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Memories of Tear  作者: 琴羽
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第1章(6-2)

 その後紆余曲折を経て、無事本屋に辿りつきました。大変お見苦しいほどに悩んでいたため、道中はカットしました。

 「はあ、やっと着いた……こんな近場に来ただけなのに、なんだよこの疲労感は……」

 お世辞にもきれいとは言えないような店内に入り、お目当ての本を探す。見た目はぼろいが、意外に品数は充実していて、なおかつ立ち読みもできるため、若い世代が利用することが多い。

 だが、今は店内に客は俺一人だった。そのため、遠慮なく立ち読みをして、時間を潰そうとした。

 立ち読みを初めて5分もたたないうちに、何かが俺の立ち読みを引きとめた。

「あんまり立ち読みはしてはいけないと思うのだけど……」

いまどきそんな固いことを言う奴がいたのかと、感心しつつ視線を漫画から声の主に向ける。

見てみると、なんと引きとめた主は、神坂だった。神坂は私服姿で、静かにこちらを見つめていた。

「お、おお。ごめん……」

突然のことで少々うろたえながら、素直に本を棚に戻す。

「えっと、神坂さんは何を買いに来たの?」

よりにもよって、こんなところで神坂に会うとは……心の準備が全くできてないよ。

「今日はちょっと参考書を買いに来ただけ」

そう言って、手に抱えている袋を見せる動作をする。これから察するにもう用事は済んだあとらしい。

だとしたら……

「今日このあと開いてる? この前の約束今日でもいいかな?」

そのセリフは意外にすらすらと出てきた。中島たちとの練習の時はあれほど緊張したのだが、今回はそんな気恥ずかしさを感じることはなかった。

「うん、ありがとう。今日なら大丈夫」

そう言って、少し微笑んで見せた。

それは今まで見せたことのないような表情で、それを俺に見せてくれたことがうれしかった。

どうやら俺はこの短期間でずいぶん神坂に入れ込んでいるようだ。まさか、惚れちゃった? いやまさか……俺はもうちょっと明るいタイプがいいはずなのだが。

「じゃあ、ちょっと待ってて。これ買ってきちゃうから」

そう言って俺は、レジのおばあちゃんに読んでいた漫画を渡す。

「ふぁい、ほんふぁくふぃびゅうふぇんれす」

…………なんて?

「ふぉんふぁぶふぃじゅうぺんふぇる」

思いだした。そう言えば、このおばあちゃん入れ歯取れてるんだった……

「ふぉんふぁくふぃふぃふぃっふふぇん!!」

「あ、はいすいません!!」

どうやら急かされたいたいだったので、取り合えず絶対に足りるである金額をレジにおいて、事なきを得た。

「じゃ、じゃあ行こうか……」

「うん……」

ずいぶん飛躍したものだ。ついさっき家を出て、ほんの少し前に奈央ちゃんからかわれたのだ。

それが何をどうなって神坂とお茶(お茶はお茶であって、断じてデートではない)をすることになっているのだ。

世の中の真理とは摩訶不思議なものだ。

「本、持つよ……」

「大丈夫、私の買ったものだし……」

「いいよいいいよ、俺が急に誘っちゃったんだから……」

「そ、そう? じゃあ、お願いしようかしら……」

「うん……」

「あ、ありがとう……」

「…………」

「………………」

なんというか、ものすごい“…合戦”が繰り広げられている。

「僕口下手なんだよね……」

「なにおう!! 私の方が口下手よ!!」

「何だと!! 僕の方が3倍は口下手ですー」

「なんですって!? だったら私はあなたの10倍口下手よ!!」

「んな!? だったら僕は100倍!!」

「じゃあ、私は千倍よ!!」

…………などと言わんばかりの状態である。

正直自分から誘っておいてこれはきつい。中島から会話テクニックを習っておくべきだった……

このままでは愛想を尽かされる。男の名誉にかかわる事態だ。

何か気のきいた、場が盛り上がるような場台を提供せねば!!

よし、行くぞ!!

「風に吹かれてあの雲は、いったいどこに向かおうとしてるのだろうか……」

んーと、これ盛り上がる? これで盛り上がれる奴なんていんの??

「南風だから、北の方じゃない?」

まじめな回答ありがとうございます。

「そ、そうだね……」

駄目だ、やっぱり会話が途切れる。もっとなにかいい話題はないのか!?

あんまり女子と会話しないからわかんないよ!!

「今僕たちをなでるこの風は、いったいどこから生まれたんだろうか……」

だからなんでこう感じの質問なんだ。もっと趣味を聞くとかいろいろあっただろ!!なんで無難なのを選ばなかった!!

「それは高気圧でしょうね。風は高気圧から低気圧に空気が移動することによって起こるから……」

またもまじめな回答ありがとうございます。

けど、もう少し話が続けられそうな返答がよかった……

会話を続けようと、ここで俺が「へー、そなんだ。初耳だよー」などと答えれば、ばか丸出しになってしまう……

会話は続くかもしれないけど、それはいやだ。

もとはと言えば、こんな話題を出した俺が悪いのだが……

「あ……」

次の会話内容を探しながら歩いていると、突然神坂が声を漏らした。

先ほどまで前を見ていた目線は、横を向いている。

その目線先を追ってみると、あろうことか先ほど逃げ切ったはずの少女、園原奈央がいた。

 「バ、カな……」

 あまりの出来事に言葉を失う。やっとの思いで逃げ切ったはずなのに、さらに嫌な状況になって再び出会うことになってしまった。

 今は隣に神坂がいるんだ。なにかからかわれたりしないか心配だ。

 「あれ?神坂さんに、航希さんじゃないですか!!数分ぶりですね」

「こ、こんにちは……」

神坂は奈央ちゃんと目が合うと、相手が年下にも関わらず丁寧にお辞儀をして挨拶する。

一見するとただ礼儀正しいだけの行動に見えたが、わずかに違和感を感じた。

「やあ、また会うとは奇遇だね……」

「すいませんね、お楽しみのところお邪魔しちゃって」

すいませんと口では言っているが、表情は明らかに謝っていない。顔がにやにやするのを隠しきれずにいる。

「うん、じゃあ急いでるから……」

一刻も早くこの子のもとから離れたい。適当に話を切り上げて去ることにする。

だが、それを許してはくれなかった。

「待って」

それを拒んだのは意外にも神坂だった。

なにやらもう少し奈央ちゃんと話がしたかったらしい。

「ねえ、ご両親は元気にしてる?」

神坂が聞きたかったことは、そんなことだった。

大人同士の会話なら社交辞令としてよく聞くが、およそ女子高生と女子中学生に会話に出てくる内容ではない。

神坂が奈央ちゃんの両親をよく知っているなら話は別だが……

「えと、普通に元気ですけど……この間も家族3人で旅行してきたばかりですし」

園原家は家族仲がいい。特に奈央ちゃんは一人っ子だから、余計に多く愛情が注がれている。

「そう……ごめんね、今のことはあんまり気にしなくていいから」

ばつが悪そうに神坂は目をそらす。

「ごめんね、待たせて……」

神坂はくるりと踵を返して来た道を引き返そうとする。奈央ちゃんのいない道を選ぶかのように……

そんな神坂を見て、俺は奈央ちゃんと二人で首をかしげる。

神坂は奈央ちゃんのことが苦手なのだろうか。いや、苦手とも違う。どちらかと言えば、引け目を感じているような……

俺の残念な観察眼ではこれ以上の情報は読み取れなかった。



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