7 屋台
「こっちだよ! こっち!」
マイカが手招きする。
「わぁ」
案内してくれると言いながら、マイカは自分の方が目をキラキラさせて屋台を見ている。確かに、この街の屋台は遠い昔見た祭りの出店のようでアウィンも心躍るものがあった。こんな場所に来るには一体何年ぶりなのか、もうアウィン自身も覚えていない。
気付けば目頭が熱くなっている。
「アウィンさん、どうしたの?」
マイカに呼ばれてアウィンは我に返る。なんだか、とても昔のことを思い出していた気がする。
「なんでもないんだ。少し見て回ろうか」
「うん!」
マイカが嬉しそうに笑っている。
「見て回るだけでも楽しいんだよ」
「そうだな」
そう言いながらも、マイカは甘いものを売っている屋台を物欲しそうに見たりしている。
「買ってやろうか?」
「本当!? で、でも、高いでしょ? ダメだよ」
「少しくらいなら、大丈夫さ。一つ、もらおうか」
「あいよ!」
屋台の人が、マイカの小さな手にお菓子を渡してくれる。
「い、いいの?」
目を輝かすマイカに、アウィンは頷く。
元魔王だったアウィンにとってはたいした金額ではない。それなのに、マイカは夢でも見ているような顔で喜んでいる。
とはいえ、かなりの長い間、自分で金を払うということがなかったアウィンだ。首都でゼオが出てきて、なんとかしてくれたことを思い出す。マイカの手前、今回は失敗しなくてよかったとほっとする。
アウィンはマイカのような子どもが、いつでも好きなものを食べられるような世の中を作りたかった。その礎は築いたつもりだ。
「まだ退くのは早かったか?」
思わずアウィンは呟く。
これからそんな世の中になっていくことを望んでいるが、それをこれからつくっていくのはアウィンの座を引き継いだ次代の魔王と人間界の為政者たちであるべきだ。争いを収束させたのは自身だとしても、未来は若者たちが作っていくものだとアウィンは思っている。
「なにか言った?」
「いや、うまいか?」
「うん!」
アウィンは自分がやってきたことが正しかったのか。それを自らの目で見たくて、こうして外に出たのかもしれなかった。
「ねえ」
マイカが、きゅっとアウィンの服の裾を掴む。
「どうした?」
「私、お父さんのこと全然覚えてないの。私が産まれてすぐに戦争に行っちゃったから……」
「そうだったのか」
「だから、さみしくないって思ってた。でも、お父さんがいたら、こんな感じ、だったのかな」
アウィンを見上げて、マイカが言った。その姿に、アウィンにはこみ上げるものがあった。アウィンは答えた。
「それにしては歳を取り過ぎていると思うがな。どちらかといえば、おじいちゃんだぞ。俺は」
ははっとアウィンは笑う。
「でも、なんだかお父さんみたい」
ふふふ、とマイカも笑う。だが、それからすぐに顔を伏せてしまった。それから、ぽつりと言った。
「大丈夫なの。最初からいなかったら、大丈夫だったの。でも、どうしよう。お姉ちゃんまで帰ってこなかったらどうしよう……」
マイカの目から、涙がぽたりと地面に落ちた。昨日のように泣きじゃくることはなかったが、マイカは静かに泣いていた。
アウィンは一瞬迷ったが、そっとマイカの頭に手をのせて、撫でてやった。その小さな人間は、触れただけで壊れてしまいそうだった。
「大丈夫。大丈夫だ」
そんな意味の無い励ましは、なんの慰めにもならないとわかっていたが、アウィンはマイカが泣き止むまでそっと頭を撫で続けた。




