6 怪しい屋敷
「ふむ」
アウィンはマイカの姉が使用人として住み込みで働いているという屋敷の見える場所に立っていた。もちろん、門番に気付かれないように物陰にいる。
大きな屋敷だ。確かに、大勢の使用人を雇っていると言われても納得できる。
「だが、それにしては……」
アウィンが呟いたとき、なにかの気配を感じた。
「ゼオか」
「はっ」
いつの間にか、ゼオが隣に立っていた。やはり、ここにもついてきていたらしい。
「あの屋敷になにか?」
アウィンが屋敷の方を伺っていたことも把握している。さすがはアウィンの影だ。
「少し気になることがある。あの屋敷に働きに行った娘たちが誰一人として帰ってこないそうだ。何事もなければいいのだが」
「あれは、この街ではかなりの有力者の屋敷と聞いております」
「さすがだな、もう調べはついているのか」
「いえ、まだ詳しいことは。ただ、街のことをざっと調べていただけでございます」
「ふむ。では、あの屋敷のことを調べてくれるか? どうやら、家族であっても使用人になったら会わせてももらえないらしいのだ。おかしいと思わないか? それに、それほどの人数があの屋敷の中で働いているような気配がしないのだ」
「それは妙でございますね」
「頼む」
「はっ」
ゼオが音も無く姿を消す。
「ただの思い過ごしだといいのだが……」
一人残ったアウィンは眉間に皺を寄せて呟いた。門番の態度を見た限り、あまりいい予感はしない。
それに、マイカのあの姿を見てしまっては、放っておくことはできない。もしも、あの屋敷におかしなところがなかったとしても、マイカを姉に会わせるくらいのことはしてやりたかった。
住み込みで働く使用人は、なかなか家には帰れないということくらいはアウィンでも知っている。しかし、同じ街の中に住んでいるのに顔も見せられないというのはさすがにおかしい。誰も帰ってきていない、というのも気になるところだ。
そこについては、ゼオが調べてくれるだろう。元々潜入捜査などが得意なゼオだ。あとは報告を待つだけだ。
アウィンがここにいて屋敷の者に不審に思われては、ゼオの行動に支障が出る。まずはここから立ち去ることにした。
屋敷から離れてアウィンは街の様子を観察する。首都ほどの賑わいは無い。道行く人に貧富の差も見て取れる。確かに、貧しい人がいい働き口があると勧められたらそこに行くしかないと思ってしまうのもわかった。
「あー! アウィンさんだ!」
「おお、マイカか」
「いきなり出ていくって行っちゃうんだもん。どこに行ったかと思った」
「すまんすまん。あまり長居するのも悪いかと思ってな」
アウィンは屋敷のことが気になったとは、口には出さなかった。
「ね、アウィンさんは旅人なんでしょ?」
「ああ、そうだが?」
「じゃあね、私が案内しようか」
「それはいいな。よろしく頼む」
「行こ!」
アウィンを案内するために探してくれていたのだろうか、マイカは嬉しそうに先に立って歩き出した。
「どうしてそこまでしてくれるんだ? わざわざ追いかけてくれたのか?」
つい、アウィンは聞いてしまった。
「だって、アウィンさんは私の話ちゃんと聞いてくれて、力になってくれるって言ってくれたでしょ? 私もできることしたいなって思って。アウィンさんはここのことあまり知らないでしょ? だから、案内するの!」
「それはありがたいな」
姉のことはいいのか? とは言わない。
子どもは少しでも楽しそうにしてくれている方がいい。少しの間でも辛いことを忘れて、笑っていてくれるのを見るのはいいものだ。
ただ、解決が出来るのならもっといいとアウィンは思っている。この先には、あの屋敷がある。もし、アウィンが見つからなければ、マイカはまた姉を心配して、そこに行こうとしていたのかもしれない。
「あのね、あっちにはいつも屋台が出てるんだよ。見るだけだけど」
そう言って、マイカは行き先の方向を指さす。
「うむ。行ってみるか」
あの屋敷のことが気にはなったが、それはゼオに任せてある。今はマイカの側にいようと、アウィンは決めた。




