5 食卓
アウィンは出された食事を味わって食べた。
「馳走になった。こんなに温かい食事は久しぶりだ」
そして、心から満足して言った。
「お口に合えばよかったのですが」
マイカの母が恐縮する。
「いや、本当に旨かった」
確かに、魔王城での食事とは比べるべくもなかった。だが、温かい質素な食事はそれとは全く違う、心地よさがあった。
「お姉ちゃんもいれば、もっと美味しいよ」
「これ」
口を挟んだマイカを、マイカの母がたしなめる。
「確かに、家族が皆揃っている方がいいな」
「うん!」
アウィンの言葉に、マイカが力一杯頷く。もう死んでしまった父のことは言葉に出さない強い子だと、アウィンは思った。
「もしよかったら、そのマイカの姉さんのことを教えてくれないか?」
「いえ、そんな……。見ず知らずの方に……」
「アウィンさんていうんだよ。私のことを助けてくれたから知らない人じゃないよ!」
「そうだな。まだ名乗っていなくて申し訳ない。俺は旅の者でアウィンという」
「アウィンさん、ですか」
「ああ、ただの旅人だがな。力になれるかもしれん」
「本当!?」
マイカの母ではなく、マイカの方が食いついてくる。
「アウィンさんを困らせてはダメでしょう、マイカ」
「困っているのは、おぬしらの方だろう? さっきもマイカには話したが俺は困っている人を見ると放っておけない性分でな。話してみないか? マイカにも姉が帰ってこないとは聞いたが、詳しく教えてくれるとありがたい」
「そんなことを話したの?」
「だって、聞いてくれるって言うから! お母さんも、お姉ちゃんのこと言っても聞いてくれないでしょ? 近所のおじちゃんもおばちゃんも、そのうち帰ってくるって言うだけで誰も聞いてくれないし!」
「だって、ねえ。あのお屋敷に行けば食べ物も寝るところにも困らないと言うからね。きっと、お屋敷の暮らしが気に入っているんだよ」
「だったら、なんでお姉ちゃんに会いに行った私を追い返すの? そんなにいいところだったら、会わせてくれるはずだよ」
「それは……」
マイカの母は口ごもる。それから、言い辛そうに言った。
「……でもね、私たちがこうして食べていけるのは、お姉ちゃんが働きに行ってくれたおかげなんだよ。支度金として、お金が出たからね」
「なるほど、そういうことだったか」
アウィンはようやく合点がいった。
「すみません、こんなことをお聞かせして」
マイカの母は申し訳なさそうに俯いた。
「いや、仕方ない。そうでなければ食べていけなかったのだろう」
世界が平和になったからと言って、すぐに貧しい人や困っている人たちが全て救われるわけではない。心が痛くなるようなことだが、それが現実だ。
「と、いうことは、マイカの言っている近所の人たちというのも、そうなのか?」
「……はい」
「そうか、それでマイカの話を聞くわけにはいかないというわけだな」
「あ、あのっ。でも、本当に娘は、きっとあのお屋敷の中で幸せに暮らしているに違いないんですっ。これはマイカがただ姉のことを心配しすぎて、気にしすぎているだけというか……」
必死な様子で、マイカの母は言い訳をするように安心させるような言葉を並べ立てる。だが、本当は自分の娘が心配だということは言わずともアウィンには伝わってきた。
「なるほどな、マイカの姉さん以外にも他の娘たちもあの屋敷で働いているということか」
「はい。若い娘を使用人として雇いたいと。そう言われまして」
「だから、お姉ちゃんも行っちゃったんだよ!」
「うむ」
「でも、でも本当に娘は働きに行っているだけなんです。……そのはずなんです。でも……」
マイカの母は言葉を切って、俯いた。そして、絞り出すような声で呟いた。
「本当は、私も心配で……。でも、他の家の娘さんも同じなんです。それに、お金ももらっていますし、うちだけ騒ぎ立てるなんて……」
「お母さん……」
「ごめんね。本当は私もあの子のことが心配なのに……」
マイカのように激しく泣くことはなかったが、マイカの母の目にも一粒の涙が光ったように、アウィンには見えた。




