9 報告
「次はきっと、お姉ちゃんと来れるよね?」
「ああ、きっとそうだとも」
屋台からの帰り道、ようやくマイカは泣き止んでいた。アウィンは、それまで根気強く待っていた。
「でも、本当にこんなに買ってもらってよかったの?」
「もちろんだ」
アウィンは微笑む。マイカが喜びそうなお菓子を最初のものの他にも買ってやっていた。それはたいした代金でも量でもない。それでも、マイカには驚くようなものだったらしい。
今も、マイカは手にお菓子を持っていた。それで少しでも喜んでくれるのなら、辛いことがある現実をほんのひとときでも忘れてくれるのならば、とアウィンは思っていた。
もしも、あの屋敷に怪しいところがなかったとしても、家族と離ればなれになっているだけでも幼い子どもにしたら辛いのは変わらない。
「ありがとう。アウィンさん」
マイカが笑顔を見せてくれる。辛い現実が変わらなくとも、マイカは笑える強さは持っている子だ。そう、アウィンは思った。
「家まで送ろう」
「うん! 屋台でお菓子を買ってもらったなんていったら、お母さんびっくりしちゃうよ。あとね、これはお母さんの分」
どうやら、一人で食べるためではなく母親の分も考えていたようだ。
マイカの家の前まで辿り着くと、アウィンは背後に自分を見ている誰かの気配を感じた。振り向くと、物陰にゼオの姿があった。なにか報告することがあるに違いない。
「またな」
「もう行っちゃうの?」
「少し行くところがあってな。大丈夫だ、また来る」
「母さんにもよろしくな」
「うん!」
マイカは元気に答えて、家の中に入っていった。その姿を見届けて、アウィンはゼオのいる方へと向かった。
「どうだった」
「はっ。やはり、あの屋敷。ご隠居様が思ったとおりでございました」
「そうか」
「ただ、申し上げにくいのですが……」
「なんだ? 申せ」
「あの屋敷の主を殺して乗っ取った魔族が、娘たちを雇うと偽って集め喰っているようなのでございます」
「なに? 本当か? それは俺が禁じたはずではないか」
「はい。そうなのですが……」
アウィンの心情を察してか、ゼオは辛そうに答える。
アウィンはカッと頭に血が上った。
「俺が積み上げてきたものを無にするつもりか」
「……」
「では、マイカの姉はもう」
「いえ、それを探ろうとしたときに気配に気付かれて、こうして戻って参りました」
「そうか。ご苦労だったな」
「いえ」
ゼオにどうしてその場でどうにかできなかったのか、もしもまだ無事な娘たちがいたらなぜ助けなかったのか、とはアウィンは言わない。偵察してくることこそが、ゼオの任務だ。ゼオまでが無事に戻ってこなかったら、真実がわからなくなる。
「それと」
「それと?」
「あのマイカとかいう子どものことも、話しておりました」
「なんと言っていた」
「姉のことで、この屋敷のことを怪しんでいると。なにか嗅ぎつけられる前に始末するようにと」
「なに!?」
アウィンは、マイカの家の方へと振り向く。狙われると知った今、あの家にいるとわかっていても気にならずにはいられない。少しでも目を離さない方がいいかもしれない。
「失礼」
マイカの家のドアをノックすると、マイカの母が出てきた。
「あら、アウィンさん。今日はマイカのためにありがとうございます。あんなによくしていただいて」
頭を下げるマイカの母越しに家の中を見ても、マイカの姿は無い。
「マイカは?」
「ついさっき出ていきましたよ。このお菓子をお姉ちゃんにもあげるんだって。あの子は、言い出したら聞かないものですから。飛び出していってしまって」
「しまった!」
「え?」
アウィンの取り乱し様に戸惑うマイカの母を尻目に、屋敷に向かって走り出した。
「ここを動くなと言っておくべきだった。見ておくべきだった!」
アウィンは歯噛みするが、今更言っても仕方がない。




