこで少しためらう。いつものようにチャイムを鳴らすことが少し気が引ける。
すると、チャイムを押すまでもなく中島が家から顔を出す。
その顔はいつも通りの顔だ。こいつはいつだって自分の感情をかくしてる。長い付き合いだけど、その隠された顔を見ることは未だできない。
「おっはよ」
「おう、おはよ……」
中島がなんでも無い顔をするなら、俺もそれに合わせる。ここ最近、ずっとこんな感じだ。
「ほんと、今日も朝っぱらから暑くてまいっちまうなあ」
「そうだな。たった家からここに来ただけで汗びっしょりだよ……」
「たっく、これでまだ7月中旬なんだから困りもんだよ。これからまだ暑くなるんだぜ?」
なんて他愛もない話をしながら学校へ向かう。
うん、いつも通り。
通学路の景色だって昨日までと何の違いもないし、庭の植物に水をやる老人の生活パターンだって変わらない。
たった一日で変わってしまうことなんて、何一つありやしないんだ。
――そう信じていたかった。
「おっはよー」
「はよ……」
教室のドアを開ける。実際はドアを開けるのは中島で、俺はその後ろをついて入るだけだが……
「うーす、おはよー!!」
教室に足を踏み入れ中を見渡す。今まで通りならこのまますぐに自分の机に向かっていくだけだった。けれど、最近の俺は違う。このタイミングで一人の男子生徒がいるのを確認する。
だが、今日に限って、その彼がいるのを確認することができなかった。
「あれ、浅井のやつはどうした?」
いつもは朝早くに来ているはずの浅井がいない。俺の知る限りでは、俺たち後に来た記憶はない。
「ああ、あいつなんか熱出したって言ってダウン。バカも風邪ひくんだな」
クラスメイトは笑ってそう告げる。
あいつと仲良くなってから初めてのことに少しさみしく感じて、それと同時に少し不安になった。
あいつならこの微妙な気分を吹き飛ばしてくれる。そう心の中で思っていたんだ。
その後、授業中も休み時間も退屈だった。
放課後の作業のことばかり気にしていて、授業内容なんて頭に入ってこなかった。
なにをするにも気力がわかなくて、朝からまったく前進出来ていない。むしろ、放課後が近づいてきて頭のもやが増えたぐらいだ。
「おい、清水!!今日は一緒に行こうぜ!!この後何も用事ないからさ」
「う、うん。わかった」
我ながら元気のない返事だと分かっていたが、これが今の限界だった。
けれど、少なくとも今日は作業に行かないという選択肢が消えたのだから、少しは気が楽だった。
そして、あっという間もない。
午後の授業も一瞬で終わり、放課後がやってきた。




